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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第2章 Going up Evolution Stage
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3話 深林幽界

深林(しんりん)』は『トレントの森』の異名ってことになってます。

 ■■■


 それからしばらく森の中を歩き続けた。


「トレント2にスタンプ3に兎が2!」

 ランランの叫びに、メイは気怠気(けだるげ)に声を上げながら剣を振り上げた。


「まったく相変わらずめんどくさいところだよねっと!」


 メイの剣を振り上げるモーションにより発動した『片手剣』スキル:『メテオスラッシュ』は目の前にいたトレントを切り裂いた。トレントはその一撃で地面に叩きつけられ、光の粒子となって消滅した。


「くそっ、水属性はこいつらに効きにくいのは辛いって! ぽるん!フォーメーションD!」

 ノアは大剣を右に左に振り回しながら、ぽるんに指令する。ぽるんは、敵の行動を制限するように水鉄砲を放ち、ヘイトを稼いでいく。

 ノアは、目の前にいたミドルスタンプを何度も切り付けて倒すやいなや、大剣を担ぎ力を溜める。


「いっけっ!『グラントバスター』!」

 力を貯めてから放たれる一撃は、傍らにいた体力がほとんど削られていないもう一体のミドルスタンプを消し飛ばした。


「ノア、ナイス。さて、『ストーンマジカル』!」

 後方にいるワースは魔法を発動させ、周りから拳サイズの石を十何個も操り、暴れるパニックラビットにぶつけた。対峙するランランに注意を向けていたパニックラビットの注意を完全に惹き、ランランの攻撃チャンスを作り出した。


「ワースさん、助かった」

 ランランはふぅと息をついてから、短刀を直角に向け、瞬時に接近し背中を向けているパニックラビットに突き刺した。


「『スピンニードル』だよ」


 回転させながらパニックラビットを抉り、HPを削っていく。


「がああお!」


 横からどろろがパニックラビットに噛み付いて、HPを完全に削りきった。


「どろろ!後ろ!」

「があ?」

「どろろちゃん!」


 ワースとランランが叫ぶ中、どろろは別のパニックラビットに頭突きされて吹っ飛ばされた。


「どろろ!防御だ!」

「がお」


 追撃に備えてどろろは甲羅の中に引っ込み、その直後パニックラビットが突進した。今度は備えたせいか、吹っ飛ばされずパニックラビットは攻撃のためどろろにぶつかった状態で少し固まった。その隙をランランが見逃すはずも無く、短刀を刺した。


「甘いんだよっと!」


 攻撃を喰らい、少し仰け反ったパニックラビットに、顔をぬっと伸ばしたどろろが泥を吐き出して攻撃した。


「きゅぅ」


 パニックラビットは悲鳴を上げて消滅した。







 そして、いつの間にか戦闘は終了していた。


「ふぅ、みんな大丈夫か?」

 ワースがそう声をかけると、他の皆は疲れた表情を浮かべていた。


「何度かここには来てるけど、アップデートのせいかなんだかエンカウント率高くない?」

「うん、たしかにそうだね。そう思うよ」

「うんうん」



「きゅーい?」

 一人、警戒と守りに徹していたミドリがワースの顔を見上げて『大丈夫?』とでも言いたげに声を上げた。

「あぁ、大丈夫だよ、ミドリ」


 ワースは杖をグッと握り締めて、ふと思いついたことをランランに聞いた。


「なぁ、ランラン。何度かここに来て、マッピングしているよな?」

「うん、そうだよ。これまで5回ほど来たけど、そこそこまではマッピングできてる。そろそろマッピングしていないところになるよ」

「そうだな……それじゃあマッピングが済んでいる範囲でいいから、何か以前と違う場所とかあった?」

「んとね……ここからちょっと戻ったところに脇道ができていたよ。特に先に何かありそうかわからなかったから無視したけど」

「うぅーん、追加されたフィールドへ行くのかそれともそうじゃないかわかんないからな……他には?」

「特にそれだけ。それで、どうする?」

「先に進んで行くのもいいんだけど……この先ってボス部屋まで行くよね」

「うん、もうちょっとでボス部屋までたどり着くよ。ここってとてつもなく広いのに、ボス部屋までが意外と近いんだよね」

「とりえず、ボス部屋前まで行ってみよう。それから追加されたところを探してみよう。そのさっき言ったところからな」

「りょーかい」


 ランランとの会話を終え、ワースはメニューを開いてアイテムの残量を確認した。まだまだ探索は可能な量だった。


 ワースは、地面に座り込んで休んでいるメイとノアに声をかけて、先へ進むことを伝えた。


 一行は、モンスターが跋扈するフィールドを再び歩き始めた。





 ■■■


 『トレントの森』ボス部屋前。

 鬱蒼とした森の中で一際大きな木に囲われ一種の門のような形状をしていて、そこには人が二人縦に並んでも余裕のあるくらいの高さの扉がどっしりと構えていた。その先には、『トレントの森』のボス:エルダートレントがいる。

 エルダートレントとは、通常のトレントの実に縦にも横にも3倍ほどの大きさを誇り、トレントと違いボス部屋の中央に固定されて一歩も動かない。しかし、木の根を操り、近づくプレーヤーを攻撃してくる。木の根は太くて鋭く、地面を振動させるというモーションを起こした後にいきなり地面から突き出してくるためかなりの攻撃力を持つ。初見では躱すことも至難だ。また、樹上に蓄えた葉っぱを撒き散らしてプレーヤーへ吹き飛ばしてくるという攻撃法もある。この攻撃は、食らうとたまに麻痺の状態異常を引き起こし、攻撃範囲が広いため対策が必要である。トレントよろしく蔦や枝を操って攻撃することもある。また、プレーヤーが遠距離で攻撃してばかりいると、木の実を打ち出して攻撃してくることがある。この木の実は小さくものすごいスピードで打ち出され、標的にぶつかると爆発するため、かなりの注意が必要だ。近距離も遠距離も容易に攻撃できず、かなりの攻撃力と体力を持ち合わせているエルダートレントを、まだ誰も攻略できていないでいる。発見は早かったが、あまりの強さに別の場所で鍛えてからと考えている人が多い。メイ達『五色の乙女』も一度準備の下エルダートレントに挑んでみたが、エルダートレントの攻撃を防ぎきることができず、あえなく敗れてしまったのだった。


 ワース達は、今回はこのエルダートレントに挑むつもりは全くなかった。しかし、どこの世界にでも挑戦者はいるもので、ワース達がボス部屋の前に着くと、そこにはパーティ一組がエルダートレントに挑むべく最終準備を行なっていた。


「おやっ?君達もエルダートレントに挑むのかね?」

 そのパーティのリーダーらしき白地のTシャツにジーパンらしきものを着ただけの男が話しかけてきた。


「いや、俺達はそのつもりはないです。今日はちょっとここの追加フィールドを探しに来ただけです」

「そうかいそうかい、たしかにそんな話あったなー」


 ボスに挑もうとしているのに一切鎧の類を着ていない男がわははと笑うと、男のパーティメンバーが一斉にブーイングを上げた。

「初め、俺らも探そうっていったじゃないか!」

「それを、『今日は奴を倒す、それが俺らの運命(ディスティニー)だ』とか言ってボス攻略に変更したのはリーダーじゃないっすか!」

「そうだそうだ!」

「まったくだ!」


 パーティメンバーのブーイングを受け、その男は降参するように両手を上げた。

「わかったわかった、俺が悪かったって(´・ω・`)」

「いや、わかってないだろ!巫山戯るのはその(ジョブ)だけにしとけって」

「無職で悪いか!」

「「「「いや、悪くない!」」」」


 ゲームでも無職を貫くその男とそのパーティメンバーはまるで漫才でも繰り広げているかのように持ちネタを交わした。


「えっと……」

「お兄ちゃん、この人、アレだよ。(ジョブ)を取らずに無職を貫くことで有名な山田太郎さんだよ。紙装甲なのに回避スキルが異常な」

「あぁ、なんか話は聞いたことあるな」

「おや、ご存知でしたか。まぁ、いわゆるネタですけどね」


 山田太郎と和やかに情報交換を軽く交わし、山田太郎のパーティはボス部屋へ、ワース達は追加フィールドのありそうな場所を探しにその場を後にした。





 ■■■


 そして、それから2時間ほどして。


「ここって……まさか」

「そのようだね、ワース。大当りだよ」


 ワース達は現れるモンスターをバッタバッタと倒し、フィールドを歩き回り、ようやく新フィールドへ足を踏み入れた。マップの表示によると、そこは『進泉(しんせん)へ至る小道』だった。




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