11話 緑王虫戦
大晦日投稿です!
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グリーン砦ボス部屋階段前。
ワース達は装備やアイテムの最終確認をしていた。
「ボスはグリーンキングワームって言ってね。見ればわかるんだけど、大きな芋虫でね」
「そうなんっすか……どんな攻撃してくるんっすか?」
「それはグリーンワームと基本的におんなじだけど、大きさは段違いだからね。攻撃範囲に気を付けないと」
「うん、わかったっす」
ノアの注意にアカネは素直に頷いた。
「ボス戦が始まったらさっき言った通りだ」
「了解っす」
準備が整い、ボス部屋への階段をノアを先頭に進んでいった。
そして。
ボス戦へ突入した。
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体を軽く持ち上げるとかなり高いはずの天井にさえぶつかりそうになるほどの巨体。部屋の灰色と対照的な緑色の体。ぶよぶよとした体表に、きしむような鳴き声。うねうねと体を動かしながらグリーン砦最上階で待ち受けるのは、ボスであるグリーンキングワームだった。
「それじゃあ、行くよ!」
先に飛び出したのはノア。黒く光る大剣を両手で握りしめて突撃するノアの後を、召喚獣であるぽるんとペットであるしずくが追った。
「私も行くっす」
アカネもそれに続き、鎌を手に疾走する。
「ぴぎゃあああ!」
グリーンキングワームは雄たけびをあげながら突進攻撃を行った。
「『ガード』!」
ノアはワースと組むようになって取得した『武器防御』を使ってグリーンキングワームの攻撃を受けた。さすがに巨体から繰り出される突進攻撃を受け止めることは盾を使っていたとしても難しいものがあるが、ノアはその突進攻撃の軌道を逸らすことによって受け流すことに成功した。後ろへ続くぽるん・しずく・アカネはそれぞれ別方向へ避けた。
「どろろ」
「ぎゃお」
ワースの指示に従いどろろは体に力を入れて、突撃してきたグリーンキングワームの巨体を受け止めた。
どろろのスキル『アースコネクト』
地面と自分の体を固定することによって、いかなる衝撃があってもその場に留まる事の出来るスキルである。使い道は限られているが、敵の攻撃を受け止めるにはこの上ないスキルだ。どういう原理をして地面と自分の体を固定させているのかはわからないが、このスキルは足場がある限りどこでも使用可能で、発動・解除が瞬時に行える。
「ぎゃぎゃお」
どろろはグリーンキングワームを受け止めると、その体に噛み付いた。
「ぴぎゃー」
グリーンキングワームはどろろの噛み付き攻撃に悲鳴を上げる。
「『スラッシュ』!」
アカネの鎌がグリーンキングワームの体表を削る。鎌は確かに当たったがまっすぐ刃が刺さったわけではなく斬撃が少しずれてしまったために、グリーンキングワームの体を切り裂くことはできず滑ってしまった。
「ぴぎ」
グリーンキングワームはじたばた暴れ、近くにいたアカネを吹き飛ばす。
「きゃあああ!」
一旦空中に放り投げられた後、重力に従ってびたんと地面に叩き付けられたアカネは悲鳴を上げた。アカネのHPは4割減ってしまった。
「ぽるん、しずく!『アタック』」
ノアはグリーンキングワームへ大剣を走らせながら指示を出す。
ぽるんは魔法陣を展開し、水属性魔法を撃つ準備をする。しずくは口内から氷柱を生成し、いくつもの氷柱をグリーンキングワームへ飛ばした。氷柱はグリーンキングワームの体にぶつかったが、どれもグリーンキングワームの体に突き刺さることはなかった。さすがはボスというべきか、その防御力は高く生半可の攻撃は通らなかった。
「らっしゃあああああ!」
ノアは大剣をグリーンキングワームの体に当てた後、スキルを発動させる。
大剣・水属性魔法複合スキル『ウォーターチェーンソー』
剣の周りに超高速で流れる水を纏わせ、触れるものを切り裂く剣へ変えるスキル。発動に少し時間がかかるがどの局面でも発動が可能で、発動中はシステムアシストを受けることなく自由に行動できるため、他のスキルと重複が可能である。ノアはスキル後の硬直の短い大剣スキル『スラッシュ』を発動させた。単体の『スラッシュ』ではそこまでダメージが入らないスキルでも、『ウォーターチェーンソー』を使用すると格段に攻撃力が上がる。
「ぴぎ、ぴぎゃああああああああ!」
ノアの攻撃により背中に大きな切り傷を受けたグリーンキングワームは盛大に悲鳴と糸を撒き散らした。
「……」
ぽるんは魔法陣を組み終え、水属性魔法『スカーレットレイン』を発動させた。
『スカーレットレイン』とは、空中から水弾を撒き散らす魔法で、それはさながら雨のようで、その水弾を受けたものは傷だらけになり真紅に染まるといわれている魔法である。
アカネとノアとしずくはその場から離れ、グリーンキングワームが暴れる中真紅に染まる雨が降り注いだ。
水弾がグリーンキングワームの体へ降り注ぐ中、ワースの魔法が追い打ちをかける。
土属性魔法『コングロメレートストライク』
小さな礫を大量に飛ばす魔法で、その大量の礫はグリーンキングワームの体を傷つけ、その表皮を穿った。
「ぴゃ、ぴぎゃ……」
ワース達の猛攻にグリーンキングワームは悲鳴を盛大にかき鳴らした。真紅に染まる雨と礫の嵐が終わると、グリーンキングワームはごろりと転がった。攻撃を耐え極度の疲労を感じたようだ。
「よし、いい感じだ」
ワースが嬉しそうに呟いた。思ったよりもうまくいったことに喜びを感じていた。
「『スライド』!」
アカネは足スキル『スライド』を使ってグリーンキングワームに駆け寄り、鎌を振り下ろした。ここが攻撃チャンスだと思ったからだ。
「やあ!せいっ!」
草刈鎌でグリーンキングワームを滅多打ちにするアカネ。その後ろをノアが大剣を抱えながら自分も切り掛かるために駆け寄った。すでに『ウォーターチェーンソー』は解除され、大剣は鈍色に光っていた。『ウォーターチェーンソー』は効果持続時間が短く、長くても10秒しか持たない。ただノアの持つ大剣『マグナイトブレイド』とは相性がよく、15秒持つのだった。特に『マグナイトブレイド』の特性には書かれていなかったが、ノアはなんとなくこの大剣と魔力・魔法との相性がいいと感じていた。ノアは大剣に再び『ウォーターチェーンソー』を施そうか迷ったが、まだいいと思い直した。このグリーンキングワームが暴れた時に使い、怯ませる方が効率良いと感じたからだ。
「らぁっと」
ノアは大剣を振るう。MP消費を少しでも減らすためにスキルは使わず通常攻撃だけでグリーンキングワームのHPを削る。
ノアの傍らで、しずくがグリーンキングワームに噛み付いていた。ぽるんも何かしようと水鉄砲を撃っていた。
ワースやどろろもそこに加わり、転がったまま軽くじたばたするグリーンキングワームにダメージを与えた。
最初に気付いたのはワースだった。
「おい、離れろ!」
ワースは目の前のグリーンキングワームの様子に何か嫌な予感を感じた。
ワースの叫びに、どろろとノアは反応できたが、アカネとしずくとぽるんは反応できなかった。
グリーンキングワームはそれまで小さく暴れていたのを、いきなり周りにいるものすべてを巻き込むように大量の糸を飛ばしながら暴れた。グリーンキングワームの巨体に吹き飛ばされたアカネとしずくとぽるんは、吹き飛ばされながらグリーンキングワームの強靭な糸に搦めとられ身動きできなくなった。
「いやっ!」
「くぅーん」
アカネとしずくは悲鳴を上げた。ダメージを受けたうえでの状態異常『拘束』付の糸による拘束。そのそばには怒りに体を震わせるグリーンキングワームがいるのだった。
「くそっ!」
ワースは魔法を発動させながら、『口頭詠唱』を使って付与術を練り上げる。ノアは大剣に『ウォーターチェーンソー』を発動させてグリーンキングワームに切り掛かった。どろろはグリーンキングワームの暴れるのに構わず噛み付こうと突進した。
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああ!」
「うっ」
グリーンキングワームの突如の咆哮にノアとどろろは身をすくませた。まさか虫が咆哮してくるとは思いもしなかった。ワースは構わず魔法を編み上げ、発動させた。
「『防御力増加』! 『ロックストライク』!」
防御力を増加させる付与術をアカネとしずくに撃ち、生存率を底上げさせた。『ロックストライク』は暴れるグリーンキングワームの額に突き刺さった。
「ぴぎゃあああぁぁぁ……」
「行くぞ!」
「がおっ!」
グリーンキングワームがわずかに怯んだ瞬間に、ノアとどろろは糸を切り裂き、その勢いのままグリーンキングワームを切り裂く。ノアの大剣は糸を紙のように容易く切り裂き、グリーンキングワームの体を左袈裟に切り裂くと、グリーンキングワームは後ろへ飛び跳ねた。どろろは追撃すべく突撃していく。
「『エアカッター』!」
ノア達がグリーンキングワームに攻撃する最中、糸の中からくぐもった声が聞こえ、その声が後方で支援するワースの耳に届くとともに糸がバラバラに切り裂かれた。
「はぁはぁ……まじ、危なかった……」
出てきたのはアカネ。使用したのは風属性魔法『エアカッター』。鎌鼬を生成する魔法で、『風属性魔法』を取得した時点で使用可能となる魔法だ。
風属性魔法は他の魔法と違い魔法で生成したものが見えにくいため、扱いが難しいといわれている。風属性魔法を使いこなすにはある程度適性を持っている必要があるといわれているほどだ。それを、アカネは見事に使いこなしていた。一歩間違えれば自らの体を切り裂いてしまう状況だった。(魔法によって生成されたものは術者にもダメージが発生する。) それをアカネは魔法による傷を負うことなく糸から脱出した。
「あっ、しずくちゃん! 『エアカッター』!」
グリーンキングワームが自分から離れたことを見たアカネは自分の回復を行う前に糸に搦め取られたしずくに『エアカッター』を使って糸を切り裂いた。
グリーンワームやグリーンキングワームの放つ糸は、状態異常『拘束』を発生させるが、糸を切られた時点で状態異常は回復する。状態異常回復ポーションなどを使って『拘束』を解除すると糸が自動的に消滅するようになっている。状態異常『拘束』とは一時的にAGIを1/4にし、スキルの命中率を1/2にする。しかし魔法に関しては問題ない。
最初の頃はこの糸による『拘束』を使用するのがこのボス:グリーンキングワームだけだったが、今ではグリーンワームも使用するため対策が取られ脅威ではなくなっている。
「うぉおおおん!」
「ふぅ、よかったね、しずくちゃん」
糸から抜け出した一人と一匹へ、ワースは駆け寄った。
「とりあえず回復ポーション飲んどいて。HP危ないだろ?」
「はい、了解っす」
「くぅーん」
アカネはアイテムストレージから回復ポーションを取り出しごくごくと飲み干し、しずくはワースから回復ポーションを飲ませてもらった。
「さて、クライマックスだな」
ワースが初めてこのグリーンキングワームに挑戦した時は30分以上掛かった。それが今回はまだ10分も経っていない。グリーンキングワームの様子があきらかに疲労を見せ、HPもすでに1割を切っていた。ノアとどろろのラッシュにどんどん押し込まれて防戦一方になっている様子にワースは杖をしゅんと振って構えた。
「さぁ、とどめを刺しに行こう」
「はい!」
「わおおおん!」
ワースとアカネとしずくはグリーンキングワームのもとへ走った。
「『ロックマテリアル』!」
ワースは『口頭詠唱』で詠唱した『ロックマテリアル』を発動させ、アカネは鎌スキル『チョッパー』を発動させた鎌を振りかざし、しずくは口から『アイスニードル』を飛ばした。
ワース達が一斉に攻撃をしたのを感じて、ノアはノックバック性が高い『グラビティーバスター』を使い、自分はその反動でグリーンキングワームから離れる。どろろは飛来する魔法に気付き、後ろに跳び下がり甲羅の中に身をひそめた。
グリーンキングワームの額を鎌と氷柱が切り裂き、胴体を岩の塊が押しつぶした。
「ピギャアアアアアアアアア!」
グリーンキングワームは悲鳴を上げ、ガラス細工のように砕け散った。
「……よっしゃあああ!」
「やった!」
「よしよし、どろろ。よくやったぞ」
「ぎゃお」
「うおぉぉぉん!」
ワース達は見事ボスを倒した。
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グリーン砦のボスを倒し、無事にブルームンにたどり着いた一行。
時刻はすでに1時を回っていた。
「ごめんね、こんな時間まで付き合わせて」
「全然大丈夫っすよ。それよりもありがとございました」
「まぁ、こっちは好きでやった訳だしな。おかげで楽しかったよ」
「また、いつか一緒にお願いできますか?」
「もちろんとも。いつでも連絡くれていいからね」
「了解っす」
ワース達は夜遅いのと戦闘の疲れもありそれぞれ宿屋へ行き、ログアウトした。




