20話 青年は不思議な男と出会う
ミリーの出番です。モチゴメさんありがとうございます。
それでは、どうぞ!
■■■
「それでは、僕の頼み事について話そう」
そう言いながら、ミリーは水の入ったコップをコトリと置いた。
あの後、ミリーに連れられ、ワースとノアは近くの料亭『香月庵』にやって来た。『香月庵』は、蕎麦がおいしい店としてテフォルニアでは有名な料亭だった。3人は空いていた4人席に腰を下ろし、各自それぞれメニューを頼んだ。ワースはなめこ蕎麦、ノアは月見蕎麦、ミリーはデラックステフォルニア蕎麦を頼んだ。ミリー曰く、「ここのイチオシメニューはデラックステフォルニア蕎麦なんだ。麺にはこの近くで取れるテフォル蕎麦粉を使い、トッピングにたっぷりの山菜と2種類の卵を使っているんだ。これがゲームとは思えないほどの美味しさなんだよ」とのこと。
3人とも各々のメニューを食べ終え、冒頭に戻る。
「僕が君達に頼みたいのは他でもない、あるものが欲しいんだ。それはちょっと厄介なものでね。そう、君達はもうテフォル湿原帯には行ったかい?」
ミリーの質問に、二人は頷いた。
「はい、夕方行きました。湿原地帯を越えて、水辺まで行きました」
「そうか、それなら話は早い。僕自身はテフォル湿原帯には行ったことはないけど、そこの水辺にフラグフロッグというユニークモンスターが現れるらしい。そのモンスターから取れる素材の『フラグフロッグの肉』というアイテムが僕の求めているものだ」
ミリーはそこで話を区切り、水を飲んで一息ついた。
ワースが口を開いた。
「フラグフロッグってどういうモンスターですか?」
「そうだね、フラグフロッグというモンスターは僕も直接見たわけじゃないけど、体長1メートルの大きなカエルで、全身は赤色で頭には白旗のような大きなトサカが付いているそうだ。出現場所はテフォル湿地帯の水辺区域だよ。強いのかそうでないかのは僕にもわからない。そもそも戦ったという話を聞いていないからね。そこはその場でなんとかしてもらうだけになるからごめんね。
そうそう、一応言っておくけど、僕は戦闘系のメリットをまったく持っていないんだよ。僕には戦闘は向かないからね。だから、僕はついていかないからね。僕は武器を持って戦うよりも口で戦うのが好きなんだよね。僕は人間が大好きだからね。そのおかげで情報はたくさん持っているんだ。街の人からいろいろ聞いたり、プレーヤーの人からいろいろ聞き出したりしてるからね。今回の依頼の対価として、僕が持っている君たちが望む情報を上げようじゃないか。これでどうだい?」
ミリーの言葉にワースは顔を輝かせた。
「一ついいですか?」
「なんだい、少年?」
「テフォル湿地帯に出てくるマッドタスの生態の情報ってありますか?」
ワースの言葉にミリーは大きく頷いた。
「もちろんさ。そのぐらいの情報なら持ってるさ。そんなことでいいのかい?」
「はい。俺にとっては大事な情報なんです」
ワースの言葉にミリーはヤレヤレといったふうに手を軽く上げ下げした。
「いいでしょう。そちらの少年は何か欲しい情報はありますか? マッドタスの生態だけでは僕の依頼の対価としては釣り合わないからね。どうだい?」
ミリーの言葉に先程のワース同様にノアは顔を輝かせた。
「それじゃあ、職業『召喚士』についてをお願いしたい」
「ほぅ……理由を聞いてもいいかな?」
「『召喚士』になりたいからだ」
「ふむ、まったく君は面白いな。いいでしょう、対価としてお教えしましょう」
ミリーはぽんと軽く柏手を打って、話を纏めに入った。
「ということで、フラグフロッグの肉を持ってきて欲しいという僕の依頼に対して、対価としてこちらの少年はマッドタスの生態の情報を、そちらの少年は『召喚士』の情報を、ということでいいんだね」
「それでできれば、マッドタスについては前払いでお願いしたいんだけど……」
「ふむ……本来なら持ち逃げされたら困るから嫌なんだけど、君は誠実そうだからいいとしましょう。これでいいかい? けして裏切る真似だけはしないでくれよ」
「「はい」」
「商談成立っと」
ミリーはコップの水を飲み干し、店員を呼び新しい水を所望した。
「さて、それでは、マッドタスの生態についてお教えしよう。マッドタスとはその名の通り泥を背負った
亀ということは知ってるよね」
「えぇ、5回ぐらい戦ったからわかります」
「そうか、君はマッドタスをテイムする気なんだよね。それならある程度のことは知っているだろうから、それらを省くと…… そう、マッドタスは甲羅の泥を維持するために泥を食べているそうだ。そのせいなのか泥が大好物だそうだ。テフォル湿地帯の水辺には泥がたくさんあるからそこに集まる、という話だそうだよ。もちろん食べるだけでなく泥を浴びるのも好きらしいね。逆に泥が落ちてしまう水とか、泥が乾いてしまう火に対しては嫌がって逆上するそうだ。もしも水属性か火属性を使うのだったら控えるのが適切だね」
「俺は土属性魔法を扱うので大丈夫ですよ。そうですか……泥か」
「マッドタスと戦うと泥まみれになると街の兵士はぼやいてましたよ。襲われて逃げるときに泥を投げつけるとうまく逃げられるとも言ってましたね。つまりマッドタスはそこまで泥が好きとも言えますよ」
「……よし、ミリーさん情報ありがとうございます」
「いえいえ、その代わりに僕の依頼の方をお願いしますよ」
「もちろんです」
ワースとノアがコップに入っている水を飲み干すと、ミリーは軽く手を挙げて言った。
「あぁ、ここのお代は僕が払っておいたから」
「いいんですか?別にそこまでしてもらわなくても……」
「いいんだよ、これは僕からの気持ちだからね。君達とは仲良くしておきたいし、ね」
ミリーはひらひらと手を振る。
「僕はもう少しここにいるけど、君達はもういいよ。頼んだからね」
「はい、それではまた」
ワースとノアはそう言って『香月庵』を後にした。
『香月庵』を出て、時間を確認するとすでに日付が変わろうとしている時間だった。
「それじゃあ、フラグフロッグの肉を手に入れるのは明日にしよう。それでいいよね」
ワースの言葉にノアは頷いた。
「もちろんだ。明日も朝からログインできる?」
「なんて言ったって夏休みだし特に用事ないから大丈夫だ。ノアこそ大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
「なら、明日10時に、でいいか?」
「わかった」
ワースとノアは互いに拳をぶつけ合い、宿屋に入りログアウトした。
■■■
翌日。
二人はテフォル湿地帯の水辺にいた。
目的は、ユニークモンスターのフラグフロッグからドロップされる『フラグフロッグの肉』。
もう一つの目的は、マッドタスのテイムだった。
「…………来た!」
水辺に目をつむったまま立っていたワースが目を見開いた。
ノアはその言葉に背負っていた大剣の柄に手をかけた。ミドリはワースのそばから離れ臨戦態勢に入った。
ワース達から少し離れた場所にマッドタスがポップした。
「設定とかをまるでリアルであるかのように作りこんでいるくせに、こういうところがやけにゲーム的なんだよな……っと」
ノアはぼやきながらも大剣をぐっと掴み足に力をいれた。
「それじゃあ手筈通りに」
「わかった」
ワースとノアは互いに頷き合い、ワースは魔法を発動させた。
「『ロックストライク』!」
地面から鋭い形状に切り出された岩の塊がマッドタスへ飛び、その体に傷を付けた。マッドタスはのそりと当たりを見渡し、攻撃を仕掛けてきた不躾者を確認した。
ワースの魔法がマッドタスに着弾すると共に、ノアは大剣を抱えながら走った。
マッドタスに接近し、射程範囲に入るや否やノアは大剣を抜き放ちスキルを発動した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
『グランドスラッシュ』がモーション発動し、大剣はマッドタスの甲羅へ振り下ろされた。
「ぎゃあごぉおああああああああ」
マッドタスは悲鳴を上げながら暴れ出した。
「よし、今度こそ絶対にテイムしてやるぞ……!」
ワースはそう言いながらマッドタスへ足を動かすのだった。




