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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第2章 Going up Evolution Stage
37/114

2話 森々暗々

 ■■■


 大規模アップデートにより全プレーヤーの位置情報がリセットされたため、次々とログインしたプレーヤー達は『始まりの街』の広場へ降り立った。


「さて、ノアとメイを探すか……っと」


 ワースは大きく伸びをしてフレンドリストを見た。

 フレンドリストの機能はいくつかあり、メッセージが送ることやチャットが出来る他に、互いのだいたいの位置を知ることができる。この機能はどこの街・フィールドにいるのかや、同じ街にいるのであればそのだいたいの位置をマップに表示できる。これはON・OFFの切り替えでき、相手に教えなくすることもできる。

 それを使い、ワースはノアとメイの居場所を探った。


「……ん」

 マップを見る限り、ノアは先にログインして店へダッシュしていて、メイは広場の少し離れた場所にいることが分かった。


「よし」


 ワースはランランを探しているらしいメイを追い掛けることにした。ノアに対してはメッセージで広場に集合の旨を伝えることにした。





 それから少しして。


「これで、揃ったかな」

「ちゃんといるよ、メイのお兄さん」

「そうだね……ノアさんもいるし」

「それで、ワース。これからどこへ行くつもりか?」


 ワースの周りに、メイとランランとノアが集まった。

 メイは、全身を銀色に輝かせた鎧に身を包み、腰には光り輝く剣を収めた鞘が吊られていた。メイの職業(ジョブ)は『剣士(フェンサー)』だ。

 ランランは、真っ赤に染め上げられた革鎧を着込み、漆黒の短刀を持ち、比較的身軽な格好だった。ランランの職業(ジョブ)は『山賊(バンデッド)』だ。

 ノアは、白地に水色で水龍を描いた羽織を着ていて、背中には身の丈ほどの大剣を抱えていた。ノアの職業(ジョブ)は『召喚士(サモナー)』だ。

 そして、ワースは黒地に緑色のアクセントがついているローブを着ていて、手にはまるで岩を切り出して作られたかのような杖を携えられていた。ワースの職業(ジョブ)は『付与術士(エンチャンター)』だ。

 ワースの傍にはミドリがなぜか満足げに座り込んでいた。


「今日はトレントの森に行ってみたいと思うが、いいか?」

 ワースの言葉に皆一様に頷いた。

「もちろん」

「トレントの森ってたしか新しいマップが追加されたってね」

「あぁ、そうみたいだな」

「よしっ、それじゃあ準備して行こう」



 一行は始まりの街でアイテムを買い揃え、ワープゲートを使ってユリレシアへ跳んだ。一瞬でユリレシアへたどり着き、東門から『トレントの森』を目指して歩きだした。







 ■■■


 先頭をランランが『索敵』を使いながら警戒しその後ろをメイ、ワース、ノア、殿としてミドリの順番で隊列を組んでいた。どろろは歩くペースが遅いため、『トレントの森』に着くまではおとなしくしてもらうことにしていた。


 ユリレシアの東門を出たからといってすぐに『トレントの森』へたどり着くわけではない。その前には『深森(しんりん)に至る小道』というフィールドがあり、そこでは目を血走らせた狼:バーサークウルフや小さな切り株:スモールスタンプが出てくる。これらは『トレントの森』に出てくるモンスターよりも弱く、行動パターンが単純なためレベルに不安を覚えるプレーヤーたちがここを使ってレベリングをしていたりする。一行は襲いかかってくるモンスターだけを返り討ちにして先へ進んだ。


 そして、森がうっそうと深くなろうとするところで一行は一旦立ち止まった。


「ここからが『トレントの森』だね」

「あぁ、気を引き締めていこう」


 『トレントの森』はうっそうとした森のフィールドで、全体的に薄暗く足元に注意していないと木の根っこに引っかかる。出てくるモンスターは、ただの木に偽装してプレーヤーに襲いかかってくるトレントや『深森に至る小道』に出てきたスモールスタンプより一回り大きく枝を振り回してくるミドルスタンプ、頭上まで伸びる木の枝を伝ってプレーヤの頭上から牙を向けてくるハイドスネーク、地面を猛スピードで走ってくるパニックラビットが主である。この他にも様々なモンスターが出現するのが、この『トレントの森』である。色や模様が違い、通常よりも強い“亜種”の存在が多いのもここである。一種の生態系が築き上げられているのが特徴である。


 ワース一行は周囲を警戒しながら先へ進んだ。ワースは隣にどろろを配置して、『事前詠唱』で防御力上昇の付与術(エンチャント)を唱えた。

 『事前詠唱』とは、メリット『詠唱』のレベルを上げることで使用可能となるスキルで、先に詠唱をすることによって、魔法名を唱えるだけで瞬時に魔法の使用を可能にする有用なスキルだ。しかし、これは口頭詠唱しなければいけなく、かつ『決闘(デュエル)』といったPvPでは使用できないという制限付きだ。また、使用するMPは1.5倍かかるため、多用できるものでもない。それでも、魔法を瞬時に使えるというのは不意の事故に対応するという点では有用だ。幸い、予約の効果は実際にその魔法を発動させるまで無制限であるため、保険として掛けておくに越したことはない。こういった有用なスキルを持つ『詠唱』は、今魔法系のプレーヤーの中で密かに流行っている。そうそう気軽に使えるものでもないが、使いこなせば圧倒的なため、使い始めるプレーヤーが後を絶たない。もっとも脱落するプレーヤーも後を絶たないのだが。


 先頭を歩くランランは『索敵』で表示される敵モンスターの位置を確認しながら、自分の耳をそばだてていた。ゲームスキルを使うだけでなく、自分の目と耳を使うことで不意の事故を防ごうとしていた。この『トレントの森』では、木に偽装するトレントを始めかなりのモンスターが見付けにくい性質を持っている。『索敵』を持っていなければ容易に奇襲を許してしまい、『索敵』を持っていても注意をしていなければいつの間にか接近を許してしまっていると、カナリ難易度の高いフィールドである。

 そのため、ランランは目の前に広がる森に違和感がないか目を凝らしながら、耳では小さな音でも拾えるように集中していた。このMMOはかなりのクオリティーを誇り、モンスターの移動するときに生じる音や、振動さえも表現している。そのため、周囲に注意するということはそれだけでも効果のあることである。


 一方、メイはいつモンスターが出てきてもいいように盾と剣を構えながら、自分の役目を理解しているのか随分と気楽に歩いていた。メイの出番は戦闘が始まってからのため、メイは普通にフィールドを楽しんでいた。


 ノアはというと、こちらもメイ同様気楽だった。ノアの役目は召喚獣を交えた攻撃役のため、ノアは水属性召喚獣のぽるんを傍らに侍らせながら何度か来たことのあるこの森を興味深そうに歩いていた。




 そして、一行が少し歩いたところでランランが叫んだ。

「前方にトレント3匹がいるわ! 気を付けて」


 それに対し、メイとノアは「了解」と声を上げ、ワースはメイとノアに攻撃力上昇の付与術(エンチャント)を掛けた。ミドリは背後に注意しながら、どろろは引き締まった気配に首を傾げた。


「行くよ!」

 手始めにランランは地面に落ちていた石をトレントと思しき気に向かって投げ付ける。急に石を投げつけられたその(トレント)は驚き怒りを露わにした。それに反応し、それまで擬態していた他の(トレント)も動き始めた。


「ぽるん、フォーメーションBで攻撃(アタック)!」

 ノアは背中に背負う大剣を振り抜きながらぽるんに指令した。ノアが『召喚士(サモナー)』になり、『下級召喚術』のレベルを上げ『中級召喚術』になったため召喚獣に指令できる内容が増え、複雑な指令でも理解できるようになった。また、それまで水の塊のようだったぽるんが、今では魚のような形をとっている。個体名は『水魚』となって、攻撃力耐久力がそれぞれ強化されているのだった。


「よーし、行っくぞー『ガードクラッシュ』!」

 メイは盾を前方に突き出しながらダッシュを始めた。そして、枝を振るい攻撃しようとする先頭のトレントに向かって盾を叩き付ける。叩き付けられたトレントは仰け反り体制を崩した。


「さて」

 体制を崩したトレントの隙を逃すはずも無く、ランランは短刀を抜き取り枝を切り落とした。


「二ギャああああああああああああああ!」


 悲鳴を上げるトレントに意も返さず、ぽるんは水鉄砲をぶつけ、その後をノアが大剣で切り払った。


 いくつもの攻撃を受けたトレントは、耐え切れず悲鳴を上げながら消滅した。


 後方にいた2体のトレントは仲間の消滅に戸惑いを見せながらも、枝を振り上げるものの、直後に遠くから放たれた岩の塊に枝を折られた。


「お兄ちゃん、ナイス!」

 メイは盾を構えながら、攻撃を仕掛けてきたワースに怒りを露わにするトレント達に『挑発(タウント)』を掛けて強制的にメイの方へ向かせ行動を阻害した。


「『タイダルウェーブ』!」

 メイの脇からノアが大剣を振り上げ特攻し、一気に切り払う。


 その一撃で大幅にHPを削られたトレント達は体をよたつかせる。その背後からいつの間にか忍び寄っていたミドリとどろろが噛み付き攻撃を加え、トレント達は消滅した。


「よし。ランラン、周囲は?」

 ワースはランランに周囲にモンスターがいるか聞いた。トレントの戦闘の音を聞きつけて寄ってくるモンスターがいるかもしれないからだ。


「んと、大丈夫。周囲50mにはいない」

「そうか、それなら先に進むか」


 一行は『トレントの森』の奥を目指して再び歩み始めた。





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