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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第4章 Opened Capital and Unbinded Seal
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9話 「おう、こうして会うのは久しぶりだな」

 ■■■


「あぁ、君が!!」

「そう、私がテトラ。こちらでは初めまして、ワース」


 来夏はそう言って、にっこりと笑みを浮かべた。思わずその笑みに見惚れてしまった真価。こほんと遊馬が咳払いをする音に、慌てて言葉を返す。


「テトラが俺にリアルで会いたかったわけか。たしかテトラと出会ったのも遊馬のおかげだったな」

「真価、私のことは来夏って呼んで。私も真価って呼ぶから」

「お、おう。あの時、遊馬に誘いのメール送ったら代わりに紹介されたんだよな」

「あーたしかにそうだったな。俺はあの時兄貴のパーティで狩りをしていたからな。代わりに行ける奴いないかなと思って探してたら、ちょうど来夏のことが頭に浮かんでさ」


 その頃は来夏/テトラは基本ソロで活動していて、たまにいろいろなパーティに穴埋めの形で入っていた。特定のパーティには属せず、いわば傭兵というスタンスでプレイしていた。荒谷遊馬/レオと出会ったのもその繋がりからだった。レオが所属するクラン、当時はまだパーティでしかなかった『チョコレート・カレーライス』はたまにメンバーが揃わないことがあり、その穴を外から募集することによってその日の狩りを普段と遜色ない実りにした。いつものメンバーに欠員が生じた時、外から人を入れずにいつものメンバーだけでパーティを組む、という考えのプレーヤーはそこそこ多い。たしかに相性や連携を考えるといつもの面子を保つことはメリットが多い。だけれども、いつものメンバーがいつもログインできるとは限らない。それぞれリアルでの事情があるため、皆一斉にログインできないことの方が多いだろう。『チョコレート・カレーライス』のメンバーはそれぞれが互いに忙しく、なかなか時間を合わせることが難しかったりする。互いにばらけている時ならそれぞれがそれぞれで行動すればいいが、中途半端に揃ってしまった時に欠けた穴をどうするか、という問題に傭兵的ポジションのソロプレーヤーを一時的にパーティに入れることでそれを解消した。


 そんなこんなで傭兵的役割でテトラはレオと知り合い、意外と年齢が近いということで(実際は同学年だった)意気投合し、フレンド登録していた。その繋がりから、ワースの話を聞いたレオはテトラを紹介した。この時レオはまさかテトラとワースの付き合いが続き、最終的にワースのクランにテトラが入るなんて想像もついていなかった。


「あの時は助かったよ。あの後もちょくちょくテトラに、いや、来夏にはお世話になったしさ」

「いやいや、俺はあくまで紹介しただけだ」

「うん、紹介してもらっただけ。……でも、そのおかげでワー、真価と会えた」

「そうだな……」

「真価と蓮城がまさか同じクランにいるなんて想像もつかなかったぜ。真価がクランを作ったのと同じくらい驚いている」


 それから真価と来夏、遊馬の三人は、それぞれ自己紹介をしながらぼちぼちと目の前の昼食に手を付けた。


「まさか同じ大学に通っていたとは」

「私も、初めて知った時は驚いた」

「俺も俺も。まず蓮城が大学生だってことにも驚いたけど」

「えっ? 来夏はどうみたって大学生だよな?」

「……俺は最初高校生ぐらいだって思ったんだよ」

「たしかに見た目からはそう思っても仕方ないだろうけど」

「むぅ」

「ごめんごめん。でもさ、話していればその内容・話し方から大学生くらいだってわかるだろ?」

「いやいや、普通そこまでわからないから」

「そうかな?」

「亀が好きで人間には興味ありませんって人がなんでこんな能力身に着けてるんだか」

「能力って言っても」

「ほら来た自覚なし」

「ふふ、真価と荒谷。仲がいい」

「まぁな。こいつとは長い付き合いだし」

「たしか中学生の頃からだっけか」

「そんなになるんだな……」


 二人の様子に来夏は少し羨ましい気持ちを抱いた。こういう友達が自分にもいたらなという気持ちだった。


「真価。これ」

「ん? 何この包みは」

「おっ、まさかそれは……!」

「家帰って開けてみて。中身は、ちょっと遅くなったけどチョコだから」

「やっぱりかー」

「チョコ? バレンタインって、来夏は当日にもくれたじゃないか」

「でもあれはMMOの中。たまたま(・・・・)作ったから持ってきた。食べてほしい。それは義理だから ……今はまだ」


 どこか焦るように言葉を募らせる来夏。言葉の最期の方は尻すぼみになっていて真価に耳には届かなかった。


「そうか、それならありがたくいただくよ」

「よかったな、真価」





 ■■■


 昼食を食べ終え、3人は講義までの時間をせっかくリアルで会ったのだからといろいろと積る話をした。もっとも身の回りの話以外では、真価の『タマシイコネクション』についての話がメインだった。遊馬も来夏も『タマシイコネクション』は人の話でしか知らず、真価に実際に目の前に出されてその謎技術の結晶の凄さにただただ驚かされるだけだった。リアルの姿とはいえ、来夏/テトラも遊馬/レオナルドのことも知っているミドリは至極嬉しそうにじゃれついてきた。三人はそんなミドリと戯れながらあっという間に昼の時間は過ぎてしまった。


 来夏も真価たちと同じ特別講義を受講していて、3人はそのまま講義が行われる大教室へ行った。そこはすでに学生が多くいて、なかなか席が取れなかったが、運よく3人掛けの席が取れたため真価を真ん中にその隣を来夏と遊馬が座った。


 講義の中身は、一般的なVR技術の話から始まり、中盤からVR技術の限界とそれを解消する別のアプローチの話になった。正直後半は眉唾物のように思える荒唐無稽な話であったが、今後の技術発展の可能性を知ることができて実に有意義な講義だった。


 講義が終わった後、真価達は先ほどの続きをするかのように大学の近くのコーヒー屋に入りしばし雑談を楽しんだ。今度はMMOの話がメインだった。真価は、こうして仲間たちとリアルで話し合えるこの状況を楽しんでいた。亀にしか興味がない真価とはいえ、彼もまた一人の男である。友達との雑談は楽しいし、目の前にいるかわいい女の子と話せる機会はそうそうなくそうした意味を含めて、来夏との邂逅はとても楽しいものだった。


 いつしか日は傾き夕暮れが空に映し出されていた。真価たちは名残を惜しむように別れた。来夏はまた連絡できたらと自分から真価に連絡先の交換を迫っていた。真価はどう反応したらいいかわからずにどぎまぎしたものの、なんとか連絡先を交換することができた。


 ふわふわとした楽しい気分を残しながら真価は帰りの電車に乗り、窓の外を見た。空は橙色に染まり、夜の帳がすぐそこに見えた。楽しい時間もいつかは終わってしまう。終わりのないものはない。それと同時に終わりがあれば始まりがある。明けない夜はない。またいつか楽しい時間を過ごすことはできるだろう、わりとすぐに。真価はまた来夏とリアルで会いたいなとぼんやりと思った。




「ただいまー」


 今日一日に少し疲れを感じた真価は、気だるげに家の玄関に立った。この時間ならば明奈はすでに帰っているだろう。優秀な妹のことだから、声くらいは掛けてくれるだろうなと思っていたが、なぜだか今日は返事がなかった。

 不思議に思った真価は玄関に妹の靴があることを確認し、母親の靴まであることを見つけ、そして見たことの無い靴があることに気付いた。


 なんだろうと訝しげに思いながら真価は自分の部屋へ向かう。その階段にて、母親と妹の声が階上から聞こえてきた。


「なんだ、明奈の部屋にいたのか。誰か来てたのかな」


 真価はどうせ妹の友達だろうと考えながら自分の部屋の扉をいざ開けようとしたところで、いきなり妹の部屋の扉ががらっと開かれ驚いた。


「母さん」

「帰って来てたのね、真価」

「なんか用でもある?」

「そうそう、その話なんだけどね」


 真価の母親の話によると。真価の母親の義妹の神内(じんない)亜照祢(あてね)には一人娘がいて、亜照祢自身はいつも仕事で家に帰るのが遅くてその娘さんには苦労を掛けているそうで、そうなんだけれど急な出張で亜照祢は遠くに行ってしまうそうだ。長く家を空けることになり、いくらなんでもその娘さんに大きな負担になってしまう。そこで相談された真価の母親は、ならばうちに預ければいいと答えた。

 そして、真価の家に従妹である亜照祢の娘がやって来た訳だった。


「……はぁ」

「という訳だからね。しばらく家に住まわせるからねって話」

「まじかよ……」


 真価はいきなりの話に嘆息した。

 従妹がいきなり家に住むというだけでも驚きなのだが、その上ゲームの上で一緒のクランの相手となるとこれまた驚きが上乗せされる。


「あっ……」

「おう、こうして会うのは久しぶりだな。覚えているか?」

「覚えているも、何もほぼ毎日会っているじゃないっすか」

「まぁ、だよな……」



 真価は空笑いを浮かべた。

 今日は全く休み暇がなかった、と真価は天を仰いだ。目には天井の壁紙が映った。





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