11話 「ありがとうなのじゃ♪」
投稿日1日間違えていました。すみません!
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クシナダとのデュエルの後、ワースはすでに結構な時間が経っていてクランメンバー達からメールが来ていることに気付いた。あるふぁと子音はインフルエンザ、ニャルラは所用によりログインできないとの旨があり、他のメンバーはすでに帝都にいるとの連絡だった。気になることはあったものの、ワースはすぐに帝都へ向かった。
その後、いるメンバーでパーティを組み、ダンジョン『蒸れる群れる古井戸』に挑んだのだった。
翌日。
真価は朝のそのそと起き上がり、すでに用意されている朝ご飯を食べにリビングルームへ降りた。真価はもうすでに大学が春休みに入っており暇であるが、明奈や朱音はそうではない。故に明奈と朱音はそれぞれ学校に向かっており、真価は一人家に残っていた。
ふあぁと大きなあくびをして、真価はぐぐっと背伸びしてなんとか意識をいつものものにすると、日課である亀愛でタイムに入る。亀達に餌をあげ、水槽の様子を見て汚れがあるようならば洗い、亀達の体調をチェックし日誌をつける。その後、さすさすと甲羅を撫で、水槽の外から指で亀達の興味を誘い、優雅なひと時を楽しむ。真価にとって一番落ち着く時間だった。例えどんな時でも一日一回は、亀の世話と共に亀愛でタイムを取っている。どんなにレポートに追われていようが、どんなに試験が目の前に迫っていようがお構いなしである。それが武旗真価という、亀が好きな男である。最近はMMOに時間が取られなかなか敢行出来ていないが、亀がいる動物園・水族館・公園を巡るのが真価にとって2番目に落ち着く時間である。ちなみに3番目は亀グッズを買う時である。
真価は一通り亀達を愛でると、ベッドの隅に置きっぱなしになっている『ドリームイン』を手に取りすっぽり頭にかぶせた。今日もまた真価はMMOをプレイするのだった。
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ワースは帝都北街にある宿屋の『亀が好きすぎる魔法使いと愉快な仲間たち』で借りている一室で目を覚ました。正確に言えば目を覚ましたのではなく、MMOにログインしたのであるが、現在ワースはベッドの上にいるため傍から見れば目を覚ましたかのように見える。ワースはいそいそとベッドから這い出て部屋の隅に座り込んで何か連絡が来ていないか確認した。メールは2件着ていて、一件目はテトラからでどうやら知り合いから助太刀を頼まれてそっちの方でパーティを組んでいるとのこと。もう一件目はマリンからで、今日一日は鍛冶の依頼をこなすためダンジョン攻略は参加できないとのことだった。あるふぁと子音は昨日からインフルエンザのためお休みなのはわかっている。ワースはクランメンバーのログイン状況を確認すると、用事のない面子でただ一人ノアがすでにログインしていることを発見した。ワースはすぐさまノアにメールを送り、その返事が来るまで昨日クシナダとのPvP戦でなぜか手に入れたアイテム『幸運のスカーフ』を確認するのだった。
『幸運のスカーフ(改)』
世界に7つあると言わる不思議なスカーフの中でも、身に着けると幸運になるスカーフ。一度持ち主の元を離れたものの、数奇な運命に導かれ再び持ち主の元に舞い戻って来たスカーフ。その運命により本来の性能を開放しているが、まだ真の姿を隠し持っているようだ。
LUC:最終値2倍
特殊装備効果『幸運』……持ち主の幸運にする、いかなる時も。
特殊メリット『***』……(現状未開放)
『原点回帰』……この装備が装備解除状態になった時、持ち主の元に帰り再び装備状態になる。この効果はいかなる条件下でも発生する。
「……どこから突っ込めばいいんだ?」
ワースは変わり果てた『幸運のスカーフ』にため息を漏らした。ワースの手に握られているのは虹色の『幸運のスカーフ(改)』。ワースは最初に手にし、そこから最後クシナダの手を離れるまでショッキングピンクの『幸運のスカーフ』は再びワースの手に戻ることでなぜか変わり果ててしまったらしい。効果も以前のものより効果が上がって(?)いるようだ。LUCの最終値2倍とは、ステータス振りによって設定される初期値に、職業やメリット、装備などによる補正を掛け、そこに一部装備やスキル効果による修正値を加えたのが最終値であり、それを2倍してしまうということである。基本的に装備の能力補正は初期値にしか掛からず、全体である最終値に補正がかかるのは珍しい。
その後に続く効果にもいろいろと問題がある。特殊装備効果『幸運』の説明は説明の体を為していないし、特殊メリットにおいてはそもそも開放されていない。『原点回帰』は誰にも奪われないことを良しとすべきか、装備解除できないことを嘆くべきか悩みどころだ。ルビにそこはかとなく悪意を感じる。
「とりあえずこれはしまっておこう……」
ワースはそう言ってスカーフをインベントリに戻そうとすると、スカーフは目にも留まらぬ速さでワースの首元に巻き付き、まるでそこが自分の定位置だと言わんばかりにワースの首元に収まった。一瞬の出来事にワースは目を白黒させたが、半ば諦める様に現状を受け入れた。かくしてワースの首元には虹色に輝く『幸運のスカーフ(改)』が収まることになるのだった。
気になっていた『幸運のスカーフ(改)』の件を片づけ、そのままインベントリの整理をするワース。ふとレイドイベントの報酬でもらった『可能性の卵』を仕舞いこんだままだと気付き、手元に出してどんな風になっているのか観察する。
『可能性の卵』
数多の可能性を秘めたモンスターの卵。何が生まれるかわからない。孵化する者の得た経験を糧に成長する。卵であるが食材ではない。
時折中から動いてる音がする。もう少しで生まれそうだ。
*破棄不可
*破壊不可
*運命選択影響下
「うーん、もう少しか……」
ワースは卵を抱えながら、もう少しの文言に唸る。はたしてどんなモンスターが生まれてくるのか。亀であればいいのだが、亀以外だった時にワースはせっかく生まれたモンスターをテイムして育てられるか。せっかく手に入れたのだからで育ててしまてはなんだか申し訳なく感じるのだった。だからといってワース自身亀でなければあまり興味を持てない性質である。その時は、あるふぁにもらってもらうしかないなとワースは思った。あるふぁなら大事に育ててもらえることだろう。その方が生まれてくる子のためであると考えを終わらせ、ワースは卵をさする。卵からはぴくぴくと振動が伝わってくる。ふと先ほど見てた情報欄が変わっていることに気付いた。
『可能性の卵』
数多の可能性を秘めたモンスターの卵。何が生まれるかわからない。孵化する者の得た経験を糧に成長する。卵であるが食材ではない。
あ、もう生まれる。
*破棄不可
*破壊不可
*運命決定
「おろ……おぉ」
びくんびくんと跳ねる卵をワースは押さえつけるようにして抱え直し、ぴきぴきと殻が割れていく音が胸の中から聞こえてくる。『可能性の卵』から新たなモンスターの誕生の瞬間だった。
ワースは期待半分不安半分の表情で誕生の瞬間を見守る。
そして、卵の殻に入っていた罅が全体に行き渡り、ぱかりと卵の中からモンスターが現れた。
「うにゅ……」
ぴょこんと突き立った耳、綺麗な楕円のカーブを描く甲羅。
小さいながらも水を掻ける前脚、どっしりと体を支えられる後脚。
お尻にはふわっと全身を包み込めるほどの白い髭のような尻尾。
爬虫類然とした亀の顔がそこにあった。
『仙亀』
奥地に生息していると言われる謎に満ちた亀。様々な固有能力を持ち、その全容は明らかにされていない。
「仙亀……」
「にゅ? うー」
生まれたばかりの仙亀はワースの顔を見てぴょこんと首を傾げると、徐に体を丸めた。途端にぼふんと紫色の煙が仙亀を中心に巻き上がり、思わずワースは顔を背けた。煙はすぐに晴れ、ワースは仙亀に何があったか再び目を向けると今度はそこに手のひらサイズの妖精がいた。ぴょこんと突き立った狐耳を彷彿とさせる耳がぴこぴこと蠢き、背中には渋茶の甲羅を背負っている。色もついているものも仙亀と変わらないものであることから、どうやらこれもまた仙亀であるようだった。
「はじめまちて、ごしゅじんさま♪」
「お、おう」
「あたちは仙亀じゃ。ごしゅじんさまのおやくにたつようにがんばるので、よろちくおねがいするのじゃ。それでそれで、あたちになまえをつけてほちいんじゃけど……だめ?」
「……」
いきなり話しかけてきた仙亀にさすがに絶句するワース。NPCならいざ知らず、まさか生まれてきたモンスターが喋ると夢にも思わなかったのだ。
「ねぇねぇ? だめじゃ……?」
「あ、あぁ……えっと」
涙目になる仙亀に再起動を果たしたワースは頭を捻る。そして、頭の中から仙亀に合う名前を探し出した。
「……それじゃあな、『ましろ』でどうだ?」
「ましろ……うん、ありがとうなのじゃ♪」
仙亀改めましろは満足そうな笑顔でワースの体にすり寄るのだった。
『ましろ(仙亀)』
所有メリット
『妖精化』(固定)
『幼獣』(固定)
『幻術』
『水属性魔法』
『学習』
『妖精化』……妖精に変化することができる。妖精化時は体が変化し言葉をしゃべることができる。また妖精化時は一部メリットの使用不可になる。
『幼獣』……生まれたばかりのペットに与えられる称号。成長率1.5倍になり、ステータス制限が発生する。一定まで成長することで解除される。幼獣独自のスキルを使用可能になる。(スキル『甘えんぼ』・『いぢめないで』など)
『幻術』……対象相手を惑わす系統の魔法が使えるようになる。(スキル『幻惑』・『閃光』など)
『学習』……テイムしたプレーヤーの持つメリット一つを取得可能。取得後このメリットは消滅する。




