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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第2章 Going up Evolution Stage
43/114

8話 合縁奇縁

 ■■■


「へぇ、そんなことがあったなんてねぇ……」

「きゅーい」

「いやー、こんなにごつくなってもかわいいもんだね。私にくれない?」

「ダメです」

「そんな。つれないな……君と私の仲だろ?」

「それでもダメです」

「ケチ」

「可愛く言ったつもりでもダメです」


 マリンの店でマリンにワースの杖『マッドオークロッド(マリンカスタム)』とノアの大剣『マグナイトブレイド(マリンカスタム)』のメンテナンスしてもらっている間、マリンを含めた5人は雑談に講じていた。


「ふぅ、まったく今日はいろいろあったねぇ。面白い素材も見つかったらしいし」

「どんなものですか?」

「『装岩』。武器や防具の強化に使用できる素材で、わかりやすいところで言えば防具の防御力・耐久値を底上げできるものよ。これのおかげで強化の幅が広がりそうだ」

「面白いものもあるんですね」

「どこで見つかるんですか?」

「鉱山系の採取ポイントで見つかるらしいよ」

「へぇ、今度探してみよっと」

「武器にも防具にも使えるってところがいいね」

「今日の今日だからまだまだ検証はされてないから、あれだけどね」

「買おうにも売る人なかなかいないだろうな」

「そうだろうね」


 雑談に講じ情報交換を交わす。そしてしばらくして、マリンは満足気な表情を浮かべて諸手を上げた。


「よし、メンテは終わり。今日もいい出来だったよ」

「ありがとう」

「どうも」

「いえいえ。君たちのおかげでなかなかに楽しめてるしね」


 マリンはぱんぱんっと手を打ち払った。


「ふぁあ……いくら初めての巨大アップデートの後とはいえ、徹夜してまでやるだけの勇気はないねぇ」

「そうですね。明日もありますし、俺たちもそろそろ落ちますよ」

「それがいいね。無理は禁物だ」


 マリンの店で無事用事を済ませた一行は店を出て各自落ちるべく宿家探しを行い、無事にログアウトしたのだった。






 ■■■


 翌日。

 大学の授業が終わるなり家に帰りログインしたワースはノアとトレントの森でレベル上げ兼探索を行なった。

 おかげでワースはエメラルドタートルになったミドリとの、ノアは召喚獣のぽるんと新規参入したしずくとの連携が上手になった。レベルも上がり、アイテムもそこそこ手に入れることができた。見つかったレアアイテムといえば、『緑樹の魂球』や『狂乱兎の青糞』、『深林の黄金筍』があった。『緑樹の魂球』はトレントを倒したときに超低確率でドロップするアイテムだ。これは透き通った緑の水晶で、主に武器の製作・強化に使われる。『狂乱兎の青糞』はパニックラビットの巣らしき場所を探っていたところ拾えたアイテムだ。これは見たままの茶緑色のブツで、特に何に使うかわかっていない出来れば触りたくもないアイテムだ。なぜかこのアイテムは食品アイテムに指定されていて耐久値が設定されているのだった。もっとも誰がこれを食べようと思うのだろうか。『深林の黄金筍』は森の奥深くにある竹薮の中にひっそりとあった黄金竹の根元で採取できたアイテムだ。美味しいと評判で、売りに出せば高値がつく代物だった。


 そんなこんなで、ワースとノアはトレントの森を歩き、それでその日は終わった。


 その翌日。

 ワースとノアは始まりの街にいた。

 いくら他の街にNPCの店が多く、いい設備もあるとしても、この街は相変わらず賑わっていた。誰もが訪れるこの場所。全プレーヤーを収容できるほどの広さ。この二つの理由がゆえにプレーヤーはここに集まるのだった。プレーヤーが集まればそのプレーヤー相手に商売を始める者もいる。武器屋防具屋はもちろんのこと、バーや屋台、商店、占い屋など様々な店がここに店を構えていた。


 ワースはセイガイ洞窟で取れるサハギンの肉を使った魚肉串を、ノアはレインルークで栽培している野菜を炒めた野菜串を食べながら街を歩いていた。


「だいぶいろいろと変化があったな」

「あぁ、面白いくらいだ」


 二人はただ食べ歩きしているのではなかった。アップデートによる様々な変化・第2陣プレーヤーの参入などによる変化などの情報を手当たりしだい収集していたのだった。

 アップデートされてから本日までまだ2日しか経っていないが、いくつか変わったことがあった。

 まず一つは、攻略状況。ブルームンから南に行ったところにあるフラワーロードが突破され、その先の街:グリムマーレが確認された。この街は、童話の世界のような可愛らしい街で、アクセサリーや装飾品などを売るNPCの店が立ち並んでいる。また、レインルークの東西にある瓦礫が無事に撤去されその先の場所が確認された。この瓦礫はイベントクエストで瓦礫を除去しなければならず、ここにきてようやく除去され道が開通したとのことだった。レインルークの西には『涙湖(るいこ)に至る道』があり、東には『ラフプラテウ』というフィールドがあることがわかり、すでに攻略が始まっている。

 次に変わったことはクランだ。アップデートにより追加されたクランシステムを使って、早速いくつものクランが結成された。『ドラゴンナイツ』『世界を渡る猟団』『ニート互助団体』『青い薔薇』『英傑騎士団』『シルバー・バレット』『五色の乙女』などが有名である。

 そして、新フィールドとしてワース達が行った『進化の兆しを照らす泉(エボリューションスプリング)』の他に、ユリレシア巨大古墳群からも新フィールドが見つかったそうだ。




「さて、今日はどうしよう」

「といってももう今日どこか行くには思ったより時間ないしな」


 現在時刻22時。あと2、3時間しか残っていないとするとやれることは少ない。フィールドに行くにしても行って帰ってするだけで時間がかかり、肝心の探索はほぼできないのだ。街の方も大方回り、情報も手に入れたのでやることに困るのだった。


「どうしたもんかね」

「うん、近場でも行く?ブルーベイとか」

「それだと洞窟に行って帰ってこられないぞ」

「そうなんだよね……ちょっと夜更かしすれば何とかなりそうだけど」

「……まぁ、そうだな。ボスはまだ挑戦しないとしてももっとマッピングはしておくべきか。それじゃ、準備していきますか」

「了解」


 ワースとノアはブルーベイに向かうことに決め、必要なアイテムを取り出すべくひとまず神殿に向かうことにした。神殿では復活だけでなく、各プレーヤーが使用できるアイテムボックスが置かれている。このアイテムボックスは、なくしたくないアイテムや持ち切れないアイテムを入れておくことができる。そのため全プレーヤーがこの恩恵を享受しているのだった。




 ワースとノアは神殿までたどり着き、さて中に入ろうとしたところで、中から出てきた一人の少女とぶつかった。


「きゃ!」

「うぉ!」


 ノアはぶつかる寸前になんとか避けたが、ワースは避け切れずにその少女と正面衝突してしまった。


「すみませんっす」

「おや、たしか君はこの前ぶつかってきた……」

「あっ、あの時の」

「あぁ……あと、大丈夫?顔色が優れないように感じるんだけど」

「……別に」


 金髪の少女はそのままふらふらとどこかへ行きそうになるのをワースは引き留めた。


「ちょっと、待った。君のことどっかで見たことあるんだけど。もしかしたらだけどさ」

「ん? ……あれ、あたしも見覚えがあるような」


 ワースは小声で、相手にしか聞こえないような声量で言った。

「君は、神内(じんない)朱音(あかね)ちゃんだね。久しぶり」

「あっ、やっぱり。武旗さん」



 脇にいたノアは名前を聞いて驚いたように声を上げた。

「お隣の神内さんの所の子か!あぁ、たしかにそれなら見覚えがあったのもわかる」

「もしかして、そちらは隣に住んでいる水玉さんっすか!」

「そうだよ、まさかここで出会うなんて。えっと、そっちはどういう関係?」


 ノアの言葉にワースは少し驚いた表情を浮かべたまま答えた。

「この子は俺と従妹にあたる。そっちは」

「隣同士」

「なるほど」

「こんな偶然があるなんてな」

「せっかくだから少し話していかない?」

「……はい、りょうかいっす」


 3人は近くの喫茶店に入り話の続きをすることにした。





 ■■■


「……それにしてもこんな偶然があるなんてねぇ。ワースの従妹が、実は俺のお隣さんでしたってね」

「それは俺も驚いている」

「いつもはぶっきらぼうでギャルが入っているけど、こうしてみるとかわいいね」

「……っ、それは!」

「はは、本当さ」

「ノアってたらしだったのか」

「いや、違うって。思ったことを言っただけだって」


 3人は喫茶店『神のいるコーヒーカップ』でそれぞれメニューを頼みながら関係を尋ね合った。本来ならリアルを割る行為はいろいろと問題を生む原因になるのだが、この場においてそんなことを考えている余裕はなかった。


「それで、アカネは第2陣でこのゲームを始めたんだね」

「うん、ノアさん」

「俺のことは呼び捨てでいいよ」

「なら、ノア」


 互いにフレンド登録を交わし、それぞれの名前は把握した。


「それで、調子はどう?」

「……順調っす」

「本当?」

「大丈夫ですって」


 アカネの表情は、ゲームの中で細かい表現は出来ないと言うはずなのに、落ち込んでいるように見えた。


「まぁ、いいだろう。どこまで行ったんだい?」

 ワースが取りなすようにアカネに話を振った。


「グリーンロードの、砦が見えるところまで」

「なるほど、二日でそこまで行ったのか。たしかアカネはあまりゲームをしなかったはずなんだが、誰かとパーティ組んだか?」

「……ううん」

「ということはソロで?」

「そう、っす」


 ワースはアカネが無理をしていることがよくわかった。何がそうさせているのかはわからなかったが、さきほど神殿から出てくる様子、今の浮かないような表情がワースの考えを決定づけさせた。今まで人というものにあまり興味を抱いてこなかったが、どうもお節介を焼きたくなったのだった。


「よし、アカネ。しばし俺達と一緒にパーティ組まないか?」

「えっ?」

「何、時間が空いているときで構わない。せっかくだから一緒にやりたいんだ。ダメか?」

「いや、ダメ、じゃないっすけど」

「よし、それじゃ今から行こう」

「OK、それじゃアカネ、行こうよ」

「えっ、えええっ!」


 アカネを半ば引きずる勢いでワースとノアはグリーンロードへ向かった。






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