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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第4章 Opened Capital and Unbinded Seal
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14話 「沈め、『ドロップホール』」

 ■■■


 襲い掛かる『雨降りの小路』のモンスター達をワース達はばっさばっさと切り捨て、ようやく目的地である『クライレイク』にたどり着いた。


 レインルークの街から西に進んだ先にある広大な湖:クライレイク。周囲を小高い山に囲まれぽっかりと開いた小海。中央にはぽつんと浮かんでいる緑に覆われた小島があり、蒼く輝く湖と相まって美しい光景を生み出していた。


 ワース達は目の前に広がる湖に言葉を失った。いくらゲームの世界とはいえ目の前の光景は目を見張るものだった。大概の湖は生活領域となっていて、付近に家屋が立ち並び、周囲からかき集められたゴミが湖底に沈み水色が濁っているが、ここはそうではない。幻想的、その言葉が適当だろう光景だった。


「……凄いな」

「……うん」

「まぁ、初めて来たときは私もそう思ったよ。今じゃある程度慣れちゃったけどね」

「いや、いつ見ても綺麗だろう」




 しばしクライレイクの風景を楽しんだ一行は湖辺の草原地帯へ移動した。ここに目当てのレインドラゴがポップするからだ。


「……見つけた。数6体」

「よし、そのまま狩ろう」


 ワースが全員にエンチャントを掛け、ワース達はレインドラゴの群れへ近づいていく。ノアとYuが前に出てその後ろをワースとエルリーンが続き、最後尾にどろろがついた。アイスニードルウルフのしずくはノアを乗せ、妖精形態召喚獣のぽるんはノアの肩にちょこんと座っている。一方で、仙亀のましろはぽるん同様にワースの肩にしがみつき、視線の先に群れるレインドラゴを見据えていた。

 ノアはしずくに乗りながら大剣を横に構えながら、Yuは自慢の太刀を鞘に仕舞ったまま、目標であるレインドラゴへ駆け寄る。エルリーンは手に水属性の『魔矢(マジックダーツ)』を握りいつでも放てるよう構える。ワースは他の面子に遅れないように足早に歩きながら口頭詠唱で大地属性魔法を発動待機状態まで持っていく。どろろは甲羅に生える泥の角をもぞもぞと震わせ、発射準備を整える。


 接近するワース達にレインドラゴは気付き、どどどっとその自慢の脚力を持って突進して来る。隊列を崩さずぎらつく眼光を露わに迫ってくる様は、見る者に恐怖を与える。それでもワース達は怯まず立ち向かった。


 先に接敵したのはYuだった。鞘に手を当てた手を煌めかせお手本のような抜刀術を披露しすれ違いざまにレインドラゴを切り捨てる。抵抗を見せずに斬り付けた剣閃はレインドラゴの体をたしかに捕えていたが、その一撃だけではレインドラゴは倒れない。さすがは竜に属するものであることを証明するかのように斬り付けられたレインドラゴは爪を振り上げYuに叩き付ける。それをYuは返す刀で受け流し距離を取った。


 一方で、他のレインドラゴはYuから外れて大量の水を纏った大剣を振りかぶったノアの一撃を受けて足止めされた。水属性魔法を受けると体力を回復するが動きを止めてしまうレインドラゴ。戦闘開始直後の体力の減っていない状態ならばその性質はただの弱点となる。

 大量の水を纏った大剣の一撃『ヒュルーヴェラシュラーク』がレインドラゴを薙ぎ払い、その後に続くようにレインドラゴの足元から突き立った岩がせり出す。杖を地面につき、待機させていた大地属性魔法を解き放ったワースによるものだ。ワースは続けて魔法を詠唱し、レインドラゴへさらなるダメージを与えるべく動いた。ワースの肩にしがみつくましろも、ワースの魔法が発動すると同時に幻惑魔法を展開する。実体のない炎がレインドラゴの目の前に現れ、そのぷりんと剥き出しになった鼻先を炙る。突然燃え出した鼻先にレインドラゴは驚き、動きを止める。中には慌てふためく個体もいたが、すぐさま幻惑を振り払い攻撃に戻るものもいた。


 そんなレインドラゴへ水の魔矢が突き当り、レインドラゴは身に持つ性質に従って機械的に動きを止める。そこへ哀れにも動きを止めたレインドラゴをあざ笑うかのように地属性の魔矢が突き刺さる。風と水の属性を持つレインドラゴにとって地属性は、属性相性の狭間に置かれた弱点とは言わないまでも通常よりも手痛い属性攻撃である。それが何本も連続して突き刺さる。エルリーンは空を跳躍しながら手に地属性の魔矢をひっきりなしにに生み出し続け投げ続ける。


 レインドラゴは空を見据え咆哮をあげる。手が届かない場所から攻撃されるのであればこちらからも届く攻撃をすればいい。そう考え、口元に水弾を生み出し発射しようとするレインドラゴもいた。

 しかし、またもその行動は別の方からキャンセルされる。いまにも撃ち出そうとしたレインドラゴを両断するような斬撃が走る。切り裂かれダメージのあまり後方へ後ずさるレインドラゴの口元に浮かんでいた水弾は集中が切れ掻き消された。斬撃を喰らわせたのは先行して敵を撹乱していたYuだった。


「1匹撃破」

「了解。っと、こちら1匹残1割」

「加勢する」


 Yuがあげた声にノアが言葉を返し、Yuは返す刀で次の獲物を探す。


「こちら牽制4。そろそろきつい」

「こちら足止め魔法。発動待ち」

「よろしく」

「了解」


 レインドラゴを魔矢で牽制していたエルリーンからの要請に従ってワースは詠唱を済ませてあった魔法を発動させる。


「沈め、『ドロップホール』」


 大地属性魔法『ドロップホール』

 敵の足元に作り出した泥沼が敵の足を掴み、そのまま底無き底へ引きずり込む魔法だ。その魔法自体に直接ダメージを与える効果はないが、一定の範囲内の敵の行動を阻害する。


 そんな底無沼が、エルリーンの魔矢を受けてもなお生き残っているレインドラゴ達の足元に現れ、下へ引きずり込んでいく。足元を捕らわれたレインドラゴは抵抗するもののその場に釘づけにされたままその場から逃げ出すことは許されなかった。




 そして、レインドラゴ達はワース達の猛攻に反撃らしい反撃を見せずに塵となって消えた。

 残ったのは革と肉と鱗、そして竜玉だった。




「なかなか上手くいったね」

「基本敵の出かかりを潰す作戦で言ったからね。他のモンスではなかなかこううまくはいかないだろ」

「ドロップもなかなかおいしかったし、もういっちょ行ってみる?」

「そうだな、まだ竜玉1個しか手に入っていないし」

「もしも、こっちで出たらそっちに譲るわ。その代り、ね?」

「それはありがたい。代わりに革を渡すよ」

「それじゃ狩りを続けますか」

「りょーかい」


 その後もワース達はクライレイク周辺の草原に群がるレインドラゴを見つけては殲滅するを繰り返した。途中ワース達と同じようにレインドラゴ素材を求めて狩りをするパーティと出会ったが、二三言葉を交わして別れた。ちょうどそのパーティがレインドラゴの群れを相手にしていたため、その邪魔にならないように挨拶を交わした。



 目標の個数の『レインドラゴの竜玉』は集め終え、そろそろ狩りを切り上げようかと思い立った頃。

 ワース達はある異変に気付いた。


 湖辺にいるモンスター達が、どことなくそわそわとした挙動を見せ湖から離れていたのだ。レインドラゴも例外ではなかった。何か湖に潜むものから逃れようとしている風に見えた。


 ワース達は何が起こってもいいように武器から手を離さず、異変の原因と思しきクライレイク中央部を眺めた。クライレイクの中央には緑輝く小島があるだけだ。特に何の変化も起きていない。来たときと変わらぬまま、精々時間が経って空が青空から夕陽に変わったぐらいだ。

 何かイベントでも始まるのかと期待半分不安半分だったワース達は、じっと待っても何も始まらないことに思わずため息をついた。何か始まるのではないかと緊張してみれば、肩透かしのように何も起きない。なぜモンスター達が湖から逃げるように離れていったのかはわからないが、しばらく待っても何も起きないことに肩の力を抜いた。


 元々狩りを終えるつもりだったのに加え、こんな気が削がれるような状態になったためワース達はさっさと帰ることにした。見れば先ほど挨拶をした別のパーティも帰り支度をしている最中だった。




「あれ……?」


 ワース達は帰るべく『雨降りの小路』への道を進もうとして何かに阻まれるのを感じた。まるでクライレイクのエリア一帯を覆う様な壁があるかのように。

 初めは何かの冗談かと思った。このゲームMMOにおいて、今まで一度もこういったバグに遭遇することはおろか耳にしたことはなかった。


「……どうなってる」

「ダメね、帰還アイテムも使えなくなってる」

「まさかログアウトができないってわけでは……うん、ちゃんとログアウトはできるか」

「でも、フィールドでログアウトすると5分もアバターが残るわけで。まぁローテーションでログアウトすれば一応問題ないか」

「一応運営に報告した。すぐに対応してくれると思う」

「そうだといいんだけど……何か嫌な予感がするのよね」

「あぁ……モンスターが逃げ出したことといい、何かあるよな」


 そうこう言っている内に状況は動き出す。


 クライレイクの湖から水がせり上がり、唐突に黒い影が湖上に姿を現したのだった。


 それは『怪物』だった。


 蛇のように細長い頭。せり上がる小島のような胴体。湖の水を叩き巨大な水柱を生み出すひれ。

 黒々とした、いや光を通さぬ漆黒に彩られた肉体に、その周囲に纏わりつくモザイクのように崩れた空間。

 首長竜、と言ってしまえば簡単なのだが、ゲーム内で相対するモンスターのどれでも感じたことの無いレベルの威圧感が遠くにいるワース達を襲う。



「なんだよ、あれ……」

「突発的イベントボスかよ……ってあれ?」

「どうした、ノア? 何かあったのか?」

「……識別できない。レベルはおろか、名前さえわからないんだけど」

「私もそうね。一体どういうことなの……?」

「とにかくだ。ここは交戦は避けるってことでいいか? わからないことが多すぎる」

「了解」

「もちろんだ」

「そうね、いくらなんでも強制イベントな訳でもないだろうし……」


 ワース達がじりじりとクライレイクに浮かぶ巨大モンスターを見ていると、“それ”は天を仰ぎ咆哮をあげる。耳をつんざくような、それでいて体が打ち振るえるような音が辺り一帯に広がる。


 どれくらい時間が経っただろうか。咆哮をあげた“それ”はワース達のいる辺りを睥睨する。明らかに何かを見つけた感じだった。


 そして、“それ”は再び行動を再開する。口元に大きな水弾を作り出しながら。




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