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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
25/114

18話 青年は亀と戯れる

 ■■■


 ワースとノアはテフォルニアの街に戻り、一旦ログアウトすることに決めた。

 二人は宿屋に入り、それぞれ違うベッドに入り、寝落ちした。寝落ちとはゲーム内で寝ることによって自然にログアウトする方法である。この方法であればダイブ酔いなどといった不快に襲われることなく自然にログアウトできる方法として推奨されている。



 真価は眠りに入ってからきっかり5分後に『ドリームイン』内臓のアラームによって起こされた。

 そして真価はダイニングルームへ向かった。今日は明奈が夕食を用意してくれる日だった。






「おおっ、今日は野菜炒めか」

「そうだよ、豚肉とレタスがあったから野菜炒めにしてみたの」


 武旗家の食卓には、白飯と味噌汁と大量の野菜炒めが置かれていた。


「さすがに作りすぎじゃないか?」

「……とにかく食べよ!」


 明奈は少しバツの悪そうにしながら箸を手に取った。明奈は料理が好きなのだが、時折何も考えずに大量に作ってしまうときがある。以前天ぷらを作っていたら、なんだか楽しくなってきたようで、気付いたら家にあった小麦粉を全部使い果たしていたことがあった。それ以来、量をちゃんと決めて作るようにしていたが、どうやら今回は間違ったようだ。


「レタスがしなびてきていたから使い切っただけだから……ね」

「はぁ、まぁいいや。いただきます」

「どうぞ、召し上がれ~」


 真価は箸を手に取って、皿から野菜炒めをつまんで口の中に入れた。


「うまい。久しぶりにメイの野菜炒め食べたけど、おいしくなってる」

「ありがと、お兄ちゃん」


 明奈は心底嬉しそうに顔を緩ませた。



「それで、今日はどうだった?」

「メイこそ、どうだったんだ?」

「あっ、私はね、『五色の乙女』のメンバー全員でセイガイ洞窟を攻略してたんだけどね。セイガイ洞窟って海の近くの洞窟でね、いっぱい魚が出てくるの。手と足が生えた魚が槍なんか持ってたりしていてね、初めて行った時なんかは、ランランはきゃーきゃー言いながら怖がるし逆にナゴミちゃんは面白がっちゃって大変だったんだよ。それえが今ではなんとか皆普通に倒せているんだけどね」

「へぇ、セイガイ洞窟ってそんな感じなんだ」

「うん、海水が入ってきて床は水浸しで、普段より滑りやすいかな。魔法を使うんだったら問題ないんだけど、武器を使うとなると結構大変なの。剣を振るにしたって足場が安定していないとうまく振れないし」

「なかなか大変なんだな、そこも」

「そうなの!アジサイさんは魔法ばっか使うからいいんだけど、私とかカリンちゃんとかランランは武器使うからそこのところ考えないとまともに戦えないの。スキル使っても攻撃力落ちるし、命中率下がるし。VRゲームならではの問題なんだよ!」

「そうか……逆に魔法が使いにくい局面とかあるかもしれないから、俺もいろいろ考えとかなきゃなぁ……」

「まぁ、“どうするか”考えるのがゲームの醍醐味なんだけどね」


 明奈はそこで一旦話を切って野菜炒めを頬張った。


「それで、お兄ちゃんは今日何したの?」

「あぁ、今日はブラウンマウンテン行って、ボス倒した」

「凄いじゃん!」


 真価の言葉に明奈は自分のことのように喜んだ。


「それでそれで! ボスってどんなのだったの?」

「大きなモグラだったよ。たしかブラウンキングモールだったかな?ネーミングセンスの欠片もないような名前だったな。爪が大きくてなぁ……

 そういえば始まりの街の周辺のフィールドボスの名前って似てるよな」

「うーん、グリーンロードがグリーンキングワームで、ブルーベイがブルーキングクラブで、レッドフォレストがレッドキングバタフライだったっけ?たしかにその場所の名前の色+キングが頭についてるね」

「なんかこだわりでもあるのかな?」

「たしかにね。それで、そのモグラさんをどうやって倒したの?」

「それはな……」


 真価は自分が体験した戦闘をありのままに明奈に伝えた。


「ほぉ・・・お兄ちゃん達のパーティの戦い方まあまあだよ。ただちょっと防御面がね。ミドリちゃんに頼りっきりだったでしょ。それだと、耐え切れなくてパーティ全滅だってありえるんだからね。今回はたまたま良かったとしても、次からは気をつけるんだよ」

「壁役の人が一人いた方が良かったってことか」

「私はね。でも、そのモグラさん相手だったから、私もよくわかんない。今度私たちも行ってみよっと」

「死ぬなよ」

「まさか、これでもレベル高いんだからね。簡単には死なないよ」


 明奈はにこにこっと笑いながら真価のカップを取り、自分の分と合わせてポットからお茶を汲んだ。


「はい、お兄ちゃん」

「ありがとな」

「ふふっ」


「そう、それでな。ブラウンマウンテンの先にテフォルニアっていう街があって、その先にテフォル湿地帯というフィールドがあったんだよ」

「うん」

「そこの草の生えてるところでリザードマンが出てくるんだ。そいつらを、仲間のノアと一緒に倒していって、それで水辺の近くに行ったんだよ」

「それで?」

「そこで……なんと……」

「ごくりっ」


 真価はもったいぶるようにして間を置き、口を開いた。


「マッドタスっていう亀がいたんだよ」


 真価のセリフに明奈は落胆の表情を浮かべた。

「……お兄ちゃんのことだから、こういうことだとは頭では分かっているんだけど。お宝じゃないのね?」

「メイ、なんていったって、亀だぞ。興奮するじゃないか」

「はいはい、それでそのマッドタスはどうだったの?」

「体長1mほどで、泥だと思うんだけどそれの塊を背中に背負い込んでいて、結構足が早かったな。主に突進攻撃してきて、なかなか触れなかったな。さっきまでで5、6匹見つけたから、たぶんユニークではないな」

「ふぅーん、それでテイムしたの?」

「それができなかった。いろいろ手は尽くしたんだけどな。HPを限界まで削ったり、逆に満タンの状態で餌付けしてみたりしたんだけど、うまくいかなかった。このあともテイムに挑戦してみるつもりだ」

「うーん、LUCが低いからとかは?」

「俺もそう思ってる。最近はレベルアップの度にLUCに10ふってる」

「今いくつ?」

「今65」

「……50は超えてるから効果はあるはずなんだけどね」

「今ふと思ったんだけど、なぜ俺はミドリをテイムできたんだろうな」


 真価の疑問に明奈は口を閉ざし、考え込んだ。


「まぁ、今そんなこと考えたって答えは出ないだろうし」

「……そうだね」


 真価は食べ終わった食器を台所まで運び、スポンジと洗剤を手に取った。


「お兄ちゃん、いいよ、私やるから」

「いいっていいって。メイは夕食作ってくれたろ。だから、これは俺がやる」

「ん。わかった」


 明奈は真価の言うことに従って、引き下がった。


「ちょっとお風呂入ってくる」

「行ってらっしゃーい」







 ■■■


 テフォルニアのとある宿屋にて。


 ワースはMMOの世界に入ったことを確認して体を起こした。ワースの足元には毛布を甲羅の上から被りながら、眠りについているミドリがいた。


「ミドリ」

 ワースの呼びかけにミドリは顔を出して目をパチパチさせる。


「ミドリ」

 ワースが再度呼びかけると、ミドリはのそりのそりと体を起こして(亀が体を起こすとういうのも妙であるが)ワースの横に来た。


「調子はどう?」

 ゲームの世界で意思を持たぬAIに対し、調子がどうのこうのあるはずもないのだが、ワースはまるで現実世界で亀に接するように問いかけた。


「……」

 ミドリは声を出さずに、答えを示すようにしてワースの胸元に顔を押し付けた。


「かわいいミドリ」

 ワースがミドリの頭をさわさわと撫でると、ミドリは嬉しそうに顔をぐりぐりと押し付けた。


「ミドリ、ちょっと痛い」

 ワースがそう言うと、ミドリはぱっと顔をワースの胸元から離し、ワースの顔を見上げた。


「いいって、ちょっと痛かっただけだから」

 ワースは申し訳なさそうにしているミドリの頭を両手で撫でてあげた。


 すると、ミドリは目を爛々と輝かせ、ワースの体へ抱きついた。


「ちょっ、うわっ」


 ミドリが抱きついたことにより、ワースとミドリはベッドから転げ落ちた。


「痛ててて」

「きゅーい」


 そんなところへ、部屋の鍵ががちゃりと音を立てた。


「ワース、もうログインしているのか? って……」

 すでにログインしていて街で買い物がしていたノアは、ワースがログインしたことを知って宿屋に戻ってきたのだった。

 いざ、宿屋に帰ってみればワースとミドリが床で抱き合っている(ように見えた)様子を見て、ノアは……


「失礼しました」


 部屋の外へ出てドアを閉めた。


「ちょっと待て、たぶん誤解だ!」


 ワースは慌てながらノアを追った。

 部屋に取り残されたミドリは不思議そうに首を傾げた。





 

 

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