1話 準備万端
2章に入ります。どうぞ、お楽しみください。
■■■
『Merit and Monster Online』が発売され、2ヶ月が経った。初期ロットはわずか3万本。それらを買いあぶれた人を救済すべく発売元であるエレクトリック・ウィザード社は新たに第2弾として3万本の追加生産を行い、10月1日に全国一斉発売した。焦らされた人達は2ヶ月前と同様にMMOを買い求めた。それと同じくして大規模アップデートが行われた。
アップデート内容は、
1.一部フィールドの解放
2.クランシステムの搭載
3.新規職業の解放
4.ペットの扱いの変更
5.ゲーム内掲示板の開設
だった。
1の一部フィールドとは、今まで障害物があったせいで通れなかったレインルークの先や、途中で崖になっていて通れなかったアラス洞窟の先などが開通され、プレーヤーの行動範囲は広がった。
2のクランシステムとは、クランが作れるようになることで、クランとは一時的に組めるパーティよりも大きなもので、組合や団体に近いものである。プレーヤーによってはギルドと呼ぶこともあるが、クランが正しい名前である。クランを設立するには冒険者ギルドで手続きを取る。クランに所属するプレーヤーはネームの後にクラン名が表示される。
クラン独自のシステムとして、クラン裁定がある。クランに所属するプレーヤーが特定のプレーヤーを指名し『裁定』を始め、クラン全体の3分の2以上の賛成を得た場合そのプレーヤーに対し罰を与えることができる。罰はクランの設備を利用できないことから始まり、クランのメンバーとパーティが組めない、メンバーとトレードを行えないなどとある。あまりにひどい場合は、運営に要請してメンバーと会話ができない等の処置をとることも可能になる。
3の新規職業とは、3次職や特殊職のことである。ここで、既存の2次職と新たに公式で公開された3次職をまとめると、
戦士 → 剣士→剣術士 or 盾剣士 or 侍
→闘士→拳闘士 or 狂戦士 or 獣戦士
狩人 → 弓使い →強弓士 or 銃使い or 魔矢使い
→冒険者→挑戦者 or 盗掘者
→獣使い→獣共士 or 調教師 or 人形使い
盗賊 → 暗殺者→影 or 殺戮者 or 忍
→山賊→山賊王 or 海賊 or ヤクザ
魔法使い → 妖術師→火術師 or 風術師 or 水術士 or 土術士
→付与術士→付与術総師 or 支援士 or 魂士
→召喚士→招来士 or 送還士
僧侶 → 聖職者→司祭 or 賢者
→僧兵→僧闘士 or 神殿衛士
→奏士→聖歌隊 or 道化師
となっている。
特殊職とは、上記以外の特殊なイベント・条件をクリアすることによってなることができる職である。ノアがなっていた『召喚士見習い』もこの特殊職に入る。1次職だけでなく、1次職から2次職からでもイベントや条件やクリアすることによって通常の転職以外の特殊職を出すことができる。例えば、ある条件を満たせば、剣士からの転職で聖剣士なんていうことも出来る。今回のアップデートでそういった要素が格段に増えた。
4のペットの扱いの変更とは、それまでペットはあくまでも常にアイテム扱いでパーティのメンバーとして数えられていなかったが、ペットを使っているプレーヤーがあまりに強すぎるということで(ワースもこの中の一人に数えられる)、修正が入った。具体的には、ペットは『OPEN』状態の時にメンバーとして数えるというものである。そのため、パーティメンバーの上限数を超えない数しかペットを使うことはできない。言い方を変えれば、ペットもプレーヤーと同じ存在に格上げされたと言える。ちなみに、メンバーが上限まで達している状態では『CLOSE』状態のペットを『OPEN』状態にする操作はできないようになっている。
5のゲーム内掲示板の開設とは、MMOログイン時にメニューを開くと『掲示板』というタブがあり、それを開くと某チャンネルのような掲示板に閲覧したり書き込んだり出来る。ハンドルネームを晒すタイプと晒さないタイプの両方があり、一々リアルに戻って掲示板を使って情報集めをしなくても済むようになっている。この掲示板は、MMO内でしか閲覧できず、MMOを持っていない人は見ることができない。
今回のアップデートの内容は以上である。
■■■
武旗真価は今か今かと時計を睨んでいた。
時刻は20時56分。後、4分後にMMOのアップデートが終わり、ログインができるようになるのだ。
「ほらほら、お兄ちゃん。そんなに焦らなくたって大丈夫だって。たしかにいち早くログインしたいのは私だって同じだけど」
「アップデートでいろいろと仕様が変わったからな。早く確かめたい。メイはどうするんだ?」
「んとね、今日は『五色の乙女』のクランを作ったらそれぞれ自由行動にするつもり。アジサイの妹さんが第2陣でMMOを始めるから、アジサイさんとカリンちゃんは付き合うんだってさ。ナゴミちゃんもなんか用事があるみたいだし、私とランランだけで行動するつもりだったけど……今日はお兄ちゃんと一緒しようかな?ランランと一緒になるかもしれないけど」
「まぁ、俺は構わないけど。一応ノアに聞いておこう」
「ノアさんってたしか、いつもお兄ちゃんとパーティ組んでいる人だよね。大剣使いの『召喚士見習い』だったかの」
「あぁ、それで合ってる。まぁ、昨日でようやく『召喚士』になれたんだよな。俺も昨日『付与術士』になったばかりだけどな」
「そうかー私はとっくに2次職になってたけど。でも、昨日までになれてよかったね」
「あぁ、せっかくのアップデート後を2次職で歩きたいからな」
「うんうん。それで、今日はどうする?」
「そうだな……トレントの森のフィールドが変わったらしいし、行ってみたいかな。えっと、俺とノアとメイとランランさんの4人だから……ミドリとどろろ2体出せるな」
「ホント、テイマーって凄いよね……下手なパーティメンバー入れるよりも自分の思い通りに動いてくれるペットの方が圧倒的に戦いやすいよね」
「たしかにミドリは十二分に戦ってくれるけど、どろろはそうでもないぞ。簡単な指令しか理解してくれないから、盾役とか囮役としてしか使いづらい」
「それでも十分だけどね。まぁ、今日は盾役として優秀な私がいるから安心してね」
「あぁ、任せたぞ。俺は安心して付与術したり魔法撃ったりできるから」
「うん」
真価と明奈が時計を見ると時刻は59分を示していた。
「それじゃ、もうログイン準備しないとね」
「あぁ」
真価と明奈はいそいそと『ドリームイン』を被り、素晴らしい世界へ誘うキーワードを口にした。
「「ダイブ!」」
二人はゲームの世界へ降り立った。
説明&プロローグでした。次回から本格的な話に進んできます。




