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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
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13話 青年はペガサスと出会う

 ミドリが歩いていく後をワース、メイ、ふみりんの順番で追い掛けた。


「その子はどこに行こうとしているのかしら?」

 ふみりんが疑問を口にした。

「あっちの方だから……森の奥?」

 メイがメリットの『索敵』によって表示されているマップで方角を計りながら答えた。


 森の奥に行くと、どこからか金属の擦れ合う音が聞こえてきた。


「おーい、ミドリって。お前はどうしてこんなところまで来てしまったんだよ」

 ワースはミドリを追い掛けて森の奥まで来た。ミドリがどこか一点を見つめているのがわかった。その場所は木々が入り組んでいて奥に行くことはできなかった。


「ちょっと、どこまで行くのよ……」

 メイとふみりんもミドリとワースの後を追って森の奥まできた。

「ミドリちゃん、どこか一点を見てますね」

「ね、何を見ているの?」

 メイの疑問の声に応えるかのようにミドリの視線の先から何かの鳴き声が聞こえた。


「メイ、悪いんだがこの木々を切れるか?俺 では相性が悪くて奥に行けない」

 ワースは頼み込むようにメイに助力を求めた。

「はいはい、行くよー『バッシュ』!」

 メイの放つ『片手剣』メリットのスキルにより木々は切断され、なんとか奥へ行けるようになった。


「きゅー」

 ワース達がそこで目にしたものは、なんと子供のペガサスだった。






 ■■■


「それにしてもこんなところでペガサスの子供に出会うなんて」

「だな。夢にも思わなかった」

 森の開けたところでワースとメイ、ふみりん、そしてミドリの3人+1匹はペガサスの子供を前にして座り込んだ。


「この子、足を怪我しているみたい……」

 ペガサスの子供を撫でていたふみりんは言った。


「これはほっとけないね」

 とメイが言い、

「どれどれ……あぁ、右後ろ脚を骨折しているみたいだな」

 とワースが言った。


「お兄さん、怪我がわかるんですか?」

「あぁ、『調教(テイム)』のスキル『様子見(ちょうしはどうですか)』のおかげである程度ならな。自分のペットならもう少しなんとかなるんだがな」

「そうなんですか……もしもお兄さんがこの子をペットにしたらなんとかなりますか?」

「このくらいの怪我ならなんとか歩けるぐらいには強化されるだろうが、たぶん無理。っていうかやれない」

「えっ、なんで!?」

 ワースの言いきった言葉にふみりんは突っ掛かった。その顔は不満を現わにしていた。ワースが横を見るとメイも同じ表情だった。


「だって、子供とはいえペガサスだろ?ペットっていうのは一部例外を除いてプレイヤーと共にある存在だ。つまり一心同体な訳だ。だからさ、このペガサスの子供とさ、俺とは釣り合わないだろ?俺なんかがペットにしていい存在じゃない」


「それって言い訳じゃん」

 ワースの独白をメイはばっさり切り捨てた。

「それで、この子を見捨てるの?」

「そうじゃない。見捨てるつもりはない。だけど、ペットにするのは無理だ」

「それはお兄ちゃんの勝手な言い訳でしょ!?」

「言い訳なんかじゃないって。俺のレベルが足りないのか知らないが、受け付けないんだよ」

「へっ?」

「はあ、なんか自分が惨めになるようだから言いたくなかったんだけど、どうやら『調教(テイム)』する条件を満たしていないらしい。だからテイムするのは無理」

「はぁ? そんなことってあるの?」

「正直わからない。だけど、今言えるのはこいつをテイムすることはできないということだけだ。わかったか?」

「わかったけど、なんでめんどくさい言い方をするかな……」


「メイちゃん、お兄さんのプライドを考えてあげて、ね」

 ふみりんは子供のペガサスをぽむぽむと撫でながら言った。



「さて、これからどうするかって話なんだが」

 ワースがしゃべりかけたところで三人の目の前にそれぞれウインドウが現れた。



 『クエストが発生しました。

 このクエストは途中で止めることはできません。クエスト名は『ペガサスの子供を無事に送り届けろ』です。

  終了条件:ゴブリンの森の入口にいるペガサス(母)にペガサス(子)を送り届ける。

 注意:ペガサス(子)は怪我をしていて満足に歩けません。注意して連れていってください。また、ペガサス(子)のHPが0になるとクエスト失敗となりペナルティーが発生します。気をつけてください。

 子供を待つ母親を早く安心させてください。』



「なるほど、な」

 ワースはウインドウを見ながら呟いた。

「どーりでテイム出来ない訳か。まぁ、やることは決まったな」

 ワースの言葉にメイとふみりん、そしてミドリは頷いた。



「メイは周囲の警戒を。ふみりんはそいつをうまく歩かせて」

「いいんですか? 私がやっても」

「あぁ、俺がやるよりふみりんがやる方が喜ぶだろうな。ふみりんに早くも懐いているしな」

「そうなんですか?」

「だってほら、今だって顔を寄せてるし」

 ワースが指差すと、子供のペガサスがふみりんの手にすりすりと擦り寄せているところだった。

「あっ、ほんとだ」

 とメイは声を上げた。


「さーて、周りのモンスター達がやって来る前にさっさと行きますか」

「OK、前方50mにゴブリンが2体いるよ」


 メイが先頭で、その次にふみりんとペガサスの子供、その後をワースとミドリが続いた。


 がさがさと音を立ててゴブリンが現れたところをメイは剣で切り裂いた。

「先手必勝ってね」

「があああ!」

 ゴブリンは斬られた後を痛そうに押さえた。もう一体のゴブリンが仕返しとばかりにメイにこん棒を振り下ろした。

 メイは即座に盾を突き出し、攻撃を防いだ。

「『サンドボール』!」

 砂の塊がこん棒を振り下ろし硬直しているゴブリンの頭に直撃した。

「ぎゃあああ!」

「そいっ」

 そのゴブリンが怯んでいるところへ銃弾が飛来した。

 その銃弾はゴブリンの眉間を一寸もずれることなく穿った。

「みぎゃあああ」

 そのゴブリンは悲鳴を上げながら光となって消え去った。


「ぐるあああ!」

 仲間が倒された様子を目の当たりにしたゴブリンは初めに斬られた傷を押さえながらこん棒を振り回した。

 その攻撃をメイは盾で受け止めた。メイの盾に押さえ込まれたこん棒を持ったゴブリンは驚きのあまり目を見開く。

 そこにワースの魔法とふみりんの銃弾が襲い掛かり、瞬く間にそのゴブリンを光に変えた。


「ふぅ、それじゃ先行きましょ」

 メイは汗を拭うと(実際には汗は表現されていない)、気合いをいれるようにして先へ進んでいく。その後をふみりんの介護とワースの付与術(エンチャント)によりペガサスはなんとかついていく。ふみりんとワースは必死に歩くペガサスに頬を緩ませた。そんな中ミドリは黙々と周囲の警戒を行うのだった。







 ■■■


「『チャージアタック』!」

 メイの突進がゴブリン小隊を一掃した。元々ワースの魔法とふみりんの狙撃により大方減らしていた体力が、メイの突進により全損し光となって消えた。


「ふぅ、疲れたね」

「ありがとな、メイ。メイが相手の動きを押さえたり蹴散らしてくれるおかげで、攻撃がしやすいよ」

 ワースはそう言いながらメイの頭をくしゃくしゃ撫でた。

「ちょっとやめてよ」

 全然やめてほしくないような声色でメイは言った。

「もうすぐですよ、頑張りましょ」




 一行が歩いていると、目の前に一際明るい光が見えた。

「出口だよ」

 メイは弾んだ声を上げた。

「きゅー」

 ミドリがメイに倣って喜びの声を上げた。


 ワースとふみりんは互いに微笑みながら、先に行ってしまったメイとミドリを追いかけるようにして、ゴブリンの森を後にした。



 外に出ると、そこには立派な翼をはためかせるペガサスがいた。


『あなたたちが私の娘を助けてくれたのですか。ありがとうございます』


 ペガサス(母)の言葉にふみりんは思わず呟いた。

「えっ……この子って女の子だったの!?」


 ふみりんが驚く傍で、ワースとメイ、そしてミドリは皆ふみりんに「何言っているんだ?」という視線を向けた。


「ええっ、みんなはわかってたの?」

 ふみりんの言葉に2人と1匹はうんうんと頷く。


「なんでわかるのよ……」


「いやだって、俺は『調教(テイム)』があるし」

 とワースが慰めようと言い、

「だって女の子っぽかったじゃん」

 とメイが止めを指し、

「きゅきゅー」

 とミドリが追い打ちをかけた。


「もうなんか自信なくした~」

 ふみりんは地面に伏した。


『……話してもいいかな?』

 ペガサス(母)は困惑した表情のまま首を傾げた。


「あぁ、いいですよ。それと、その子足を怪我しています」

『うむ、彼の者を癒せ『ヒール』!』


 ペガサス(母)の魔法によりペガサス(子)の様子は先程より良くなった。

『無事に私の許へこの娘を届けてくれて感謝しています。お礼にこれを差し上げます』


 ペガサス(母)がそう言うと、ワースとメイとふみりんの3人の手元に一つの純白な羽がふわりと現れた。


「これは……」

『それはペガサスの一族である私の背中に生えている翼から取った羽です。本来ならば人間には手には渡さない物ですが、あなたたちの優しさに見込んでこの羽を渡します』


「ありがとうございます」

「大事にするね!」

「これをあなたと思って大切に取っておきます」


 3人が感謝の言葉を述べると、ペガサス(母)はにこりと微笑んだ。


『それでは私達はお暇します。今回はありがとうございました』

 ペガサス(母)が地面を離れ中空に浮くと、ペガサス(子)も引かれるようにして空に浮かんだ。そしてそのままどこかへ飛び立ってしまった。



「行ってしまったな」

「うん」

「ちょっとだけ一緒にいたというのに、いなくなってしまうと寂しいですね」


 3人がそれぞれ思いを口にすると、ぽーんとウインドウが現れた。



 『クエストクリアです。

 あなた達は『ペガサスの子供を無事に送り届けろ』を無事終えました。

 追加報酬は、滋養草 ×3 です。

 新たに称号が追加されます。『ペガサスの友好者』です。』


「へぇ……滋養草ってなんだっけ」

 ワースが口にした疑問をふみりんが答えた。

「滋養草はMPを回復させるアイテムですよ。3つももらえるなんて幸運ですね、私達」

「そうね、それでこの称号って言う奴は……これかしら」

 メイがステータス画面から称号(Title)をタップした。そこには今まで『なし』と表示されていたが、『ペガサスの友好者』と表示されていた。メイはさらにタップし、詳細を見た。


「ペガサスと出会ったとき、いきなり攻撃されることはなく話し合うことができる、だって」

「ほぉ……なんか使いどころが今一だが、まぁ友好的じゃないペガサスもいるからそういう場合でもこれがあれば話し合うことは出来るというわけか」

「今すぐは関係なさそうだね……」



 ミドリが何か期待の目をワースに向けた。

 それを見て、ワースはしゃがみこみ、ミドリの頭を撫でた。

「よくやったぞ、後でご褒美あげるからな」

「きゅー」


「あはは」

 ワースとミドリの様子を見てメイは微笑んだ。

 ふみりんも頬を緩ませた。



 辺りは夕日がオレンジ色に照らし、影法師が伸びていた。

「さーて、帰りますか」

「そうだね」

「うん、街まですぐだしね」


 一行はてくてく歩いて、花の街:ブルームンにたどり着いた。





 ■■■


 ブルームンに軒を連ねる一件の酒場で、一行は旅に疲れを癒していた。

 このMMOの酒場で出される飲み物は現実世界にあるお酒やソフトドリンクである。たまにそこ限定のものも置いてあったりする。

 お酒といっても実際にアルコールを摂取するわけではないので、酔うことはない。酔うことは絶対ないはずなのだが・・・


「わーすくん、きみねーちょっとシスコンなんじゃないの?」

「違いますよ、俺はそんなじゃありませんって」

 ワースがビールジョッキ片手に喚くふみりんの体を支えながら否定した。


「なんひゃって? そんなにわらひにみりょくがないと、そうひうのね」

「だ・か・ら、違いますって」


 ワースはそっと横を見た。オレンジジュースを飲んでいたメイはすでに船を漕いでいて、もう少しで熟睡するところだった。

「はぁ、逃げやがって」

「なーに?おねえさんにはなしてみにゃさい。きみはどういうおんなのこがすきにゃの?」

「だあああ!少しは黙ってくださいよ」


 ワースは大きくため息をついた。

 (もうこの様子じゃダメだな。まぁ、先にフレンド登録しておいたからこのまんま一旦寝かせる方向でやるか)

 ワースはぐっと力を入れてやる気を出した。


「ふみりんさん。もうお酒はやめたほうがいいんじゃないんですか?」

「なんで!? わらひ、よってないよ?」

「自分が酔ってないかわからないならもう酔っているの!」

「ほらほらきみも、のみたまえ」

「いや、俺はいいです」

「なんだい、きみはつきあいわるいねー、わらひなんかいっきのみさせられたんだよー それよりひゃましひゃない」

「(´Д`)ハァ…」

 ワースは再びため息をついた。


 その後、ワースはメイを起こしたり、ふみりんの相手をしたりしてなんとか皆がログアウトした後には、ワースはそのまま疲れて寝てしまったのだった。




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