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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
間章 Extra Stories
30/114

Ex.1 ミドリの存在理由

今回はミドリのお話です。ミドリ1人称でお送りします。

 ■■■


 “私”が生まれたのはたぶんその時だったのだろう。


 辺り一帯に広がる草原。その草原をぶよぶよとした水色の塊や、クネクネとした動きで移動する芋虫などがいる草原。


 私は生まれながらにして強靭な肉体と知識を持っていた。私がここにいる理由を、私は生まれながらに知っていた。できる限り生き残ること。ユニークモンスターとしてその姿を少しでも長くこの地に刻み込む。それが私の存在理由だった。


 私は顔の当たりをくすぐる草を食み、周りを見渡した。


 するとそこには、一人のプレーヤーが地面にへたり込んでいるのが見えた。


 私は、自らの存在理由に従ってそのプレーヤーを襲うべく突進を開始した。




 やられる前にやってしまえ。

 自分が傷つく前に襲いかかればいい。



 私は生まれながらにして、プレーヤーが自分を見るなり襲いかかってくる存在だということを知っていた。

 それゆえに……




「かっ、亀だあああ!」

 そう言って飛びかかってくるプレーヤーに疑問を感じたのだった。


 声の調子からどうやら攻撃してくる様子ではない。しかし、自分に襲いかかってくるのは明白だった。


 飛びかかってきたそのプレーヤーは私に抱き着くと、ぺたぺたと甲羅を撫で私を抱きしめてきた。私にはなぜそのプレーヤーがそんなことをするのかわからなかった。こうやって私を安心させて油断したところを襲いかかるつもりなのだと思った。


 私はそんなプレーヤーに対し、噛み付いた。そうすればそのプレーヤーの化けの皮を剥せると思ったから。自分を油断させようとして甘い顔をしてきたプレーヤーの本性が露わになると思っていた。





 しかし、そのプレーヤーは違っていた。

 私に噛み付かれても、私に怒りの感情を向けることなくただ痛みに顔をしかめるだけだった。そして痛みを堪える表情と同時に、私に対する好意の感情が露わになっているように感じた。少なくとも私を害するつもりはない、私の存在理由に障害になることのないように思えた。


「いてて……こらっ、そんなことしたらダメだぞ」


 そのプレーヤーはそう言って、攻撃してきた私に一切攻撃することなく私の目の前に立った。

 私は攻撃することを止め、そのプレーヤーが何をするのか静観することにした。


 私を害するのであったらその気配を見せたら攻撃すればいいだけのこと。

 でも、私にはこのプレーヤーが私を害することをしないと信じることにした。

 私はこのプレーヤーに興味をもった。



「まぁまぁ落ち着いてよ」


 そのプレーヤーは私に臆することなく、私の頭をぽんぽんと撫でた。


 その瞬間、私の中に“ワース”というプレーヤーの心が流れてきた。

 私に一目惚れしたこと、本来ならモンスターは攻撃すべきものだが私に対しどうも攻撃する気が起きなかったこと、私に似た生き物を飼っていてそれに似ていて喜びが湧いたこと、そういった暖かな感情が私の中に流れ込んできた。


 私は、このプレーヤーにならついて行ってもいいと思った。

 ワースという滅多にいないだろうご主人様に。



 私はご主人様の声に目を開けた。

「よしよしいい子だ」


 私はご主人様に頭をぽんぽん撫でなれながら、目を細めた。ご主人様の手はとても暖かかった。







 ■■■


 今思えば、私はなんて良いご主人様にテイムされたのだろうと思う。もっとも他のテイマーなんて知らないけれども。


 私がご主人様にテイムされて早1ヶ月半。この間にいろいろなことがあった。初めてのボス戦で盾役として力を発揮して、ご主人様が魔法使いになるのを手伝って、ペガサスと会ったりして。2度目のボス戦を経験して、ご主人様のペット2号となるどろろと出会った。

 どろろは自分の立場をわきまえているのか、私の邪魔はしない。私がご主人様の一番目のペットであることを理解してくれているみたい。


 自分では気付かなかったけど、私はどうやら他のモンスターやペットと違って知能が高いみたい。どろろと会話をしていて思ったんだけど、どろろはご主人様の言葉を一から十まで理解できていないみたい。簡単な言葉は理解できてもそれ以上ができなくて、ご主人様の言葉を十とするとどろろが理解できるのはよくて三ぐらいのようだ。私はご主人様が言ったことを全部理解できるのに。


 私が特別なのかそうでないのかはわからないけど、そんなこと私にはあまり関係なかった。

 私にはご主人様がいるだけで十分だからだ。よくわからない理屈だけど。

 少なくともご主人様についてけば私のそもそもの存在理由は守られるし、何より私はご主人様のことが好きだ。言葉にして伝えることはできないけれど。




「きゅきゅーい」

「おぉ、ミドリ。今日も可愛いな」

「きゅっ」


 私の言葉はご主人様には理解してもらえない。だけど、言葉に込めた想いはわかってくれる、そう思っている。


 今日も一日中私と一緒にいてくれるが、どうやらもうすぐ“ナツヤスミ”というのが終わって“コウキカテイ”というのが始まるらしい。それのせいで私と一緒にいられる時間が減るそうだ。

 それはちょっと寂しい。ご主人様にもご主人様の生活があるのだから、それを邪魔してはいけないことだと思う。

 それでも、寂しいものは寂しいものだ。ご主人様がいないと胸にぽっかりと穴が空くようなそんな感じがする。


 ご主人様とずっと一緒にいたい。


 ご主人様のことをもっと知りたい。


 ご主人様にもっと愛されたい。


 本来なら感情というもの持ち得ないはずの私だが、込み上げてくるようなこの想いが胸に渦巻いている。生まれたときには原始的な思考しか持ち得なかった私が、今ではこうご主人様のようにものを考えることができる。




「なぁ、ミドリ。今日はメイ達と一緒にゴブリンキングに挑戦するつもりなんだ。頑張ってくれるよな」


 ご主人様が私を頼ってくれる、それだけで私は幸せだ。今では私の存在理由はご主人様の盾を務めることなのかもしれない。それゆえにご主人様が私を頼りにしてくれることがこの上なく嬉しかった。



「きゅ、きゅんきゅっぷい」

「そうかそうか、頼りにしてるぞ」


 私はご主人様に撫でられて幸せを噛み締めていた。





 ご主人様と一緒ならどんなことでも乗り越えていける、そんな気がした。






 

いかがでしたでしょうか。なぜ、一AIであるはずのミドリがこうも思考することができるか。これについてはおいおい説明していくことになります。現状ではネタバレになるので説明できませんが。


ミドリ「きゅっ、きゅっぷい」


次はワースです。

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