9話 青年は装備を一新する
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それから一週間が経った。
ワースはなんとかゴブリンメイジを倒し、ホグワーシのクエストをクリアして職業『魔法使い』を手に入れた。多くのモンスターを倒し職業を手に入れたため、レベルも上がりスキルが増えた。
ブルームンは依然として賑わっていた。グリーンロードを踏破したプレーヤーが続々とブルームンに集まっていた。一方で、一週間たった今でも、まだボス攻略がされず次の街へ行けなかったのだった。
ブルームンから北にあるゴブリンの森が次の街へ繋がるとわかり、レベルの高いプレーヤー達は攻略部隊を組んで入っていった。ゴブリン自体はそんなに強くはないものの集団で襲って来るため苦戦を強いられた。何人ものプレーヤーが死に戻りした。
そうこうあってなんとかボス部屋の手前までは行くことが出来た。たどり着いたプレーヤー達はボス部屋の大きな扉を開こうとしたものの開けることはできなかった。扉にはこう記してあった。
『我の部屋に入るものは供え物を用意しろ』
その言葉にプレーヤー達は様々なアイテムを置いてみたものの反応がなかった。そしてボス部屋に入ることができぬまま今に至る。
ワースは今始まりの街にいた。街と街の移動はゲートを利用することで瞬時に移動することができる。ゲートは行ったことのある街同士を行き来することができる。
ワースはそれまでブルームンを拠点にゴブリンの森で新たな亀を追い求めていたが、今日は始まりの街に行くことにした。
始まりの街に久しぶりに降り立ったワースは街の様子に違いを感じた。それまではNPCだけが店を開いていて広々としていたのだが、今はプレーヤー達が店を出したり道端でマットを敷いて商売をしていた。前線はブルームンであるものの、始まりの街は活気に満ち溢れていた。
現在の攻略状況について説明しておこう。
まず、始まりの街の北の方にあるブラウンマウンテンは、攻略が進んでいない。ゴブリンの森の攻略がストップしたため多少人が来ているものの、出て来るモンスターがゴーレムばかりであまり人気はない。余程の物好きしか長居しない危篤な場所だ。
始まりの街の西の方にあるブルーベイは、そこそこ攻略が進んでいる。初めは一面は海岸と海だけで海を『泳ぎ』メリットで渡るのかと思われていたが、どうやら海岸を歩いて行った先に洞窟があることがわかり攻略が始まっている虫が嫌いな女性達はここを攻略しようと頑張っている傾向にある。おそらく1週間もあれば完全に攻略されることだろう。ちなみに洞窟ではなく海を渡ろうとした猛者も現れたのだが、海にいるモンスターのレベルが高いためなかなか進んでいない。
始まりの街の南の方にあるレッドフォレストは、それなりの攻略がされている。出て来るモンスターが蝶やカブトムシのようなものばかりで主に男性のプレーヤーが攻略している。ここはブルーベイよりも攻略が進んでいる。というよりすでにボス部屋の直前までマップはコンプリートされている。ただボスのレッドキングバタフライの状態異常攻撃、通称“痺れ粉”によってパーティが壊滅しなかなかボスを倒せないでいる。何日かすれば攻撃方法を見付けだし突破するだろう。
始まりの街の東の方にあるグリーンロードはすでに攻略され、その先のブルームンが開放されている。ブルームンには北・南にフィールドがある。東は高い塀で覆われ見ることさえできない。
北にはゴブリンの森がある。攻略状況はボス部屋に入る条件を模索中である。
南にはお花畑が広がっているフラワーロードがある。これはゴブリンの森のボス部屋の前まで行った時に開放されたフィールドで、出て来るモンスターが強い。攻撃力とかはゴブリンと同じくらいだが、ゴブリンが集団戦を好むのに対しこちらは花に擬態している。また状態異常攻撃をしてくるため苦戦を強いられる。
そういう訳で今一番人が集まっているフィールドはブルーベイ、次にレッドフォレスト、その後にゴブリンの森とフラワーロードが並ぶ。
話を戻そう。ワースは始まりの街をぶらついていた。特に何かを買おうとかは考えずに単にお金を持っていたため、何か気に入ったものでも買おうかという気持ちだった。
ワースは通りを歩いていると、いきなり声をかけられた。
「久しぶりだね、ワース君」
「あっ、お久しぶりです、姐さん」
ワースに声をかけたのは鍛治屋になるといっていたマリンだった。マリンは店の中から声をかけてきていた。
「姐さん、ついに店を持ったのですか!?」
「まぁ、これは借り物なんだけどね。それでも私のお店だ。覗いてきな」
「はい、早速……」
ワースはいそいそと4畳半ほどの店に入った。ワースはちらりと看板が見えた。それには達筆な筆文字で『マリン姉貴の店』と書かれてあった。
店の中はシンプルで売り物がところ狭しと置かれていた。武器から始まりアクセサリーのようなものまで置いてあった。
「やぁ、ミドリちゃんは元気?」
「はい、元気ですよ。ほら」
ワースはミドリのステータス画面の『OPEN』を押し可視化させた。
「おおっ、この前会った時より一回り大きいようだね。レベルでも上げたかい?」
「はい、あれから何度も戦闘をしてレベルが上がってます。それでこの前とかは……」
ワースはミドリと共にした戦闘の話をし始めた。マリンは嫌な顔一つせず、むしろ興味深そうにその話を聞いていた。ミドリと一緒にした初めての戦闘のことや、グリーンロードのボス:グリーンキングワームとの戦闘で役目を忠実に果たした話、ゴブリンの森でのミドリの活躍、いろいろな話をした。マリンはそれを一つ一つ相槌を打ち、時々質問をしたりしてあっという間に時間は過ぎ去っていた。
「なんか、すみません。長話してしまって。営業妨害でしたね」
ワースは申し訳なさそうにして謝った。それに対しマリンはにこにこしながら否定した。
「いや、とても面白い話だったよ。出来ればまた今度もそういう話を聞きたいね。そうそう、君のためにこんなものを作ってみたんだ」
マリンはウインドウを操作してある物をオブジェクト化させた。
それは杖だった。今までワースが使ってきたものとは違い、焦げ茶の木で出来ていて先端には緑色の宝石が付いていた。
「これは私が君のために作っておいた武器だ。ちょうど昨日できたばかりの新作だよ。木はゴブリンの森で手に入れることができる『オークウッド』を贅沢に使い、全体をレッドフォレストで手に入る樹液でコーティングし、先端にはMP消費をわずかに抑える宝石を使っている。もし、他の宝石があるなら付け替えることもできる。どうだい?」
「いいんですか?こんなものを作ってもらって」
「安心しな、ちゃんとお代はとるから」
「……ありがとうございます。いくらですか?」
その言葉にマリンは20000cという値段を提示した。この値段はNPCの店で売られている武器と比較してそれなりの値段である。性能は段違いだが。武器は往々にして高い。
「はい、わかりました。それではトレードを」
「そうか、そんな大金を今持ってると」
「今はたしか、40000c持ってますよ」
「っ!? どうやったらそんな大金……」
「いや、ゴブリンの森で戦っていたらそのくらい貯まりますって。そもそもお金はポーション代にしか使っていなかったから武器とか防具は最初のままで」
「そうか、それじゃ後で防具も見繕った方がいいな」
「いやいや、そんなわざわざ・・・あっ、この杖作ってくれてありがとうございます」
ワースはちょうどお金の受け渡しが済んで杖を装備した。
「その杖の名前は『オークロッド マリンカスタムver.1.04』だ。大事に使ってくれると嬉しい」
「はい。……一つ聞きたいんですけど名前の最後にver.1.04ってなっていますが、これって」
「うむ。改良していったんだよ」
「そうだったんですか、大事に使わせてもらいます」
ワースはペこりと頭を下げた。それを見てミドリも真似して頭を下げた。
「ふふふっ、ほんと君達は仲がいいんだな。
さて、それでは君の防具を見に行くとしよう。本当は私のところで扱っていたら良かったが、そこまで手が回らないんだよ。だから私の知り合いのところに行こう」
「わかりました、お願いします」
ワースとミドリはマリンの先導のもと、店を出てマリンの知り合いの店に向かった。
たどり着いたその場所はマリンの店と似たような店構えで、事前にマリンが連絡してあったため店主は店の前で待っていてくれた。
「マリン、その方が例の方ですね」
その女性は黒髪を背中の中頃まで垂らし背はあまり大きくなくワースより頭一つ分小さかった。紫陽花柄の着物を着ており、どこか落ち着いた佇まいで、まさに大和撫子という女性だった。
「お初にお目にかかります。私の名前はサトコと申します。どうかお見知りおきを」
「こちらこそすいません。俺の名前は」
「大丈夫ですよ、マリンちゃんからいろいろ聞いていますから。脇にいるのがミドリちゃんですね、かわいいですね」
「あっ、どうも」
「触ってみてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
サトコはミドリの甲羅を撫で、そのうち頭を撫でていった。
「サトコ、後でもできるだろ?とりあえず今はワース君に似合うローブを見繕いに来たんだ」
「はいはい、ほんとマリンちゃんはせっかちなんだから。はい、こちらからお入り下さい」
サトコの誘導に従い一同は店の中に入った。
「はぁー、姐さんの店とも違いますね」
「マリンちゃんは片付けしないですもの」
「私だって片付けぐらいするさっ!」
「へぇ、そう?この前見た時部屋の中洋服でぐちゃぐちゃだったじゃない」
「そっ、それはあの時急いでいていつもは綺麗にしているんだって、……ってここでリアルの話を持ち込むなって」
「ふふふっ、それでリアルだけじゃなくてこっちでも散らかしているんでしょ?」
「ぐぬぬ、あれはワース君の杖を作っているうちにいろいろ手を出していただけで」
「ふーん」
「信じていないんでしょ」
「ちゃんと掃除した姿を見せてからにしなさい」
「あのー、一ついいですか?」
「なんだ?ワース君」
「姐さんとサトコさんってリアルでも知り合いなんですか?」
「そうよ、マリンちゃんは私の娘よ」
…………
ワースはぽかーんと口を半開きにさせたまま凍り付いた。
「はぁ、って、えぇっ! そうなんですか!?」
リアクションの薄いので定評のあるワースといえども大きなリアクションを返さずにはいられなかった。
「許せ、サトコはリアルでもこうなんだ。よく若く見られるんだよ。姉妹だとか思ったんだろ」
「はい……」
「驚く気持ちはわかるがこれは現実だ」
マリンはorzポーズをとるワースの背中をぽんぽんとさすった。ミドリも真似してワースに前脚を押し付けた。
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「とりあえず今あるもので選んでみたけど、どうかしら」
「いいですね、これ」
ワースは、藍色のローブを着ていた。防御力は今出回っているローブの中でトップクラスで、消費魔力を少し抑える効果がある。間違いなく現在出回っている防具の中で上位に入るブツだ。手には同じ色の手袋がはめられており、靴も藍色だった。
「それはゴブリンメイジがドロップするアイテムを使って作ったの。全部で15000cでいいわ。今持ってる?」
「いいんですか?そんなに安くて」
その装備一式は市場に出せば倍の値段はつくだろう。
「私からのお気持ちです。今後ともご贔屓を」
「そうですね、また何かあったら新しい装備を作ってもらいに来ます」
「それじゃ、ありがとうごさいました。姐さん、サトコさん」
ワースは感謝の意を伝えながら店を後にした。
「それて、マリンちゃん、ワース君には“姐さん”って呼ばせてるんだー」
「そっそれはワースが勝手に呼んでいるだけで……」
「ふふふっ」
サトコはとても楽しそうにしていた。
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Name:ワース
Lv.15
Job:『魔法使い』Lv.5
Merit:『土属性魔法』Lv.28
『魔力運用』Lv.15
『調教』Lv.10
『棒術』Lv.20
『付与術』Lv.16
Title:なし
Equipment:
Weapon:オークロッド マリンカスタムver.1.04
Head:幸運のスカーフ
Coat:メイジインディゴローブ
Cloth:メイジインディゴシャツ&ズボン
Hand:メイジインディゴグローブ
Leg:なし
Shoes:メイジインディゴシューズ
特殊効果:消費魔力減(小)・魔法命中率補正(小)・強運・(???)




