4話 「俺は何も変なことしていないぞ!」
なんと今回が100話目です!わーぱちぱち
……
遅れて申し訳ありませんでした<土下座>
ではでは、本編をどうぞ。
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新感覚アプリ〈タマシイコネクション〉は真価の元に届いただけでなく、様々な人の元へ届けられた。
「これは……」
タートルネックのニットを着た、それまで気だるげな表情だった女性は突然送られてきたメールに一瞬にして目を奪われた。それまでVRゲームをしていたため精神的に疲れを感じていたが、メールの文面を読んで疲れが吹っ飛んでしまったようだ。
「……!」
彼女はメールを一通り読み終え、すぐさま凄まじいスピードでボールペン型仮想系携帯デバイスを操作し、既にインストールされた一つのアプリを起動した。立法型の格子がぐるりと回転し、ぱっと強い光を放つ。彼女は思わず目を瞑ってしまうが、光はすぐに収まり彼女は恐る恐る目を見開いた。
「ぐるるおお?」
「!?」
画面には見たことのある、いやよく見ているものが映り込んでいた。燃える様な赤い鱗に身を包んだ蜥蜴がデフォルメされた状態でじたばた手足を動かしていた。デフォルメされているが、これは、彼女がMMOの世界でペットとしてかわいがっている『ディノ』だった。
「ディノ!」
「ぐろおお!」
彼女、MMOでは『あるふぁ』というハンドルネームを使っている女性、は目の前の愛しのペットに歓喜の声を上げるのだった。
別の場所では。
「ぽるん!?」
一人の青年が宙に浮かぶ仮想画面に映る水色の妖精を見て声を上げた。その水色の小さな妖精はぽわぽわと画面内で浮いていて、あちらへふわり、こちらへふわりと興味津々に画面内を飛び回っていた。
「これがご主人様の部屋ですか~なんか感慨深いですぅ~」
「ぽ、ぽるんが……」
「ん? ご主人様、どうしたんですか、なにか変なものでも食べちゃったのですかぁ~?」
「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……」
「むぅ~不思議なご主人様ですねぇ~そんな“みすてりあす”なご主人様も悪くないですぅ」
ぷくっと膨れる水の妖精:ぽるんに青年:水玉快斗はその顔に笑みを浮かべた。いくらVR技術が発達してもゲームの世界は所詮は虚構の世界でしかない、現実の世界と同じになることは決してありえない。だからこそ、MMOの世界で自らの召喚獣として触れ合ったぽるんが現実世界でも触れ合えることに快斗は喜びを感じていた。
「ご主人様、嬉しそうですね。そうですか、わたしと一緒にいられることがそんなに嬉しいんですかぁ!」
「まぁ、な」
はたまた別の場所では。
「……」
「……um. Are you my Master, aren't you?」
青緑の貫頭衣を着た青年は目の前の端末に映し出される一振りの剣に目を奪われていた。
赤と青の色を纏った珍しい形のダブルブレードが画面内に設定された地面に突き刺さったまま、柄に嵌まっている宝玉がぎろりと青年を見詰めている。
「へ?」
「……now lording……hum. You are my Master!」
機械の合成音で奏でられる声が青年の耳に届くが、青年にはそれが一体何かまったく見当もつかなかった。
青年は虚弱な体をよっこいしょとばかりにゆっくりと動かし、持っていた端末を右に左に動かした。
しかし、画面がそれで変わることはなく、画面の向こう側に映る一振りの剣がなんだか不満げに左右に動いた。
「My Master! My Master!」
「……なにこれ」
青年は困り果てながら、画面に映る剣が何なのか画面を操作し始めた。
新感覚アプリ<タマシイコネクション>は100人の許の端末に行き渡り、着実にその芽が育まれ始めることになった。
2037年2月15日。後に世界に変革をもたらした日だと言われることをまだこの時の人々は知らない。
世界と世界が繋がる、その意味をまだ誰も知る余地もなかった。
■■■
翌日。
真価は<タマシイコネクション>でミドリと触れ合うのに夢中になり、ついつい時間を忘れ夜更かししてしまった。おかげでまだ眠い目をこすりながら、朝のリビングルームへ足を踏み入れた。
そこには明奈が真価のことを待ち受けており、真価の姿を認めるなり明奈は真価へ詰め寄った。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「な、なんだ?」
「昨日、何があったの? 夜中中何かに話しかけていたみたいだけど。まさか変なこととかしていないよね!?」
「へ、変なのことって何だよ。俺は何も変なことしていないぞ!」
「じゃあ、何なの!?」
「それはだな……」
真価は昨晩送られてきた<タマシイコネクション>について話した。話だけでは分かり辛かったため実際に<タマシイコネクション>を起動し、ミドリの姿を見せた。ミドリはわなわなと震える明奈に臆することなくきゅーきゅー歓迎の声を上げた。
「な、な……なんというファンタジー……ファンタスティックなファンタジーだよ、これは! 専用のAIが積まれてるの? それとも何か別の手段を用いた言語モジュールなの!?」
「きゅー?」
「いいから落ち着け。俺にだってそんなことはわからないさ。だけど、これだけはわかるんだ、このミドリがMMOでのミドリと一緒だってことは」
「ふむふむ、なんだかすんごいのがお兄ちゃんに来たんだねー私にはなかったなー悔しいなー」
明奈は手を上下にぶんぶんと振りながら真価に不満を訴えかける。
「たしかこのアプリはMMOをプレイしている中からランダムに選ばれた100人に送られたとメールに書いてあったな」
「このメールねぇ。ちょっと待ってて」
「うん、あぁ」
明奈は自分の端末を取り出し、勢いよく操作し始めた。
「んと……ここにもしかしたら……と、あったあった。<タマシイコネクション>についての板が」
明奈は端末から投影される仮想画面を真価に見やすいように移動させ見せた。
<タマシイコネクション>について考察するスレ
143.迷える名無しの子羊
にしてもこれはいったい何なんだが
144.迷える名無しの子犬
一応わかっていることのマトメ
1. MMOのプレーヤーから無作為に抽出された100人に配布された新感覚アプリ
2. アプリを展開するとプレーヤーごとに特定のアバターが現れ、コミュニケーションを交わせる
3. ペットを持っているプレーヤーはそのペットがアバターとして出現する模様
4. 他にも召喚獣だったり、愛用の武器だったりするケースもアリ
5. どちらにせよそのアバターには高度なAIが搭載されコミュニケーションを交わすには十分すぎるほど
145.迷える名無しの子馬
≫143
新感覚アプリ
146.迷える名無しの子牛
≫144
まとめサンクス
147.迷える名無しの子猿
≫144
thanks
にしてもよくこんなの作ったよなぁ。誰だよ、これ作ったの。無駄にハイスペックだろ
148.迷える名無しの小鳥
≫145
それはその通りだな
≫147
激しく同意。どんな技術力持ってんだよw
149.迷える名無しの子羊
だいたいこんなに喋れるなんてなぁ
俺のペガサス、こんなに頭良かったんだなぁ
150.迷える名無しの子猿
≫149
ペガサスってもしかしてペットハーレムさんですか!?
151.迷える名無しの小虎
≫149
ペガサス! ペガサスと言ったらもうあの人しか思いつかない
152.迷える名無しの子羊
≫150-151
よせよせ、まぁ間違いではないんだがなぁ
153.迷える名無しの小牛
え、ペガサスといえば、って誰かわかるの!?
154.迷える名無しの子馬
≫150-151
噂のペットハーレムさんの話題はペットスレまで
今は<タマシイコネクション>の話をば
155.迷える名無しの子狼
どうやらペット自体のAIが向上している可能性が高いな
MMOに潜ったのだが、これまでより聞き分けが良くなってたw
元より高度なAIが積まれたキャラがアバターになったか、アバターになったキャラに高度なAIが積まれたかのどちらかっぽい
156.迷える名無しの妖精
やばいやばい、まじウチの妖精がかわいすぎてやばい
気が付いたら朝までずっと話し続けてたし、このままずるずる話してしまいそう
157.迷える名無しの子犬
≫155
情報提供サンクス
158.迷える名無しの子猿
≫156
まぁ、落ち着けw
にしても妖精って、なんぞ?
159.迷える名無しの小虎
俺もそう思ったw
160.迷える名無しの妖精
≫158
妖精っていうのいうのは召喚獣のことだ。
あ、ちょっと部屋の中漁ろうとするのヤメテ
161.迷える名無しの子馬
≫160
召喚獣か……
って、は?
162.迷える名無しの子犬
≫160
え、ちょ、どうこと?
163.迷える名無しの子狼
≫160
もしかして実体化できたのか?
164.迷える名無しの妖精
ぜーはーなんとか机の上は死守できた
≫161-162
んと、ちょっと部屋の中を弄繰り回されそうになっただけ
≫163
実体化って、なんぞ?
165.迷える名無しの小鳥
あぁ、例の噂か。アバターがこっちに干渉して来るって奴。
160の反応見る限り噂が本当ぽいんだけど
166.迷える名無しの妖精
え、え? 実体化ってそういうこと。ってこれ普通じゃないの?
167.迷える名無しの子羊
≫166
いやいやw
168.迷える名無しの小虎
≫167
なわけないからwそもそも画面から出て来ないし
169.迷える名無しの子狼
≫167
これまた珍しい。
≫168
うちのは画面から出てくるぞ。実体化はしてないが
170.迷える名無しの子牛
≫169
なんじゃそりゃ
「……」
「……」
「……きゅ?」
真価と明奈は掲示板で繰り広げられている話に言葉を失った。
立ち尽くしたままの真価に、ミドリは画面から頭だけ突き出してちょいちょい真価の手を突いた。
「ん? ……え?」
なぜ真価の手になにかふにゅふにゅとした感触がするのか、真価はその正体を知り再び言葉を失った。
<タマシイコネクション>が齎す受難はまだまだ終わりを見せない。