22話 青年はやはり亀好き
いよいよ1章完結です。
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「まさか、次の日に呼び出されるとは思いませんでしたよ」
「こちらもそうですよ、まさかフラグフロッグがすぐに見つかるとは思いませんでした」
ワースとノアは『香月庵』にミリーを呼び出した。依頼の品である『フラグフロッグの肉』が手に入ったからだ。
「それで、物の方は……」
「こちらです」
ワースはアイテム欄をタップし、トレード画面を開いた。
「ほぅ……これはこれは。僕としては1個のつもりだったんだけど、3個もいいのかい?」
「えぇ、俺たちには必要のないものなので」
どろろが見つけ出したフラグフロッグを倒したときにドロップしたアイテムは、ワースの分では
『フラグフロッグの肉』×2
『フラグフロッグの皮』×1
『丸呑みされた小魚』×1
で、ノアの分は
『フラグフロッグの肉』×1
『フラグフロッグの皮』×1
『旗蛙の鳥頭』×1
だった。『フラグフロッグの肉』は食品アイテムでワースとノアにとってミリーに渡す以外に使いようが思いつかなかったため、思い切って全てミリーに渡すことにした。
「そうか、それじゃありがたく頂いておくよ」
「ちなみに『フラグフロッグの肉』は何に使うんですか……?」
「あぁ、これはね、僕が受けているクエストで必要なものの一つなんだよ。ここから東に100メートルほど行ったところにある肉屋に届けてあげるんだよ」
「なるほど……」
「このクエストもここまでくるのが大変でね。いろいろな肉を持っていかなくてはならなかったんだけど、ユニークモンスターの肉と言われた時は本当に笑いが込み上げてきたよ。まぁさすがにこれで打ち止めだろうけどね。少年達のおかげで無事にクエストをクリアできそうだよ」
「それは良かったです。それと、マッドタスの情報ありがとうございました。無事テイムできました」
「ほぅ、それはなかなか興味深いね。僕の情報が役に立って何よりだよ」
「それでは、そこの少年。依頼の報酬として『召喚士』について僕が知っている情報を上げよう」
「はい、お願いします」
「まず、『召喚士』は名前の通り召喚術に関して効果がある職で、『魔法使い』から転職の2次職でもある。『召喚士』にはレベル20で転職できるね。『召喚士』はDEXに補正が掛かり、マイナス補正はつかない。他の職に比べてメリットもデメリットも少ない。『召喚士』になったプレーヤーはまだいないけど、もう少しで出てくるんじゃないかな、今最高レベルで『魔法使い』Lv.15だからね。まぁ、こんなところかな」
「そうですか……」
ノアは少し不満げな表情を浮かべながらミリーの話を聞いていた。ノアはすでに掲示板や公式HPなどから情報を集めていた。そこから得た情報と、ミリーの話はほとんど内容が変わっていなかったからだ。
2次職について少し説明しておく。1次職である『戦士』や『魔法使い』をある一定のレベルまで上げることによって転職できようになり、それが2次職と呼ばれる職業だ。そのレベルに達した時点で『職業斡旋所』で転職試練の紹介状がもらえ、指定された場所で1次職と同様に試練をクリアすることで転職ができる。公式ではまだ2次職までしか紹介されていなかったが、のちのち3次職も登場するだろうと言われている。
「まぁ、ここまでが掲示板などで公開されている情報だね。さて、ここから本番だよ」
「えっ……?」
「そうそう、少年よ、一つ聞くけど君は『召喚士』になりたいんだよね?」
「はい、『召喚士』になりたいと思ってます」
「それで、今の職は?」
「……『戦士』です。すぐに『魔法使い』に変えるつもりですが」
「そうか、それなら少し面白い話がある。ユリレシアという街があるだろう、あそこのどこだったかな……まぁ、ユリレシアの『サモン召喚士養成学校』という場所だ。そこに行って召喚士になりたいと頼み込むと、あるクエストが発生する。そのクエストをクリアすると、1次職『召喚士見習い』になることができる」
「なんと……」
「『召喚士見習い』は『召喚士』に比べメリットはもっと少なくステータス補正は無し、手に入れられるスキルは二つだけだ。ただこのスキルがなかなか面白くてね。両方ともレベル1で手に入れられるんだけど、一つが『常時召喚』といって召喚している間の消費MPを0にしてくれるパッシブスキル、もう一つが『二重召喚』といって一体召喚した状態でも消費MPを2倍にする代わりにもう一体召喚するアクティブスキルだ。」ちなみに『二重召喚』で追加召喚した召喚獣は『常時召喚』の効果を受けないからそこは気を付けたほうがいいだろう」
「凄い……でも、なんでこの情報を知っているんですか?」
「それは『召喚士見習い』の知り合いがいるからね。彼女はこの情報を自分から表沙汰にするつもりはないと言っていたし、何より僕に本当になりたい人にしか教えるなって言ってきたくらいだからね。もっともこんな嘘みたいな情報、掲示板で流れても相手にされるか疑問だね。そうそう、その召喚士になりたいと頼み込む時は注意したほうがいいよ。何問か質問されるけど、一度っきりだから間違えるともうそのクエストは出ないよ。誠意をきちんと見せないといけないからね。ある意味本当に『召喚士』になりたい人しか『召喚士見習い』になれないと言えるだろうね。まったく運営は粋なシステムを作ったもんだよ」
ミリーはテーブルの上に乗っているコップを手に取り中の水を飲み干した。飲み干したミリーはふぅとため息をついた。
「後は……どうでもいいことだけど、このテフォルニアには召喚士の伝説があってね。三世代前だかにテフォル湿原で強力なモンスターが出てテフォルニアの街が崩壊の危機に立たされたときがあったそうだ。その時にさっそうと現れた召喚士が召喚獣と共にそのモンスターを倒したっていう伝説があるんだ。もしかしたら何か『召喚士』にはイベントクエストがあるのかもしれないよ。まぁそれぐらいかな。まだ『召喚士』になったプレーヤーがいないから情報が少ないんだけどね」
「それでも凄い情報量ですよ。ミリーさんって本当にいろいろなことまで知っているんですね」
「まぁ、それが僕の楽しみだからね。武器持ってモンスターと戦うのよりも情報を集めて人を動かして金やアイテムを集めたりする方が僕の性にあっていてね」
「それじゃあ少年達。今後の健闘を祈る」
まだ店にいると言うミリーを残し、ワースとノアは店を出た。
「これからどうする? ユリレシアに行くか?」
「あぁ、せっかく情報を手に入れたしユリレシアに行って『召喚士見習い』になりたい」
「そうか、それじゃ行くか」
ワースとノアはテフォルニアの門を目指して歩き始めた。
「俺はワースと出会うまで、自分がどうしたいのか悩んでいた」
ノアが歩きながらぽつりと言った。
「リアルではさ、今後どういう職業に就くかとかをさ、なんとかなるさって言って先延ばしにしてきたんだ。俺ってけっこうのんびり屋で、友達とかにもいろいろ言われたことがあるんだ。リアルではまだ先延ばしに出来ているから良かったんだけど、このゲームをプレイして何か人とは違うプレイをしてみたくてさ、こんなちぐはぐなメリット取ってみて。初めはそれで良かったんだけど、そのうち自分がどういったプレイをしたいのかわかんなくなって……」
ノアはそこで一旦言葉を切った。
「俺は街をぶらぶら歩いていてたまたま見つけた鍛冶屋に入って武器を修理してもらって、そんな時俺はワースと出会った」
「……」
「ワースと一緒に行動して、俺はワースがなんて自分っていうものを持っているんだろうって思った。なんとかなるさと何事ものらりくらりとやってきた俺と違い、目的に向かって全力を尽くすワースのことが、正直眩しかった」
「……」
「ワースのこと見ていて、俺はようやく自分が何したいのか見つけた気がするよ。ワースみたいな何か一つのこと目掛けて頑張るのは無理だけど、のらりくらり先延ばしにするのは止めて、今目の前に出来ることをやっていこうと思うんだ。リアルでも目の前にある就職のことを真剣に考えなきゃなって。まぁ、このゲームの中ではぽるんがいるから『召喚士』を目指すよ」
ノアの話を聞いて、ワースは口を開いた。
「ノアがそう考えていたとは知らなかった。俺は亀が好きだから亀をテイムするということしか考えていなかったし、リアルでも特に何か将来何かになりたいとは具体的には決めていないしな。もっとも亀に関わることはしたいとは思ってるけどな」
「それでも凄いじゃないか。何か持っているだけでも、凄いと思うよ。俺には何かあるわけじゃないし」
「なら、これから見つければいいんじゃないか?ノアにも何か趣味とか大層なもんじゃなくても好きなこととか気になっていることとかあるんじゃないか?それを目標にすれば自ずとやりたいことにつながると思うんだけどな」
ノアはくすりと笑った。
「ワースらしいというか。ワース、これからもよろしくな」
ワースはノアの差し出した手を握り返しながら言った。
「こちらこそな、ノア」
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ブルームンまで転移門を使って移動した二人は、店で『ユリレシアへのスクロール』をなんとかして二つ買い、ユリレシアへ移動した。
「これがユリレシアか……」
「綺麗な街だね」
二人はユリレシアの街の美しさにしばし絶句したままだった。
「さて、サモン召喚士養成学校を探すか」
「あぁ」
二人はユリレシアの街を歩き、30分ほどしてようやくサモン召喚士養成学校を見つけ出した。
「行ってくるよ」
「頑張ってこい」
ノアはサモン召喚士養成学校の玄関に立ち、ベルを鳴らした。するとローブを着た女性がノアの前に現れた。
「はい、何の御用でしょう」
「『召喚士』になりたいです」
「紹介状は?」
「ないです」
「それでは話になりませんね。出直してきてください。見たところ、あなたは『召喚術』に触れているものの『戦士』ですね。『召喚士』としての力を求めるのであれば『魔法使い』としての力をきちんと身に付けてからまたこの場所へ来てください」
「たしかに俺は『魔法使い』ではないです。ですが、俺は『召喚士』になりたいんです。どうかお願いします。見習いでいいので『召喚士』になる力をください」
ノアの言葉に、ローブの女性はノアを見定めるようにして見つめた。
「そうですか……いくつかあなたに聞きたいことがあります。
まず、あなたにとって召喚獣とはどのような存在ですか?」
「仲間です」
「次に、戦闘で勝つために必要なことは何ですか?」
「うぅーん、きちんとした作戦を立てることかな」
「次に、召喚獣を育てていくにあたって一番大事なことは何ですか?」
「愛情かな……」
「最後に、仮にあなたに強い召喚獣と弱い召喚獣の2体を持っているとします。どちらが大事ですか?」
「強いのと、弱いの……どちらも大事ですよ」
「……そうですか」
ローブを着た女性はそう言うなり、ノアへ手を差し伸べた。
「あなたには『召喚術』に対する心がけがしっかりあるようですね。いいでしょう、『召喚士見習い』の試練を受ける資格を与えましょう。試練については奥で話しましょう、ついてきてください」
ノアは差し出された手を取り、校舎の奥へ足を踏み入れていった。
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3日後。
ノアは無事に試練をクリアし、『召喚士見習い』になった。
「良かったな、ノア」
「ありがとうな、ワース。付き合ってもらって」
「このくらい、パーティメンバーだろう? さぁ、祝杯を上げるとするか」
「いいね」
「きゅーい」
「ぎゃあご」
「なんだから、マリンさんも呼んでみようっと」
ワースとノアが話している後ろから一人のプレーヤーが声をかけてきた。
「久しぶり」
「おぉ、テトラか。久しぶりだな、元気か?」
「……私は、すこぶる元気。亀増えたんだ」
「あぁ、テフォル湿原でテイムしたマッドタスのどろろだ」
「ぎゃぎゃーご」
「……かわいい」
「まぁどろろだし、かわいいよな!」
ペットが褒められて嬉しくなったワースはぽんと手を打った。
「そうだ、テトラ。これから祝杯を上げに行くんだけど、一緒に行くか?」
「うん、行く」
「それじゃ、行くか」
ワースとノア、テトラの3人と2匹の亀は祝杯を上げるのにふさわしい場所を求め、ユリレシアの街を歩き始めるのだった。
第1章 Begining the Game 完
これで1章完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。




