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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
間章 Extra Stories
33/114

Ex.4 テトラの想い

 ■■■


 一人の少女が夜の森の中、ひっそりと立っていた。森の色と相対した赤い服を見に纏っているにも関わらず、その姿は黒々とした森と同化していた。


 二つの満月が樹上に立つその少女の顔を照らしていた。誰ががここにいたら間違いなく『美しい』と感想を抱くほどだった。


 その少女は地上をじっと見下ろしたまま微動だにしていなかった。


 しばらくして、突如その少女は手を素早く振り、地面に向かって何かを投げ付けた。それは月の光を受けきらりと光った。


 木の下にいたそのモンスターは突如飛来してくる投げナイフに気付き、逃げようとするものの、すでに時遅し。投げナイフはそのモンスターの脳天に突き刺さり、そのモンスターは動きを止めた。


 少女はそれまで立っていた木から軽やかに飛び降り、すでに瀕死の状態にあるモンスターに止めを刺した。



「……ふっ、手に入った。『闇夜猫の牙』が」


 月に照らされ、妖艶な雰囲気を漂わせる少女、テトラは短剣を片手に立ち上がった。

 テトラは深夜にしか出現しないミッドナイトミステスという猫がドロップする『闇夜猫の牙』を求め、ユリレシアの東にあるトレントの森にいたのだった。


「……帰る」


 テトラは余計なモンスターと遭遇しないように索敵範囲を厳重に探りながら街へ帰還するのだった。






 ■■■


 テトラこと、蓮城(れんじょう)来夏(らいか)は頭から『ドリームイン』を取り外した。


「ふぅー」


 来夏は大学一年生で、本日は大学の授業を受け、家に帰り課題を終わらせた後にMMOにログインしたため、まだまだプレイできるだけの時間があったのだが、現在時刻は2時。そろそろいい加減に寝ないと、翌日の授業に差し支えが出てくる。来夏はあまり寝なくても大丈夫な人だが、さすがに睡眠4時間を切ると体調に差し支えが出てくる。


「……」

 来夏はログインしたときに既に着ていたパジャマのまま布団の中に潜り込み、電灯を消した。


 暗くなった部屋の中で、来夏は布団に潜り込みながらMMOのことを考えていた。




 来夏:テトラはMMOの中で、特定のパーティに属するのではなく、臨時パーティに潜り込み傭兵として活躍するか、それ以外はソロでプレイするというスタイルをとっていた。


 効率のいい狩場を探し出し、レベル上げと資金稼ぎをしてきたせいか、MMOの中でもそこそこ高いステータスを持っている。そのため、傭兵としてもそこそこ信用があった。また、様々なパーティに出入し、様々なフィールドを歩いてきたため、情報屋としてもやってきた。どこそこのポイントがポップしやすいだとか、こうこういうプレーヤーの戦闘スタイルはこうだとか、そういった情報を取り扱っていた。




 来夏:テトラはあまり人と馴れ合うことを好まず、常に人から一歩引いた形でいる。

 それはひとえに、中学生の頃に起こった事件故だった。


 それはどこかしらでも起こりうる話。男子から愛を囁かれても断った来夏に嫉妬した輩からいじめを受けたという話。いじめも直接暴力に出るようなことではなく、ある女子の一団に指揮されたクラスメート達から無視された、ある意味それだけの話。


 来夏はそれを一年近く耐え抜き、卒業を機にそれから脱した。持ち上がるようにして中学の知り合いと高校で再開し謝られても、来夏は友達というものに幻滅を感じた。自分は全く悪いことをしていないのに、人から制裁を与えられるという理不尽、友達だった人達が逆らうことができずに自分を見捨てたこと。それらが来夏の心の中で渦巻き、結果来夏は人を表面的に信じなくなった。

 来夏は元々優しく困っている人には手を差しのべる性格だったが、中学の頃のそれがあって以来どうも人と接するのに一種の恐怖を感じて、人から一歩引くようになった。




「……あの時」


 来夏は夏休みにあったあの出来事のことを思い出した。


 それは、8月がそろそろ終わろうとした時のことだった。何度かパーティの穴埋めに入り、情報交換をしてきた仲のレオナルドという男性プレーヤーからいきなりメールをもらった。


 それには、知り合いがブラウンマウンテンを攻略するパーティを求めていて、それに手伝ってくれないかとのことだった。

 テトラはちょうどその時何も予定が入っていなく、レオナルドの顔を立てる意味もあってそのパーティに参加した。


 そこで、テトラはワースと出会った。

 テイムでペットとなったグリーンタートルと共に、邪心も打算も一切なくただ前へ進むワースの姿に少し羨ましいと感じた。今まで参加した臨時パーティではどこでも自分が女性プレーヤーであることで色めがねを掛けて見られているという感じがした。例え邪な思いを抱いていなかったとしても、テトラ自身のことを意識しているというのがわかった。同性からは牽制の視線を受けたことも何度もあった。


 しかし、ワースというプレーヤーは自分のことを信用の置ける仲間と見てくれた。それはレオナルドからの推薦だったというのもあるかもしれないが、一目見た時からすぐに信用を置いてくれたワースに対し、羨ましいという気持ちを抱いた。



「あの亀は可愛かった」


 来夏はワースの隣にいたグリーンタートルが可愛かったと思い出した。主人を守るため、精一杯体を張って敵の攻撃を受けるその姿に、思わずナデナデしたくなった。


「今度会いに行こうかな」


 来夏は思わず呟いていた。自分から誰かに会いに行こうとするなんて滅多にすることじゃなかった。



「……とりあえず、今日はもう寝よう」


 来夏は自分の中に芽生える気持ちに気付きながら布団を頭から被った。







 ■■■


「……!」


 テトラは何の気なしに始まりの街の商店が並ぶ通りを歩いていると、前を見知った人が歩いていることに気づいた。テトラはその人に走り寄って声をかけた。


「久しぶり」

「おぅ、久しぶりだな、テトラ。どうしたんだ?」

「歩いていたらたまたま見かけたから声かけてみた」

「そうか、いやーあの時以来か」

「そう、いろいろあったからワースに声を掛けられなかった」

「そうか……あぁ、そうだ。せっかくだから、ちょっとそこで話でもしないか? あぁ、もしも忙しいなら断ってくれても構わないから」

「ううん、今日は時間がある。私もいろいろと情報交換したい」

「そうか、それじゃあっと」


 ワースとテトラは近くにあったカフェに入った。



「……一段と可愛い」

「そう、ミドリとどろろだよ」

「きゅーい」

「ぎゃぎゃお」

「2匹とも可愛い」

「そうか、それは良かった。ちなみにミドリはメス、どろろはオスだぞ」

「そうなの?どっちもオスだと思った」

「きゅいきゅ」




「ノアは今後『召喚士』になるの?」

「あぁ、そうだっていってた」

「ワースは『魔法使い』からどの(ジョブ)になるの?」

「うぅーん、妖術師(ソーサラー)も魅力的だけど、付与術士(エンチャンター)もいいんだよな」

「悩むのは大事」

「テトラは?」

「私は、盗賊から暗殺者」

「ははっ、戦闘スタイルはぴったりだけど、なんか合わないな」

「合わない?どうして?」

「いや、なんかさ、テトラって優しいだろ?だから暗殺者っていう名前が似合わないというか」

「……ワース、変」

「そうか? そうかな? ……まぁ、気にしないでくれ」


 テトラはいつの間にかワースと話すことに楽しみを覚えていた。



「今度、何かあったら呼んで。出来るだけ手伝う」

「おう、そうか。それじゃその時は頼むよ」

「それじゃ」

「んじゃあ」


 テトラはワースと別れ、楽しい時間を過ごせたことに頬を緩ませた。

 ワースの亀とも十分触れ合えてご満悦だった。



「……よしっ」

 テトラは気を引き締めて、臨時パーティを組むことになったプレーヤーのところへ足を運んだ。



 


 

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