Ex.6 主人公には全く関係のない話
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陽の光がまったく入り込まず蛍光灯の明かりだけが煌々と照らす部屋で。
一組の男女がそこにいた。
「やれやれ、まったくゲームバランスを維持するのにも一苦労だよ。ここまでやって苦労するんだから」
「それはそれは、一番大変な仕事を押し付けて悪かったね」
「まったくだよ」
目の下に隈をこしらえた女は心底やれやれとした声で喋った。
「科学の力だけだったら成功するはずがなかったんだよね」
「そうですね……私達が今まで御することのできなかった未知の力。これがあるからこそのもんですよ」
「そうだね……まったく因果な話だよね」
「そうですね。それで、アップデート作業は順調ですか?」
「ん、今アップデート作業は終わったよ」
「思ったよりだいぶ早くに終わりましたね……」
「まぁね、大まかな設定は済んでいたし、今回は特別に一個使い潰してみたし」
「それは……またどこかから調達しなければいけませんね。この国だともうそろそろ怪しまれるので、隣の国で新鮮な娘を調達しましょう」
「悪いねー」
薄汚れヨレヨレになった白衣を着ている女は悪びれもせずに言った。
「悪いと思っているなら次からは止めてくださいね。面倒ですから」
それに対し、ビシッと白衣を着こなした眼鏡をかけた男はヤレヤレといった風に首を振った。
「そうだ、ねぇ。アレって、どうなってる」
「アレとは……あぁ、アレですか。あのあらゆる幸運を引き寄せるという試作品のことですか」
「そう、それ。初めは、たしか無欲な青年が持ってたやつ」
「表向きはLUC5割上げでしたね。アレは……現在、『クシナダ』というプレーヤーが持ってますね」
「ふーん、アップデートのお仕事のご褒美としてその辺のデータをくれない?」
「そうですね、ここのところ頑張ってくれたからそのぐらいいいでしょう。今、ちょっと呼び出しますよ」
眼鏡をくいくいと上げながら男は手元の端末を操作した。
「こちらです」
「どれどれ……ほほう。統計データからレアドロップ率の上昇とフラグ発生率の上昇の確認っと」
「現実世界までは効果は出ていないようですが、こちらでは確実に効果は出てますね」
「問題はこれをリアルまで効果を出せるようにすれば、それこそ世界が変わるかもね」
「運という不安定要素、そもそも存在するか否かがはっきりしていないものに対して効果を発揮するものとなれば誰もが成し遂げられなかった領域へ足を踏み入れることになりますね。世界は大混乱に陥るでしょうね」
「そもそも、奇跡も、魔法も、あるんだよ。それぐらいのことで一々驚かれちゃたまったもんじゃないよ」
「……もっとも、私達はその力を外に口外する気は全くないですからね」
「そりゃそうとも」
女は端末を片手に机にぐでっとへばった。机の上にあったいくつかの書類の束をなぎ倒れ、床に落ちたが気にすることはなかった。
「づがれ”だぁぁぁ……異世界とやらに行ってみたい」
「それはどうぞ、ご自由に……と言いたいところですが、この案件が落ち着いてからにしてください」
「ぶーぶー、私の研究だってはかどってないんだよ」
「はいはい、せめてMMOというゲームがゲームでいられるように調整してくださいね」
「それが一番難しいんだって……まったく、ふぅ」
「思ったのですが、異世界に行く方法なんてありますかね」
「それはまだ。あるかもしれないけど、探すだけの時間がない。それだけ」
「私はないと思うのですがねぇ」
「まったぁ夢のないことを言って……奇跡だって魔法だってあるんだしそれぐらいあったっていいじゃない」
「どうも、私にはまだ魔法というものさえ懐疑的でしてね……」
「あるもんは仕方ないでしょー」
「そうなんですけどね」
男は端末に表示されている時間を確認して席から立ち上がった。
「私はこれから会議があるのでこれで」
「はいはーい、頑張ってねーこのEW社を切り盛りする社長さん」
「そちらこそ頑張ってくださいよ、全ての研究を指揮する研究部門主任さん、そして私の愛しい奥さんよ」
男は無表情のまま部屋を後にした。
「まったく男ってねぇ……」
女はぐでーと机に頬ずりをしながらもぞもぞ体を動かした。
「仕事は山のようだし、頑張らないとねぇ」
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こちらは『Merit and Monster Online』の有名なプレーヤーの非公式紹介ページです。本人の許可を得て掲載させてもらっています。
○アレックス
今まで様々なMMORPGを渡り歩き名を挙げてきたプレーヤー。重鎧に身を包み、両手剣を軽々と振り回すその姿は誰もが見惚れるほど。プレーヤースキルが高く、その実力は全てのプレーヤのトップとも言っても過言ではないかもしれない。『ドラゴンナイツ』というパーティのリーダーとして、プレーヤーたちからの信頼は厚くファンも多い。10月に予定されるアップデートによりクランシステムが実装されれば、彼のクランは一躍巨大なものになるだろう。
○ワ☆タ☆ル
こちらも数々のMMORPGを渡り歩いてきた歴戦の猛者。彼がひとたび弓を持てば、彼の視線の先にいるモンスターは瞬時にその矢で射殺されることだろう。上記のアレックスと並び立つ存在といってもいいだろう。常に周りを見渡しており、その口から放たれる指示は常に的確である。『世界を渡る猟団』のリーダーで、パーティを纏めるのが上手く、司令塔としても定評がある。
○ナンジャ
最強のソロといっても過言ではない。その体から放たれる数々の技は、人間の域を超えている。プレーヤースキルが高く、それが故の偉業はすでに伝説のひとつに数えられる。基本的にソロで活動し、ほとんどの時間をフィールドで過ごすという。
○✝聖堕天使✝
魔法職で最強といえばこの人である。常に黒いローブで姿を隠していて怪しいこの上ないが、ひと度フィールドに出ればその杖から生み出す魔法で敵を殲滅する。周りからは名前と独自の詠唱により、『厨二』と評されるが、本人はそれで満足しているらしい。
○山田太郎
ほとんどのプレーヤーが職業を取っている中、『働いたら負けだ』と公言し職業無しと、ゲームの中でもニートを貫こうとしているプレーヤー。鎧を着ることもなく、シャツを着ただけのふざけた格好ながら敵を躱し攻撃する様は目を瞠る。そもそもモンスターと戦ってお金を手に入れている時点でニートじゃないとパーティメンバーにつっこまれてしばし呆然としたという話がある。
○シン
最速の細剣使い。AGI全振りから生み出される速さは、最速と言わざるを得ない。リアルでも陸上をやっているそうで、ひと度走り出せば風と同化してしまう。
○シェミー
今話題の電波系アルビノアイドル。ゲーム内で見かける者は多いとは言えないが、彼女の槍捌きは素晴らしく、容姿と相まって見るものを圧倒させる。百合で腐女子との噂も。
○サクラ
数々のオンラインゲームを渡り歩いてきた猛者であり、絶世の美女。容姿もさながら、動きの所作が優雅。『青い薔薇』というパーティを束ね、自ら斧を振るって敵を殲滅する姿は美しいと形容する他ない。
○エリス・グロリア
MMORPGだけでなくFPS・TPSでも名を轟かせた銃使い。『シルバーバレット』のリーダーとしてパーティをまとめあげる。金髪を靡かせながら銃を構える姿は、誰もが目を止めるだろう。その銃撃の正確さは話題となっていて、リアルでも経験があるのではないかと言われている。
○ライカン
このゲームでいち早くテイムに成功したプレーヤー。現在彼のペットは5を超える。本人自身は鞭を主武器としていて、攻撃力はあまり高いと言えないが、ペットを使った総合的な攻撃力は侮ることができない。
このページは随時更新していきます。2030.9.30
 




