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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
16/114

12話 青年は復活する

 ■■■


「……っ!」

 ワースは神殿の中にある像の前にいた。神殿にある像の周りにはいくつか石造りの簡単な寝台があり、死亡したプレーヤーはここで復活する。


「あー、結局俺は一回死んだんだな」

 ワースはずきずきと痛む頭を抑えながら呟く。これがワースにとって初めての死亡だった。

「こんなに気持ち悪くなるんだな。これなら、ペナルティーだけじゃなくても嫌なもんだな」




 ワースはよっこいしょと体を起こすと、ちょうど同じくして体を起こした隣の人と目があった。

「「……」」

 互いに顔を見つめ合ったまましばし黙りこくってしまった。

 先に口を開いたのは隣にいた人だった。

 

「君は死亡は初めてかな?」

「あっ、はい」

 ワースは先程誰もいないと思って呟いた言葉が聞かれていたとわかり、少し顔を赤くした。感情表現がオーバーなMMOの中であるため、ワースの顔は本人が思う以上に赤くなっていた。


「うーん、初めてだと辛いよね。まぁ、俺は何度も経験してるけど、慣れないんだよね」

「そうなんですか?」

「そうそう、というか慣れたら人間として終わる気がするけどね」

「たしかに」



「それじゃ、俺は行くよ。君はしばし休んでな」

「はい、ありがとうございます」


 その男はさっさと神殿を去っていった。


 ワースはその様子を見ながら再び寝転んだ。それだけ気持ち悪かった。

 ワースは寝転びながらウインドウを操作した。PKされた時にドロップしてしまったアイテムを確認するためだ。


 ウィンドウ操作をしていきながらアイテム欄を見ていく。しかしどれ一つ欠けた様子はなかった。お金も減っていることはなかった。

「死んだらアイテムとお金をドロップしてしまうんじゃなかったのか?」


 ワースはふと装備欄を見た。

 なんと幸運のスカーフがなくなっていることに気付いた。


「あれっ?あのドギツイピンクのスカーフがなくなってる……」

 ワースは首元に手をやり再確認する。

「まさかあのスカーフが代わりにドロップしたのか?」

 ワースは少し残念に思ったものの、すぐに他の大事なものをドロップしなくて良かったと思い直した。



「さて、行くか」

 ワースはようやく立ち上がり、神殿を後にした。






 ■■■


「うん、美味しい。特にこの麻婆豆腐の豆腐の大きさがちょうどいい」

「そう! 良かったぁ!」

 夕食。真価と明奈の二人は明奈が作った麻婆豆腐と味噌汁を食べていた。本日も二人だけの夕食だった。両親は夏休みを利用してバカンスに出掛けているためこの夏休み中はいないのだった。


「それにしても、料理うまくなったな」

「えへへ、いっぱい練習したんだよ。お兄ちゃんに美味しいって言ってもらえるようにね」

「そうか、美味しいぞ。いや、これはお世辞でもなんでもなくて、本当に美味しいということだ。うん、もう食べ切ってしまったよ」

「お代わりいる?」

「まだ残っているのなら今と同じくらいくれ」

「まだまだたくさんあるよー」



 楽しい夕食が終わり、真価がソファーに座り新聞を読んでいる横に、明奈が座ってきた。

「どうした?」

「うーん、特に理由はないんだけどね」

「そうか」

 真価はそれ以上話すことはなく静かな時間が流れた。

 明奈は沈黙に耐え兼ねて口を開く。


「お兄ちゃん、今日はどうだった?この後どうするの?」

「んー、死亡ペナルティー喰らったから経験値稼がないと」

「えっ、お兄ちゃん死亡したの?」

「ああ、PKされてな。それにしてもやっぱり魔法使いは防御面がないんだよな。接近されると弱いんだよな……、って何怖い顔してんだよ」

 真価が明奈を見ると、そこには険しい顔をした明奈がいた。


「お兄ちゃん」

「はい、なんでしょう」

 明奈の雰囲気に呑まれ、つい真価は行儀良い返事をしてしまう。

「そのPKをしてきた奴らの名前とか知ってる?」

「うーん、あんまり覚えてないな……」

「……」

「あまり大したことじゃないよ」

「お兄ちゃん」

「なんだよ、って……!」


 真価は明奈の目がかすかに濡れていることに気付いた。

「おい、どうしたんだよ」

「なんで、お兄ちゃんはPKされたのにそんな平気なの!?」

「いや、別にPKぐらいでどうこうしないだろ?現実の身体には影響はないし、ゲーム内だって経験値とお金とアイテムを減らすだけだろ?」

「たしかにそうだけど! お兄ちゃんは悔しくないの!? そのPKをしてきた奴らが憎いと思わないの!?」

「うーん、悔しいとか憎いとかは思わないな。もし明奈とかミドリがPKにあったらたしかにそうかもしれないしさ。俺自身だったら、単に運が悪かったとしか思わない」

「お兄ちゃん……」

「だって、そうじゃないと憎しみが連鎖するじゃないか。PKしてPKされてっていうのを繰り返すだけなんだよ。だったら運が悪かったとそこで思考を打ち切って、モンスターと戯れてた方がいいってことだ。俺は嫌なんだよ、やったりやり返したりすることが。そんなことするぐらいだったら別のことをしろ、ってね」

「わかった。お兄ちゃんの気持ちはわかった。PKが原因でゲームが嫌いになったらって思って……」

「そうか。まぁ、俺はそこまで気にしていないぞ」

「うん。でも、この後は私と一緒にいること。私を悲しめた罰だよ」

「おいおい、……まぁ構わないけどな。それで気が済むなら」

「ん、それじゃ行こっ。待ち合わせは始まりの街のいつものところでっ!」

「まだ新聞読み切ってないんだけどな、まぁ妹の頼みだし仕方ないか」


 真価と明奈は各自部屋に戻り、『ドリームイン』のスイッチを入れた。





 

 ■■■


「おおっ、お兄ちゃんの装備変わってる!」

「メイのも見ない間に変わったな。なんか堅そうだ」

「きゅいー」


 始まりの街の東門にある銅像前にワースとメイ、そしてミドリがいた。


「ミドリってしゃべれたの?」

「なんかさっきからしゃべり始めた」

「きゅー」

「ますますかわいくなってるね、表情もくるくる変わるし」

「さすが俺が一生懸命愛を育てた介があるな」



「それじゃ、これからゴブリンの森で狩りをしよ、私とミドリが前衛で、お兄ちゃんが後衛で」

「まぁ、いいけど、メイのパーティはいいのか? たしか……なんだっけ?」

「『五色の乙女』よ。この後はお兄ちゃんといるってメールしたから大丈夫なんだよ」

「そうか、なら大丈夫か」

「それじゃ、張り切っていこう!」


 二人はハジマリの街の門に設置されたワープゲートからブルームンを指定し転移した。

 




 ■■■


「えぃっ!」

 メイの剣がゴブリンの体を切り裂く。

「きゅーい」

 鉈を振り回してきたゴブリンをミドリが受け止める。

「『ロックストライク』」

 ワースの放つ魔法がゴブリンを粉々にする。



「よし、周囲80mには敵がいないよ。休もう」

「わかった」

 メイとワースは木の根っこに腰を降ろした。


「やっぱりお兄ちゃん強くなってるね。私すごい楽だもん」

「いやいや、メイがゴブリン達を抑えてくれるから俺はバカスカ魔法が撃てるんだって」

「ふふっ」

 メイはポーションを片手に持ったまま仰向けに寝転がった。ワースも真似してフィールドに寝転がった。


「なんか、こういうのもいいよね」

「そうだな」


 そうやってしばし身体を横たえたままたわいもない話に花を咲かせた二人だった。



 しばらくして、森がガサガサと音を立てて生命の息吹を感じさせるような光景を見せているところで、突如メイは身体を起こし武器を手に持った。

「どうした?」

 ワースは臨戦態勢のメイに何が起きているか尋ねた。

「モンスターが1、2、3……6匹!」

「まじか!」

「あれ……でもなんか変。動きがなんかおかしい……って、一人のプレイヤーを追い掛けてるみたい」

「追い掛けてるってまさか……」

「うん、その人ピンチってことね」

「なるほどな……でも6体も相手するには俺らには重荷だよな。せいぜい2、3体なら助けに入るんだけどな」

「お兄ちゃん、そうも言っていられなくなったよ」

 メイがそう言うと同時にガサガサという音が大きくなり、ワースとメイの前に一人の女性とゴブリンの集団が現れた。


「しゃーなしだな」

「一丁やってみましょ!」

 ワースは杖をゴブリンに向け、メイは盾を前に突き出し、ミドリは目に戦闘意欲をたぎらせた。


「そこのお姉さん、加勢するわ、『こっち向きなさい』!」

「攻撃範囲から避けてくれよ、『サンドボール』!」

 メイがゴブリンに『挑発(タウント)』をかけターゲットを自分に移し、ワースが魔法でゴブリン達を牽制する。


「ありがとうございます」

 逃げてきた女性はワース達の後ろに周り回復薬を使い始めた。

「回復終わったら後方支援しますので!」

「わかったわ!喰らえー『グランドスラッシュ』!」


 そこからワース達は戦い続け、なんとか勝利をもぎ取ったのだった。






 ■■■


「先程はありがとうございます。私は『シルバーバレット』のふみりんです」


「あー、シルバレだったのか!どーりで見たことあると思った訳だね」

「知ってるのか?」

「なんどか見たことあるよ。後名前くらいならみんな知ってると思うけど、やっぱりお兄ちゃんは知らない?」

「あぁ、知らなかったな。『シルバーバレット』って有名なのか?」


 ワースの疑問にふみりんは答えた。


「そこそこ有名ですかね……。ところでお二人のことを伺ってもいいですか?」

「私の名前はメイ。で、お兄ちゃんの名前はワース」

「お兄ちゃんということは二人は兄妹ということですね?」

「そうだよ」

「まぁ、兄妹でゲームを一緒にするなんて羨ましいですね」

「そうかな?ふふふっ」

 メイは満面の笑みを浮かべる。


「ところでふみりん。なんで一人でこんなところにいたの?」

 質問をする気のなくなったワースを置いといて、メイはふみりんに質問をする。

「うん、今日は『シルバーバレット』のメンバーがみんな忙しくて休みになったの。せっかくだからレベル上げしていたら集団にあたってあの通り」

「そっかー、それで一人だったのかー」

「メイちゃんはいつもお兄さんとパーティを組んでいるの?」

「ううん。『五色の乙女』のメンバーだけど、今日はお休みしてお兄ちゃんといるんだよ」

「メイちゃんは『五色の乙女』だったんだ。だからあんなに強かったんだね。ということはお兄さんもどこかのパーティに……?」

 ふみりんのその言葉にそれまで会話から離れていたワースが答える。

「いいや、俺はソロです」

「そうなの?ソロって大変じゃない?」

「うーん、そんなに大変ではないですよ。ただ回復が追い付かなくなる程度です」

「結構大変なことだよね、それ。私もさっき実感したけど」



「そういえばふみりんさんの武器って銃でしたね」

 ワースがミドリを撫でる手を休めることなくふみりんに尋ねた。

「うん、そうよ。どうも剣を振り回したりするのは苦手で。銃なら扱いやすくて」

「さっきの戦いの射撃凄かったよ。あんなにばかすか眉間を狙って当たるもんなんだね。まるで普段からやっているかのようだったね」

「うう……まぁそこは秘密ということで」

「わかってるよー、別にリアルのことを聞いたつもりじゃないんだからね。気にしないでね」

「ちょっと、ミドリ。どうした?」

 いきなりミドリがどこかに行こうとしたためワースは思わず声を上げた。


「どうしたのでしょうか?」

「おいおい、ミドリ、どこ行くんだ?」

 ワースはどこかを目指して歩いていくミドリを追いかけて奥へ進んでいってしまった。


 残された二人は互いに顔を見つめ合った。

「追いかけましょうか」

「そうね」


 二人は立ち上がり、どこかへ向かっていったミドリを追いかけるワースを追いかけた。







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