16話 青年は新たな街へたどり着く
■■■
ノア、テトラ、ニャルラ、ワースの一行は無事にブラウンマウンテンを突破し、新たな街へたどり着いた。
「この街の名前はテフォルニアか」
始まりの街から北上しブラウンマウンテンを越えた先にある街:テフォルニア。始まりの街と比べ半分にも満たない大きさの、全体が茶色で統一されている石造りの街だ。この街にはほとんどNPCしかいなかったが、ちらほらとプレーヤーは数少ないながらも存在した。もっともブラウンマウンテンを攻略しないと行くことのできない街だから今はまだ仕方ないかもしれない。
テフォルニアからは北・東に道があり、北にはテフォル湿地帯が、東にはユリレシア巨大古墳群がある。
ワース達はテフォルニアの門をくぐり抜け、中に入った。
「今日はパーティ組んでここまで着いてきてくれてありがとうな」
「いやいや、俺らも楽しかったからさ」
「……それぐらいお安いご用」
「レベルアップにもなったし、こっちこそありがとう」
ワースの言葉にニャルラ・テトラ・ノアは言葉を返した。
「とりあえずパーティ解消するか」
ワースはウインドウを操作しパーティを解消した。
「それじゃあな、何かあったら連絡くれよ。すぐ駆け付けてやるから」
「……こまめに連絡して」
ワース達はそれぞれをフレンド登録して別れた。
ワースの許にはミドリとノアが残った。
「なぁ、ノア。行きたいところに行かなくていいのか?」
「無躾で悪いと思うんだけど、一緒にいちゃいけないか?」
ワースはノアが真剣な表情をしていることに気付いた。
「俺はさ、今までなかなかパーティに馴染めなくてさ。だって召喚術が使えるのに大剣を使ってるんだぜ。どっちかにしろって何度も言われてたよ。だから今まで俺はソロだった」
「だけど、ノアは今のスタイルを気に入っているんだろ?」
「あぁ、召喚術も使いたいし、大剣も使いたい」
「ならそれでいい。やるたいようにやるのがゲームなんだろ。第一、俺もやりたい風にやってるしさ」
「……ワースはわかってくれるんだもんな。だから俺はワースとならパーティを組みたい」
その言葉を聞いて、ワースはぽんと柏手を打った。
「よし、それじゃテフォルニアを一通り見たらちょっと湿地帯に行ってみようか。俺の勘だとそこに何かいる」
「わかった。それでいいよ」
ワースとノア、それにミドリとぽるんはテフォルニアの街をまわり出した。
■■■
「ほい、どうだい。テフォルニア名物リザードマン串だ」
「えっ……」
「おもしろい、二つ頂こうか」
「いや、リザードマンってトカゲだよ!美味しくなさそうじゃん」
「トカゲって意外と美味しいぞ?しっかり焼くとコリコリして美味しいんだぞ」
ワースとノアはテフォルニアの街をぐるりとまわり、今ちょうどリザードマン串を売る屋台の前にいた。
ワースはノアに諭すように言いながら、屋台のオヤジにリザードマン串を二つ頼んだ。
「ほら、兄ちゃん。二つで200cだ」
「はい、これで」
「まいどあり~」
ワースはリザードマン串を二つ持って近くのベンチを見つけそこに座った。
ノアは少し慌てて追いかけてきた。
「ほれ、食べてみろ」
「えっ……ちょっと」
「ほらほら、騙されたと思って……ってミドリ、お前も食べたいのか」
ワースの足元でミドリがちょいちょいとつついていた。
「ほら、どうぞ」
ワースは半分食べかけた串をミドリの前に差し出し、ミドリはそれを大口を開けてぱくりと飲み込んだ。
「どうだ、美味しいか?」
ワースの問い掛けに、ミドリは大きく頷く。その顔は満足気だった。
「というわけだ。食べてみろって」
「わかったよ……ぱくっ」
ノアは目をつむりながら、串をくわえた。
「…………」
「どうだ? うまいだろ」
ワースの言葉にノアは突如目を見開いた。
「……めっちゃ、うまいやん」
「だろ?」
ノアはうんうんと頷きながら串肉をもぐもぐと食していった。あっというまに肉がなくなった。
「満足だな」
ワースは追加でもう1本買ったリザードマン串を平らげ、満足そうにお腹をさすった。
ノアももう肉のない串を握ったまま満足そうにベンチに座っていた。
「このあとは?」
ノアの質問にワースは即答する。
「一回りしたし、テフォル湿地帯に行こう」
■■■
テフォル湿地帯。
石造りの街テフォルニアから北に進み、道が途切れたところにある広大な湿地帯だ。1本細長い川が流れ、ところどころに湖沼があり、その他のところは湿原となっている。水辺と湿原ではポップするモンスターが違い、水辺ではマッドタスという亀モンスターが、湿原ではリザードマンというトカゲモンスターがポップする。マッドタスとは体長1mほどの泥の塊を背中に背負い込んだ亀だ。一方リザードマンとは2足歩行の人ほどの大きさのトカゲで、個体によって武器を持っていたり持っていなかったりするモンスターだ。
ワースとノアとミドリはテフォル湿地帯の湿原区域をざくざくと歩いていた。
襲いかかってくるリザードマンをノアの大剣やミドリの甲羅で受け、その間にワースやぽるんが魔法を放ち倒すという戦法をとってきた。いくら二人とはいえ、相手が一体であれば取り立てて苦労もせずに戦えていた。
何匹かリザードマンを倒し、一行は水辺に到着した。
ワースはきょろきょろと辺りを見渡した。
「おや、亀がいるようだ」
「亀か……どこにいるかわかる?」
ワースは耳をそばだてて音を探った。
「あっちの方に一匹亀がいるみたいだ」
「あれっ……ワースって『索敵』って持ってたのか?」
「いや、『索敵』は持ってない」
「なら、なんでいると思ったんだ?」
ノアの疑問に、ワースは少し答えに詰まるようにして答えた。
「いや、なんとなくなんだけどね。俺の亀レーダーにビビビって感じたんだよ」
「よくわからないんだけど……とりあえずその場所まで行くか。どうせならそのモンスターを見てみたいし」
ワースを先頭に、ノア、ミドリの順番で歩いていく。湿原の時とは違い、なかなかモンスターは見つからなかった。
「なるほど……リザードマンはあっちの湿原しか出てこないんだね・・・」
「そうみたいだな……っと、見つけた」
ワースが示した先には、マッドタスが1匹甲羅干しをしている最中だった。
ワースたちが近づいていくと、マッドタスは目を見開き、首をもたげた。そして口を開いて威嚇した。
ミドリが対抗するように口を開いて威嚇した。
「よっしゃー、亀だぜ亀だぜ~」
「ちょっと、ワース。一応戦闘だぞ」
「わかってるわかってる。だけど、テンションが上がって……来るぞ!」
マッドタスは口を開きながら、見た目からは想像できない速さで突進をしてきた。




