12話 「『レインドラゴの竜玉』を3個」
遅れてすみません。そして駄文ですみません。
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「えっと……何が起きたんだ?」
「……一言では説明できない」
ノアは目を惹く虹色のスカーフを付けて幼女を抱えている男を前に呆れた表情を浮かべた。
「何というか……まぁいいや。で、これからどうする?」
ノアはこれまでのワースとの付き合いからあまり突っ込まない方がいいと判断し、話を促した。
「どうしようか。あるふぁと子音は昨日に引き続き休みだろうし、テトラとマリンはこっちで用事があるそうだ」
「そうなるとアカネちゃんとニャルラか。まぁ、それぞれ用事はあるだろうし、いつもの通り各自行動で良さそうだね。で、俺たちはどうしようか? ちょうどよさげな採取依頼見つけたんだけど、一緒に行かない?」
「採取依頼か、どんなの?」
「『レインドラゴの竜玉』を3個」
「あれって結構ドロップ率低い奴だよな」
「wikiだと5%以下だって言われている奴だよ。まぁ、レインドラゴ自体単体ではそんなに強い相手ではないし」
「それはノアの話だろ。こっちは純粋魔法職だから結構大変だって。まぁ、ベのむん使えばそこそこいけるかな」
レインドラゴ。始まりの街から南に行った先にあるレインルークからさらに西に行った先にあるクライレイクに生息する亜竜。体長は1mほどの4足歩行の爬虫類然したモンスターで、岩場が多い区域に適応した強力な脚が高速な移動を可能にする。属性は水と風で、時折属性を纏ったブレスを吐き、鋭い牙で噛み付いてくる。水属性の攻撃を完全に無効化できる性質を持っているが、無効化する際に一瞬足を止めるため、レインドラゴを狩るには一旦水属性の攻撃を当てて動きを止めてから狩るのがいいとされている。他にも状態異常の耐性が低く、仮にも竜であるのにあまり強くないと言われている。しかし、レインドラゴの神髄は徒党を組み緻密な連携を見せる集団戦闘を行ってくる点である。だいたい5,6体で群れを作り、車輪のように流動的に攻撃を加えてくるのが特徴である。レインドラゴのその機動力と相まって、必ずと言っていいほど乱戦に陥り後衛プレーヤーが先に落とされるという事態が発生するのが多い。
「よし、それじゃあ行こうぜ」
「あい、わかった。えっと、ましろは……なんだ妖精状態だとペット枠に入らないのか」
「えと……改めて聞くようだけど、その子って……」
「最初に質問しろよ。こいつはレイドイベントの報酬でもらった卵から生まれた『仙亀』のましろ」
「よ、よろしくなのじゃ」
「しゃ、シャベッタ!? え、妖精と同じ感じでAI搭載されてるのか?」
「妖精化っていうメリットでこういう喋れる状態になるんだが。なるほど、これならパーティ枠圧迫しないのか」
「へーよくわからないけどそうなんだ。せっかくだから、こっちも召喚しておこうっと。『召喚』」
ノアの『召喚』に従って、虚空に浮かび上がった魔法陣から手のひらサイズの妖精がふわりと現れる。ノアの召喚獣のぽるんだった。
「あれーなにか用かな? 戦い? それともおしゃべり?」
「うーん、顔合わせかな?」
「あ、わたしとおんなじのがいるー」
ぽるんはふわふわとましろの元へ行くと何やら楽しく会話をするのだった。
「さて、と。行きますか」
「そうだね」
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レインルーク。帝都から始まりの街まで転移陣を使い、そこからさらにここまで一っ跳びで転移してきた二人。
レインルークは雨の街。年柄年中雨が降り続けている訳ではないが、日差しが照り付けることはなくどんよりとしたイメージを与える街。そこにワースとノアはここからクライレイクを目指して歩くつもりだった。ここから先は二人ともあまり訪れたことがなく、いつもと違った新鮮さを感じていた。
「まずパーティ編成しようか」
「そうだな、まず俺とノアは確定で、そこにしずくを入れるだろ?」
「うん」
「ノアの方はそれでいいとして今度は俺の方だな。あまりペットを多くすると指示が大変になるから、べのむんだけでいいかな。今回だとミドリはちょっと相性悪いし」
「まぁ4人でも十分じゃない。別に格上を相手取ろうとしている訳じゃないし」
「たしかにそうだな、っと。パーティ申請出したぞ」
「お、ありがと。さてさてOK、OKっと。これでいいね」
ノアとしずくが無事にパーティに入ったことを確認して、ワースはとんと腰元に括り付けてある杖を叩く。
二人と二匹のペットに加え、二体の妖精は今回の目的のレインドラゴを求め、レインルークを後にするのだった。
……となるはずだった。
「おぉ、もしかしてノア君かなぁ?」
「久しぶり、レイドイベント前に会ったきりだね、エルリーン」
山々の合間から差し込む朝日のような黄金の髪を靡かせた一人の女性が、ノアを見かけるなり声を掛けてきたのだった。
彼女の名はエルリーン。
ノアの知り合いで、ノアと同じく『召喚術』を使う『魔矢使い』だ。森の民エルフを模したロールプレイをしていて、それに合わせたメリット構成をしている。ノアとは何度か『召喚術』関連のイベントで一緒になり、その持ち前の明るさからあまり積極的でないノアと友人として付き合えるようになっていた。
「そうね、あれからいろいろとあってね。それで、ノアは何しに?」
「ちょっと『レインドラゴの竜玉』を、ね」
「あら、奇遇ね。こっちは革の方が欲しいのだけど同じくレインドラゴを狙うのね。ソロ、じゃないのね。紹介してもらえる?」
「あぁ。ワース、この人は俺の知り合いのエルリーン。で、エルリーン、こっちは俺の所属するクランのリーダーのワースだ」
ワースは少し物珍しそうな表情を浮かべながら、エルリーンと言葉を交わした。ワースは当然エルリーンを知らなかったが、エルリーンの方はワースのことを知っていたらしい。なんでも亀が好きすぎる魔法使いということでワースのことに興味を持っていたそうだ。
「おや、エルリーン。後ろにいるのは……?」
「あ、そうそう忘れてた。ごめんね、Yu」
エルリーンは後ろに所在なさげに佇んでいた青年に声を掛けた。
「いいって。知り合いだったんだろう?」
「ホントごめんね、えっとこっちはYu。私の知り合いで、今はパーティ組んでいるんだよ」
Yuと紹介された青年:赤や金の色を使った煌びやかな軽鎧を身に纏ったいかにも武将という雰囲気を醸し出している麗しげな青年は手を軽く上げて紹介に応えた。
「はじめまして、Yuと言います」
「こちらこそはじめまして」
「はじめまして」
ノアとワースがYuの挨拶に応えると、Yuは少し首を傾ける。
「ワース君は初めてじゃないと思うんだけど」
「えっ、と……」
「ポイズンゲート」
「!? ……あぁ、思い出したよ。あの時はありがとう」
「思い出してくれて何よりだよ。その時はどうも」
そう、ワースは忘れていたがYuとは、昨年の12月にポイズンゲートでクシナダに襲われたのを助けてもらっていた。その際にフレンド登録していたものの、機会がなくその後一度も会うことはなかった。それが何の運命かこうして再び会うことができたのだった。
「その肩に乗っているのは何か聞いてもいいか?」
「ん? レイドイベントの報酬で手に入れたペット。仙亀のましろって言うんだ」
「んー? わたし?ましろっていうのーよろしくー」
「「!?」」
なんやかんや改めて自己紹介をした4人は同じ目的であることから一緒にレインドラゴを狩ることになった。一行はレインドラゴを狩るために、その慣らしも兼ねてレインルークからクライレイクへ向かって『雨降りの小路』へ足を踏み入れた。
時間が欲しい……時間があれば……ぐぅ。




