閑話 ブラック・エレクトリック・ウィザード
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『Merit and Monster Online』の抱える闇
先日、世界初となるVRMMORPG『Merit and Monster Online』(以下MMOとする)が発売された。まるでそれが現実であるかのように、いや現実以上のリアリティを感じさせるグラフィック、まるで生きているかのように思えるモンスター達、様々なメリットの可能性。そういった要素が重なり合って、MMOは爆発的な人気を得た。
しかし、発売から時間が経ち、様々な問題が浮上した。
当初PK禁止と謳っていたゲームだが、数々のプレーヤーからPKされたという話がぽつぽつと出始めるようになった。本来ならばPKは出来ないはずだった。少なくともそう説明されていたはずだった。それなのにPKが存在するとはどういうことだろうか。
実際にMMO内でPKされたと言うプレーヤーがMMOの開発・販売元であるエレクトリック・ウィザード社(以下EW社とする)を相手取り、PKにより精神的に被害を受けたとして謝罪と慰謝料を要求するとの声明を出した。それに対し、EW社は以下のようにコメントした。
「PK禁止とは言っているがシステム的にはたしかにPKは可能である。これに対して異論はない。しかし、それを訴えるとはいかがなものだろうか。現実社会を考えてみれば、法律によって殺人は禁じられているが実際には殺人は可能である。この場合、悪いのは殺人が出来てしまう世界ではなく実際に殺人を犯した者だ。それと同じようにPKによって精神的な被害を与えたのはPKを行なった者で裁かれるべきはその者である。当社ではPKを行なった者に対して相応のペナルティを課している。ペナルティはハンブラビ法典のように『歯に歯を 目には目を』というものである。実際にMMOサービスが稼働してからこれまでにPKを行なったものに対してゲームアカウントの停止などという対応を行なってきた。このゲーム:MMOはゲームであってもう一つの現実ということを今一度確認して欲しい」
EW社はこう強気なコメントをし、要求を無視する方針だ。
その他にも、いくつかの市民団体はMMOのPK可能であるシステム的な不備の改善を求めて、EW社に意見書を提出した。それに対し、EW社は「システム的な不備ではなく、本来の仕様である」とのコメントを自HP内で発表した。
EW社の対応を鑑みる限り、PK問題に対して目立った対応はしないと見られる。
専門家によると、「このような対応は珍しい。本来ゲーム会社はクレームをつけられればそれを改善しようとするのに、今回の場合全くもって改善をする気がない。W」とのことだ。
また、別の専門家によると「このゲームが一時前に流行ったデスゲーム(=ゲーム内で死亡した場合、現実の体も死に至るゲームのこと)にならなくて良かった」とのコメントをいただいた。その専門家によると、専用デヴァイス『ドリームイン』は大容量の電池とマイクロウェーブを放つことができる装置が組み込まれていて、使い方によれば電子レンジのように人の頭を破壊することは理論的には可能だが、電池は外部から取り外すことが可能で、万が一の場合でも外部からの強制ログアウトが可能とのことだそうだ。外部からの安全装置もついているため、そう危険ではないそうだ。実際、MMOをプレイしている人からは特に異常は確認されていない。もしもMMOがデスゲームとなったら、MMOそのものだけでなくVRゲームそのものにバッシングされることは避けられないだろう。折角VRゲームという新ジャンルが確立するという時にそういうことが起きれば後々のゲーム業界に重大な支障をきたすことだろう。
そうならないためにもMMOの見えない部分を早急に明らかすることをEW社に求めたい。何か事件が起きてからでは遅いのだから。
帝都新聞 2036年8月6日付朝刊 社説
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今話題のエレクトリック・ウィザードの不透明性について
今、流行の最先端を行くのが『Merit and Monster Online』(以下MMOとする)というVRゲームだ。これを読んでいる皆さんもニュースで知っていることだろう。もしくは実際にプレイしているためよく知っているかもしれない。
MMOはアドベンチャー企業だったエレクトリック・ウィザード社(以下EW社とする)によって開発・販売されている。
今回、私はMMOについてEW社を様々な面から調査した。これを読んでくれている読者のためにいち早くMMOに関する情報を一つでも多くお伝えしたかったからだ。
今までどの企業も成し得なかったVRMMORPGの開発を成し遂げた感想や、どのようにゲームを作っていったかなどいろいろお聞きしようと思った。
しかし、私がそんな中で、EW社の内部が闇に包まれていているように中がまったく見えないと感じた。。
EW本社は東京都新宿区に巨大なビルを構えている。この区域は様々な企業が軒を連ねているため、そこにビル丸ごと建てているEW社とはそれなりの資金を得ているのだろうと推測される。もっとも、EW社はできたばかりの企業のためどれくらい稼いでいるか発表されていないため推測の域でしかない。
EW本社の玄関は厳重な警備の元、ロックされていて、忍び込むことはもちろんアポイントを取っていたとしても入りづらそうな印象を与えた。ガードマンが常時二人付いていてその奥に何重にもわたる扉があった。
私は本社の前で一日中観察した。何よりこれまで閉鎖的な印象を与える企業は初めてで私自身興味をひかれたからだ。
そして、私は社員が全く出入りしている様子がないことに気付いた。業者は裏口から出入りしているものの、社員らしき人は全く見つけることはできなかった。
観察を終えた私はEW本社に取材を申し込んだ。しかし丁重に拒否され、再三に渡り申し込んでも同じ結果に終わった。どうやら他の記者も同じようで、EW社は一切の取材を拒んでいるようだ。
直接的な取材を断られた私は、別の手段に出た。本社ではなく、実際にゲームを作成しているところに取材に行けばよいのではないか、私はそう思った。
しかし、MMOのソフト開発元に関する情報はまったく手に入れることができず、専用デヴァイス『ドリームイン』の製造元については実際に工場まで行ったが何一つ情報は得られなかった。
ここまで徹底された情報管理は稀だ。そこまで隠し通さなければならない情報とはなんだろうか。もしかしたらEW社は世間に公表できない何かを抱えているのではないか、と考えてしまう。
今回の取材でわかったことは、EW社には隠し通さなければならない情報を持っているということである。今後どのような行動を取っていくのか注目すべきであると私は思った。
週刊現実 2036年8月6日付 筆者:フリーライター 鏡哲也




