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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第2章 Going up Evolution Stage
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16話 雨降地固

「ニンフ、この雨をどうにかしてくれ」

『つまり、あなたは私にこの雨を消してほしいのね。いいわ、やってみるわ』


 10歳ぐらいの女の子の姿をした水の妖精ニンフは、年に似合わない笑みを浮かべながら豪雨の中を物ともせずに宙に浮かび上がる。


『我が名はニンフ。水を操る者。我が力に従いて仮初の主の願いを聞き届けろ』


 ニンフの体が青白く光り、辺り一帯を覆い尽くした。『雨降らしの塔』の上空を覆っていた雨雲が逃げるように散り散りになり、『雨降らしの塔』は太陽に照らされた。レイニードラゴンはいきなり自らの化身とも呼べる雨雲が消えたことに驚きを隠せないようだった。


『なっ……何事じゃ』

 レイニードラゴンは目の色を変えて叫んだ。そんな様子をニンフは気にすることなくするするとノアの元へ戻った。


『ふぅ、これで私の仕事はお終いね。また何かあったらよんでね♪』

 そう言ってニンフは光の粒子となって消えていった。



 『召喚術』で召喚できるものは大きく分けて3つある。一つは召喚獣だ。これは召喚難易度が低く、メリット『召喚術』を持っている限り簡単に召喚ができる。召喚獣は召喚したプレーヤーによってその姿形が違う。初めて使った際にその名前・姿・戦闘タイプを選ぶことができ、それ以降その召喚獣を使っていくことになる。召喚獣のレベルはそのプレーヤーのレベルに依存し、AIの性能は『召喚術』のレベルに依存する。また、召喚獣にはHPとMPが存在し、HPがなくなると消滅する。しかし、HPがなくなったからといって二度と使えなくなることはなく、再度召喚することで復活する。ただし再召喚には長い冷却時間(クールタイム)が存在し、一般的に一戦闘中は再召喚できないといわれている。召喚獣には属性があり、これは『~属性召喚術』の属性に由来する。

 二つ目は、ノアが先ほど召喚したような妖精だ。これは召喚獣よりも召喚難易度が高く、また消費MPも召喚獣よりも大きい。妖精は召喚獣と違ってHPがなく召喚獣よりも多彩なことがこなせ、より大きな魔法を行使することができる。しかし、妖精はプレーヤーの指令をいくつか実行すると消えてしまう。妖精に頼める指令は『召喚術』のレベルによる。妖精にはそれぞれ固有名がついていて、水属性の場合『ニンフ』である。また、妖精はプレーヤーの持つ『召喚術』の属性と合致するものしか召喚できない。

 三つ目は、まだ召喚できるプレーヤーはいないが、精霊である。現在公開されている情報によると、精霊は『召喚術』を極めた者が召喚できるものである。実装されているのは確かであるが、現在使えるプレーヤーはいない。精霊は召喚獣・妖精の良いところを取ったような存在で、HPが尽きるまでプレーヤーを援護し、様々な魔法を使いこなすことができる。時にプレーヤーを庇ったり、敵を殲滅したりすることができると紹介されている。具体的なスペックはまだ公開されておらず、公開されたPVによると精霊として水属性精霊ウンディーネが妖艶な笑みを浮かべながらプレーヤーの傍らで大規模水属性魔法を敵に撃つ姿を確認することができる。


  ノアは『中級水属性召喚術』のメリットを持っているため二つ目の妖精を召喚することができた。妖精を召喚する条件として中級以上の『召喚術』を持っていて、且つ(ジョブ)が『召喚士』やその上級職である必要があるのだった。



「ありがと、ニンフ」


 ノアは消えていったニンフにそう呟くと、大剣を構えなおした。


「厄介な雨は消えた。後は、攻撃を与え続けるだけだ!」


 ノアはしずくを連れてレイニードラゴンへ突撃した。






「これは、ノアがやったのか。……よし。ミドリ、守りの時間はもうお終いだ。行くぞ!」

「きゅ、きゅっうっ!」


 ワースはレイニードラゴンへ歩みながら『口頭詠唱』で魔法を発動させる。


「土を司る精霊よ、我に力を貸したまえ。岩には貫き通す意味を、我には不屈の闘志を、敵には絶望という衝撃を、与えたまえ。ここに魔法を顕現せよ、『ロックストライク』!」


 ワースの杖から飛び出した岩は暴れるレイニードラゴンの眉間に突き刺さった。


「ミドリ、攻めるんだ!」

「きゅーーーー!」


 ミドリは全身を翡翠色に輝かせて突進し始めた。


 『エメラルドチャージアタック』

 これは全身を纏うエメラルドの持つ魔力を使って全身の動きを強化したチャージアタックだ。助走が長ければ長いほど威力は上がっていく。ミドリはワースの命じるままただ前を目指して突進した。






「……何はともあれチャンス」


 テトラはいきなり雨が止んだことに気付き、辺りを見渡した。雨が止んだことに暴れるレイニードラゴンの姿を見つけた。

 テトラは腰元からナイフを取り出して左手で逆手に構えた。右手は忍刀を握りしめてスキルを発動させた。黒に染まる忍刀はその上に青白い光を纏った。

 『短刀』スキル『蒼月』

 メリット『短刀』によって取得できるスキルの中では珍しい攻撃範囲変化型スキルで、『蒼月』は武器の周りを青白い光で包み、刃渡りの1.5倍分まで刃を伸ばす。『蒼月』によって伸びた刃は鋼よりも固く切れ味が良いものになる。持続時間は3分だが、基本的な威力上昇を見込むことができる。発動中は武器の耐久値が下がらないため、硬い相手を切りつける時にも重宝する。

 テトラは暴れるレイニードラゴンへ刃を届かせるのに使っている忍刀のリーチの短さが気になっていた。あまりに接近しすぎても攻撃をもらいかねない状況で、出来るだけ距離を取った状態で攻撃をしたかった。


 テトラはレイニードラゴンへ向かってダッシュし、自分の攻撃範囲に入ったところで左手を煌めかせた。

 『投剣』スキル『燐火』

 走りこんだ状態でも十分に発動でき、かつ高い威力を誇る『投剣』スキルだ。欠点として挙げるなら、このスキルを発動した後投げた手を振り切るモーション上、そのまま次の攻撃に生かすことができないということである。

 テトラの投げ込んだナイフはまっすぐレイニードラゴンの体に突き刺さり、確かにダメージを与えた。テトラは投げた手を体をひねることでうまくしまい込み、回転しながらその勢いのまま右手の忍刀をレイニードラゴンへ振るった。

 『忍刀』スキル『壊斬』

 斬るということにより相手を破壊することを目的とするスキル。斬った衝撃を全身に叩き付けることでダメージを与えるこのスキルは、テトラの全身を使って放たれた。

 忍刀はレイニードラゴンの体を穿ち、その身を引き裂いた。散り散りになった肉体と共に虹色の血潮が飛び散った。






「うらあああああ!」

 ニャルラは片手剣と拳を二刀流のように振るい、暴れまわるレイニードラゴンを攻撃した。


「ノアがやったのかな。まぁ、だとしても俺がやることは変わらないんだけどね」

 ニャルラはにやりと笑みを浮かべながら剣を振るう。レイニードラゴンのプレス攻撃を紙一重で躱し、拳を当てる。纏った風で吹き飛ばそうとするなら剣で切り付けた反動で距離を取る。そうやってニャルラはレイニードラゴンと接近戦を続けた。






 このまま押し切ればワース達の勝利は目前に控えていた。

 だがしかし、その戦いの均衡は突如として崩れた。



『ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 突如レイニードラゴンは今までと違った決死の咆哮をして、その咆哮に周囲にいたワース達は一応に地面に縛り付けられた。


 一部のモンスターが持つ特殊スキル『地縛咆哮(バインドボイス)

 重圧を伴った叫びにプレーヤーは身を竦ませうずくまるしかできなくなる。効果時間は叫んでいる間だけだが、その間はいかなる手段を用いても防ぐことができない。せいぜいメリット『音』を鍛え上げて『耳栓』系スキルを取得していけば対抗しうるスキルを手に入れることは出来そうだ。しかし、この場には抵抗できた者はいなかった。

 『地縛咆哮(バインドボイス)』が終わり、いち早く復帰できたのは『音』を鍛えているニャルラだった。ニャルラは危険を感じてバックステップで後ろへ下がった。続いてテトラやノアも後ろへ下がるが、その時にはレイニードラゴンは次の行動に移っていた。


『がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 レイニードラゴンが叫ぶと同時にレイニードラゴンの体を虹色の雲が包み込み、その雲はレイニードラゴンを守る鎧と、幾重もの刃へ姿を変えた。

 そして、宙に浮かぶ幾千もの虹色の刃は一斉にワース達を襲った。


「ミドリいいい!」

「きゅうううう!」


 ワースがミドリへ叫び、それにミドリは答えるように防御スキルを展開する。ワースはミドリに守られながらレイニードラゴンの決死の攻撃を見た。


「うああああ!」

 ノアは必死に虹色の刃を避ける。どうしても躱しきれないものは大剣で防ぎ弾き飛ばしているが、どうしても数が多い刃をいなすのは至難の業でノアの体を虹色の刃は無残にも切り裂いていく。


「わっ……わおん」

 しずくも必死に避けるもののしずくの毛皮に刻まれる傷はだんだんと増えていった。

 そして、しずくのHPは0になった。


「しずく……!」

 ノアが自分のペットであるしずくが光となって消えてしまったことに茫然としてしまった。そのわずかな隙を狙って虹色の刃はノアの体を切り裂く。


「うっ、わぁああ!」

 慌てて大剣を振るうもののノアのHPは減り続けて0になった。





「くっ」

 その頃、テトラは早く攻撃範囲から抜け出そうとレイニードラゴンの方を向きながらバックステップで距離を取り続けた。自分の動きを阻害しそうなものだけ

を忍刀で切り裂き、その他のものは甘んじて受けた。


 ふと周りに目をやるとノアとしずくが必死に抵抗しているのが見え、テトラは何より自分の身の確保を最優先した。


「テトラ、こっちだ」

 テトラはワースの声に誘導されるように走り抜ける。ワースの隣にはすでに逃げ込んできたニャルラがいて、二人はミドリの盾に身を潜めていた。


「とりあえずこれでも飲んどけ」

「わかった」

「ノア、後ろに下がるんだ!……ダメなのか」


 テトラは運よく後ろに下がることができたが、ノアは虹色の刃に阻まれなかなか動けていなかった。


 そして、しずくが力尽き、ノアも後を追うようにHPを散らした。


「なんて攻撃だよ……」

「広範囲全体攻撃……えげつないな」

「……どうする」


 ワースはレイニードラゴンの残りHPが残り数ドットであることを確認し、杖を振るった。


「魔法で安全に攻める。もう犠牲は払いたくないしな」


 ワースはノアのことを思いながら魔法を紡ぐ。


「行け! 『サンドストリーム』」

 砂を巻き上げる竜巻はレイニードラゴンへ向かって突き進み、虹色の刃を物ともせずにレイニードラゴンへぶつかった。


 攻撃を受けたためなのか、猛威を振るっていた虹色の刃はその力を失い姿を消した。しかし、『サンドストリーム』を喰らったはずのレイニードラゴンのHPは全く減っていなかった。


「……いざ参る」

「俺も、行くぜ」


 テトラとニャルラは全速力で駆け抜け、レイニードラゴンへ武器を振るう。


「『デッドリィダンス』!」

「『アブソリュートスラッシュ』!」


 それぞれスキルを打ち込み、ついにレイニードラゴンのHPは0になった。



『があ……がああっぁぁぁぁあぁぁ……!』


 最後に悔しげでどこか誇らしげな叫び声を上げながらレイニードラゴンはその体を横たえた。






「っ、よし!」

「やった」

「勝ったな」

「いやー一時は全滅するかと思ったよ」

「なんとか倒せた」

「ノアが犠牲になってしまったけどな」

「まぁ、ね。でもでもクリアだね。やったじゃないか」


 ワース達は互いにハイタッチをして勝利を喜んだ。


 ステータスに経験値が加算され、アイテムストレージにそれぞれ報酬とドロップアイテムが追加された。


『取得アイテム:竜種討伐の証×1

        雨竜球×1

        雨竜の鱗×4

        雨竜の甲殻×3

        雨竜の血×2

        雨竜の角×1』




「ふぅ、疲れた」

「……うん」

「とりあえず戻ろっか」



 ワース達は疲れた体をなんとか動かしてレインルークの街まで戻った。







また来週も更新できたらいいな……

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