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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
22/114

15話 青年は茶王土竜を狩る

 ■■■


 ワース達はブラウンマウンテンを登っていく。



「『ロックストライク』!」

 ワースの土属性魔法がスモールゴーレムに襲い掛かる。


「せいっ!『グランドスラッシュ』」

 ノアは自慢の大剣を振り回してスモールゴーレムを次々に薙ぎ払っていた。水の妖精は出番が来るまでくるくると回っていた。



「そんなんじゃ危ない。『イグニクションスライス』」

 ノアが傷付けたスモールゴーレムを、テトラは片っ端から短剣で切り付けていた。縦横無尽に走り回り、舞うように攻撃を加えていく。


「ほーら、こっちにおいでっと。『エンバッシュ』」

 ニャルラはまだ息絶えていないスモールゴーレムを残り残らず手に持つ禍々しいフォルムの片手剣で消し去っていった。



「ふぅ、こんな感じかね。みんななかなか凄いじゃん」

 ニャルラは片手剣を背中の鞘に戻しながら言った。

「ワースの魔法の火力高いし、テトラの短剣の腕は目を見張るものだし。ノアは……まぁいいんじゃないかな」

「俺だって頑張ってるんだけどな……」

「……それはまだ実力不足。上手く大剣を振れてないから、要練習」

「やっぱりかー」

「まぁまぁ、それは今後の課題として。先に行くよ」



 テトラが先頭を歩き、ノア、ニャルラ、ワース、ミドリの順で道を歩いていく。

 道中わらわらと現れるスモールゴーレムやブラウンマウスをばっさばっさと文字通り切り捨て、一行はブラウンマウンテンの頂上を目指して登っていく。

 ブラウンマウンテン自体の適正レベルは6人パーティで10以上だ。ちなみにボスのブラウンキングモールは20以上と言われている。

 4人パーティのワース達がさして苦労もせずにブラウンマウンテンを登れているのは、ワースがブラウンマウンテンを知っているためだった。



「はぁ、思ったより弱いね。これならボスまで楽勝じゃない?」

 ニャルラはにひひと笑みを浮かべながら言葉を漏らす。


 それを聞いてワースは表情を険しくした。

「いや、ボスは強い。だから気を引き締めていかないと……!」


「でもさ、なんとかなるんじゃない?」

 ノアが能天気そうな声を上げる。


「……無理は禁物。だけど緊張しすぎもダメ」

 テトラの言葉はぼそりと、それでいて強い意志を感じさせた。


 一行は頂上を目指して足を動かしていく。





 ■■■


 絶景が見えるブラウンマウンテン頂上近く。

 ワース達はボスがポップする場所の前にたどり着いた。


「ちょっと休憩してからボスへ挑もう」

 ワースはそう言うなり地面に腰を下ろした。


「ふー、ちょっと疲れたなー」

 ノアもその向かいへ腰を下ろした。


「……私も」

 テトラも周囲が警戒できるように立膝の体勢で休息をとる。


「やれやれ、最近の若いもんはなんとまぁ軟弱な……なんてね」

 ニャルラは手に持っていた剣を鞘に収めるのではなく地面に突き刺してその横に腰を下ろした。


「そうだ、この時間にボスの話をしておきたいんだけど……」

 ワースが話すのを3人は熱心に聞くのだった。





 少しして。

「それじゃ、俺らはこれからボス:ブラウンキングモールを倒す。行くぞ!」

「「「おー!」」」


 ワース達は一斉にボスの領域に入り込んだ。


 侵入者に反応して、目の前の地面が盛大に土煙を巻き起こしそこからブラウンキングモールはその巨体を露わにした。



「でっかいなぁ……」

「さーて、モグラはモグラらしく地面に潜ってもらうとするか」

「……所詮モグラ。もぐら叩きとおんなじ」


 ノア・ニャルラ・テトラはそれぞれの反応を見せる。2度目のワースも目の前に立ちはだかるその巨体に身震いをする。傍らにいるミドリは闘争心を露わにしていた。


「作戦は予定通り!」



 ブラウンキングモールの右左にテトラ・ノアが配置につき、ニャルラとワースとミドリが中央にいた。


 ブラウンキングモールが咆哮しながら両手の大きな爪を振り回す。ニャルラとワースとミドリは少し離れた位置にいるため攻撃は当たらない。振り回した時の隙を狙って両端にいるテトラとノアが攻撃を加えていく。


「ニャルラとミドリに『防御力増加(ガードアップ)』!」

 ワースはこの隙を狙って付与術(エンチャント)を施していく。


「OK。ありがとな」

「きゅー」


 ニャルラは付与術(エンチャント)が掛かっているのを確認するや否や、爪を振り切った体勢のままのブラウンキングモールを目指して走っていった。


 ワースはすぐに魔法を放つ準備に入り、ミドリは足を踏ん張り吠えた。


 ミドリのスキル『ミドリの挑発(タウント)

 ミドリとテイマーであるワースに敵の注目を集める虎の子的な存在のスキル。

 魔法使いで防御面が不安なワースも標的に入るため通常時は使いづらい。だが、ミドリとワースが同じ場所にいてなおかつ相手が動けない状況ならば真価を発揮する。



「ゴォオオオオオ!」

 本来鳴くはずもないモグラが奇声を上げながらワースとミドリを、開いていないはずの目でギロりと睨みつける。

 一応、目は見えない設定のため匂いでプレーヤーを認識しているということになっているが、その仕草はまるで見えているかのようだった。


 ブラウンキングモールは傍らに地面に爪を突き刺し、土の塊を器用に持ち上げ、狙いを定めているかのように投げ付けてきた。


「きゅーい」

 ミドリはワースの前で足を踏ん張りスキルを発動させる。


 『グリーンガード』

 一定のレベルに達し手に入れたスキルで、ミドリの体から緑色のオーラが現れ、ミドリは動けない代わりにVIT2倍で攻撃を受け止めることができるスキルだ。オーラにも当たり判定があり、あまり体が大きくないミドリでも防御できる範囲が広がり、ワースが被弾するのを完全に防ぐ。


 ブラウンキングモールの土投げ攻撃はスキルを発動したミドリに完全にガードされた。ワースは無傷のまま魔法を連射する。

「『ロックストライク』!…………『ロックストライク』!」


 メリット『魔力運用』のスキル『初段高速詠唱』

 低ランクの攻撃魔法に限り詠唱時間を短縮するパッシブスキル。

 これにより土属性魔法を主力とするワースは魔法を打ち放題だった。


 ワースはこのまま魔法を撃ちまくり、MPが足りなくなったらMPポーションを呷り、ひたすらに魔法を撃ち出す砲台となった。





「やぁ!」

 ブラウンキングモールが土投げのモーションに入った時、ノアは大剣を大振りに振り上げた。


「ぽるん、今だ!『アクア・グランドスラッシュ』!」

 傍らにいたノアの召喚獣ぽるんはノアの大剣に『アクアエンチャント』を掛け、ノアはそれを確認するとブラウンキングモールの脇腹の前に走り込み、スキルを発動させた大剣を振り下ろした。

 『アクアエンチャント』は武器に水属性を付与するスキル。属性が付与されると敵にその属性の耐性がない限り攻撃力は上がる。

 ノアの振り下ろした大剣の一撃はブラウンキングモールの脇腹に大きな傷跡を付け、ブラウンキングモールは悲鳴を上げた。





「……『スライス』!」

 ブラウンキングモールが土投げのモーションに入ると同時にテトラは神速の剣捌きで空いた脇腹に攻撃を加えていく。技後硬直の小さいスキルを多用し数多くダメージを稼ぐ。


 反対側にいるノアが大技を放ちブラウンキングモールが悲鳴を上げた時を見計らってテトラも大技を放つ。

「……『ジャンプ』からの『イグニクションスライス』」


 普段よりも高く飛び上がったテトラは空中で体を何とか制御して大概のモンスターの弱点となっている頭に狙いを定めた。右手に持つ短剣『蛇楼』が紅く染め上がり、テトラは攻撃範囲に入るや否やスキルを放った。


 紅く燃え上がるように力を蓄えた短剣の二連撃がブラウンキングモールの頭頂部に見事刺さり、ブラウンキングモールは再び悲鳴を上げる。


 HPバーを見ればすでに2本ある内はじめの1本目が3分の1になって赤く染まっていた。







「よっと、ほいさ」

 ニャルラはテトラの攻撃を受けダウンしたブラウンキングモールにダッシュで近寄り手に持つ大振りの金属片手剣を振りかざす。


「『トライスラッシュ』!」

 白い光に包まれた剣が上下左右に動きブラウンキングモールの腹に3つの切り傷を刻んだ。


「続けて『ダブルインパクト』!」

 ニャルラの左手が赤く輝きブラウンキングモールの体に衝撃を与え、続く右手に構えた片手剣が『トライスラッシュ』の残光を灯しながら上書きするように紅く輝く。下から片手剣は切り上げ、ニャルラは足に力をいれ片手剣を引き寄せた。


 『片手剣』・『体術』複合スキル『ダブルインパクト』

 拳と剣をあたかも二刀流のように使うスキルだ。『片手剣』と『体術』を両方持っているニャルラはこのスキルを完全にモノにしていた。どのくらいの威力なのかはもちろん、自身の硬直時間の上書きとこのスキルの硬直時間をよく知っていた。

 『片手剣』スキル『トライスラッシュ』は強力なスキルだが、硬直時間が長い。それをニャルラは『トライスラッシュ』の終わりにタイミングよく『ダブルインパクト』を発動させることで連携攻撃を実現した。



「GAAAAAAA!」

 ダウンから回復したブラウンキングモールが咆哮を上げた。

 ニャルラは冷静に後退し、攻撃に備える。ニャルラの仕事はブラウンキングモールの攪乱だ。攻撃をかわし隙を付いてダメージを与えるのが今回の役割だった。







 ニャルラが攪乱し、ノアが左から、テトラが右から攻撃して、ワースが魔法を撃つというフォーメーションでブラウンキングモールにダメージを与え続け、ついにブラウンキングモールのHPバーを残すところ2本目の3分の1まで削った。


 するとブラウンキングモールの全身がわずかに赤くなり、特大の咆哮を上げた。



「気をつけろ!」

 ワースが叫び、ノアとテトラは何かを感じ後退する。


 ブラウンキングモールは手を地面に叩きつけ地面を揺らした。



「くっ!」

 テトラは自慢のAGIと『軽技』により攻撃範囲から逃れたが、ノアはそうはいかなかった。


「がああぁぁ!」

 手の攻撃はなんとか逃れたものの、衝撃と巻き上げられた土煙を喰らい、吹き飛ばされた。

 ノアの半分以上あったHPががくんと減り、残り2割のところまで削られた。


 ノアは地面に大剣を突き立てることによって体を起こした。

 傍で召喚獣のぽるんが体を震わせて怒ったハリセンボンのような形をしていた。


「くっそぉ……」


「『サンドストーム』!」


 ワースが魔法により砂の竜巻をブラウンキングモールにぶつけ、注意をワースに向けさせた。


 

「ノア!一旦離れろ!」

「わっ、わかった」


 ノアはダメージに顔をしかめながら立ち、ブラウンキングモールを見据えたまま後退した。

 しかし、ブラウンキングモールはそんなノアの方を向き、対し周りの土を集めそれらを投げようとした。

 立ち上がり歩くのが精一杯のノアに土投げを回避するだけの力は残されていなかった。



「疾っ!」

「『ロックマテリアル』」


 ほぼ同時にテトラがブラウンキングモールの腕に向かってナイフを投げ、ワースが魔法を放った。

 ナイフは狙い通り腕に刺さり、魔法で生成された板状の岩はノアの目の前に落ちた。


 ブラウンキングモールの土投げの狙いは逸れたが、投げられた土の塊はノアの前方に落下し、辺り一帯に土をまき散らした。ノアの目の前に落ちた岩が盾となりノアを守った。



「ノアは回復に専念して、テトラとニャルラは攻撃。頼むぞ!」

「「「了解」」」


 ノアは岩陰でポーションを飲み、テトラは『軽技』を使用して攻撃を避け隙を見て投擲と短剣による攻撃を加える。ニャルラは錯乱しながら暴れるブラウンキングモールの攻撃をいなし、ワースは魔法を連発しブラウンキングモールのHPを削る。






 そして……


「ぎゃあぁぁぁあ!」

 ひと度大きく悲鳴を上げてブラウンキングモールは両手をだらんと垂らし、カシャンとガラスが割れるような音を鳴り響かせた。





「よっしゃ!倒した!」

 ノアは大剣を掲げ、その周りをぽるんが嬉しそうに綺麗な球体のままくるくると回った。


「……終わった」

 テトラは手に持っていた短剣を鞘に収めながらふぅっと息をついた。


「なんとか倒せたねー」

 ニャルラは地面に座り込んで背伸びした。


「はぁ、みんななんとか死なずに倒せたな。良かった」

 ワースは今まで守ってくれたミドリの甲羅をぽんぽん叩きながら喜びの声を上げた。



「さーて、ドロップアイテムは何かなー」

 ニャルラの言葉を皮切りに各自ドロップアイテムの確認をした。



「茶王土竜の皮、茶王土竜の爪、茶王土竜の毛……だったよレア度は全部2とか5とか」

「まぁ俺もそんな感じかなー」

「俺も同じだった。それでテトラは?」

「……これ?茶王土竜の鼻?」

「レア度は?」

「6」

「なるほどな」


 レア度というのはアイテムのレアリティのことで、1~9で評価される。普通のアイテムは1~5で、ボスドロップやレアなアイテムは6~9とされている。


「どういう効果?ただの素材?」

「……ん。攻撃力(小)のアクセサリーとしても使えるみたい」 

「そっかー、いいなー」

「まぁまぁ」



 一同は一頻り騒いだあと、ワースが号令を出す。

「ボスは倒したことだし、向かうは次の街だ!」







 

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