表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
10/114

7話 青年はボス戦に参加する

*2014.11.19に改稿完了しました。

 ■■■


 グリーンロードにて。


「うらあっ!」


 レオナルドの斧がぶんと唸りを上げて、目の前に立ちはだかるスライムの体を真っ二つに切り裂いた。


「ふんっ」


 後方に陣取るベロッキオは足元に魔法陣を浮かべ、杖から火の玉を放って接近してきたワームの体を焼いた。


 ローズはレオナルドの隣で手にした槍で敵を牽制し、カイトが位置を変えながら弓矢で群がってくる敵を射る。


 ワースはその脇で特にやることなく突っ立っている他なかった。ワースにとって、メイと二人では戦ったことはあるものの、何人ものパーティで戦うのは初めてだった。ワースがしたことといえば、土属性魔法で離れている敵を撃ったり、4人が対応しきれない敵を『棒術』でつついて注意を逸らしたりしただけだった。隣に控えるミドリはワースに向かってくる敵の攻撃を受け止めるだけしか仕事がなかった。


 パーティ『チョコレート・カレーライス』はもうすでにパーティメンバーの連携が洗練されていた。レオナルドが前衛として敵の集中を引き寄せ、ローズやカイトが敵にダメージを与えつつレオナルドを援護し、ベロッキオの魔法で敵を殲滅する。この一連の流れがまったくぎこちなさを感じさせることなく展開されていた。


「なんか、俺いなくても十分ですね」


 とワースがぼやくと、


「そんなことないぞ、何体かすでに坊主の魔法でかなりダメージ与えているだろう。こういうパーティでは役割分担が大事なんだぞ」


 とカイトに励まされた。


 グリーンロードは一直線に伸びている道だ。大半が草むらに覆われていて、所々からスライムやワームが現れる。

 そんな道をワースを含む『チョコレート・カレーライス』は猛進していた。もちろん所々で休息はしていたのだが、他のプレーヤー達と比べ猛進と言っていいほどだった。いくらゲームとはいえ、何度も戦闘を繰り返すと疲労していく。それは数値的なものだけではない。戦闘をこなすたびに、目に見えない疲労が着実に溜まっていく。そのため、目的地に辿り着くまでに何度か休息を必要とした。これはVRMMOをプレイするプレーヤーにとって常識のようなものだった。





 そして、一行はようやく目的地の砦に辿り着いた。

 名前は『グリーン砦』。その名の通り、深緑にべたべたと塗りたくられたような砦だった。名前も外見も安直すぎる砦だった。


「やっと着くことができたよ、いやーワース君がいるおかげか進みが速かった気がするね」

「そんなことないですよ、それもこれも『チョコレート・カレーライス』が凄かっただけですよ」

「いやいや、ワース。兄貴が褒めるって相当なことだぜ。実際、ゲーム初心者のお前がここまでやるとは思わなかったぜ。期待してるぜ」

「そうよ、ワース君もベロッキオ見習って自信持ちなさい」

「ローズ……お前さんにしては素直に褒めるじゃないか」

「なっ、何? 悪いかしら」

「いいや、そんなことないぞ」



「さて、ボスがこの中にいる。この……なんだったかな。そう、『チョコレート・カレーライス』がものの見事に突破しましょう!」

「「「「おう!」」」」





 ■■■


 グリーン砦の中を探索する『チョコレート・カレーライス』。このグリーン砦で主に出てくるのがワームだった。たまに出てくるのはグリーンワームとポイズンワームで、グリーンワームは緑色の体で糸を吐き、ポイズンワームは紫の体で毒を吐いてくる。つまり、ワームだらけという訳だ。


 グリーン砦を猛進する『チョコレート・カレーライス』の周りには事切れたワームの肉塊が撒き散らされていた。そして、HP0になったモンスターの体は光の粒子となって消え去るので、後に残るものは何もなかった。

 敵の数の多さにワースは、ペットであるグリーンタートルのミドリに頑張ってもらうことにした。ミドリの噛み付き攻撃とその耐久力によってパーティの戦力は強化された。初めて見た『チョコレート・カレーライス』の面々は驚きの表情を見せた。そして、ワースとの連携を見てもう一度驚いた。そもそもテイムされたモンスターができる動きの域を超えていた。それはテイマーであるワースの深き愛ゆえなるものであるとしかいいようがなかった。


 グリーン砦は5階立てになっていて、『チョコレート・カレーライス』は4階にいた。ワースの目の前には上に上がる階段があり、これを上れば最上階に上がれるはずだ。


 階段を上ろうとしたワースをレオナルドは押し止めた。


「ちょっと待て」

「ん? 何かあるのか?」

「あるんだよ、まぁ待ちたまえ。さて、この砦にはボスがいることはわかっている。そして次の5階にはボスがいる可能性が高い。ここまではいいか?」

「もちろんわかる」

「ボスとは大概そのフロア全体で戦うことになるから今の内に軽く準備しておかないと呆気なく死ぬんだぞ」

「……なるほど」


 ワースはわくわくする心を落ち着かせるべく、周りが準備している間大きく深呼吸して過ごした。





 ■■■


「それじゃ行くぞ」

「「「おぉ!」」」


 5人は階段を駆け登り、大きな扉を開き、ボスと対面した。


 グリーン砦ボス:グリーンキングワーム。

 大きさはざっと縦にも横にも5m、毒々しいほどの緑色をした芋虫だった。うねうねと蠕動運動をしながらてぐすね引いて待ち構えていた。


「手筈通りに」


 ベロッキオはそう叫び、魔法の詠唱に入った。


 ワースはミドリを前に最適な攻撃ポイントを陣取った。ワースは土属性魔法の詠唱に入り、ミドリは足を踏ん張り堂々とした姿を見せた。

 レオナルドは片手に盾を持ちながらもう片方の手で斧をフルスイングさせてグリーンキングワームに一撃をかました。

 カイトは弓を引き絞り、パーティの後方からダメージを蓄積させていく。

 ローズは今まで槍だけだったのを変え、レオナルド同様に盾を持った。レオナルドと違うのは、盾をメインで使い、盾でダメージを防ぎながら槍でちくちくとダメージを与えていく。


 ボス戦は通常の戦闘と違い持久戦だ。通常は盾を使わない『チョコレート・カレーライス』だが、ボス戦の時ばかりはレオナルドとローズは盾を持つ。


 『チョコレート・カレーライス』の猛攻に、グリーンキングワームはぴぎーぴぎーと悲鳴を上げながら近付いてくるプレーヤー目掛けて噛み付いてくる。盾を構えたレオナルドに攻撃が当たり盾の上からがりがりとHPゲージを削る。






 ワース達が攻撃し、グリーンキングワームが攻撃を仕掛けてくる。この攻防が何度も続き、グリーンキングワームの頭上に表示されるHPバーの残量が半分を迎えようとしているところで、レオナルドは攻勢に出た。


 今、噛み付いて来ようとするグリーンキングワームの巨体をひょいと躱し、つんのめる芋虫を目の前に斧を振りかぶった。


「これでも喰らいやがれ、『パワーストライク』!」


 レオナルドの斧は赤い光を放ちながら真っ直ぐグリーンキングワームの眉間へ振り下ろされた。ぐさりと鈍い音が鳴り、グリーンキングワームは後ろへ押されたのだった。レオナルドが放った一撃は、『斧』メリットの基本スキル『ストライク』の派生スキル。システムアシストに従って普段は出せないような速さと力で、真っ直ぐ振り下ろすスキルだ。隙が大きくスタミナを大きく消費するため、リスキーな手段を取りたくなかったレオナルドはここまで温存していたが、どうにも遅々としたHPの減りに業を煮やしていた。


 今までよりも強いその一撃はグリーンキングワームのHPを目に見える分減少させ、それと同時に運悪く堪忍袋を切る要因になった。




「ピギィイイイイイイイイイイ!」


 グリーンキングワームは身体を上に持ち上げながら怒りの形相をあらわにして、口から勢いよく糸を噴き出した。吐き出された糸の束は、前にいたレオナルドとローズの体を拘束した。


「なっ、何なんだよ。スキルが悪かったのか!?」

「粘着性の高い糸ね、行動力ダウンはキツイね」


 スキルを放ったまま糸に巻かれて動けなくなるレオナルドに、反射的に盾を突き出し地面と盾が固められてしまったローズ。


「まさかこうなるとは思わなかった。とりあえず二人は状態異常回復ポーションを使え」


 ベロッキオがそう指示するものの、


「くそっ、体がうまく動かねぇ」


 レオナルドとローズはポーションを取り出すのに手間取っていた。そんな二人を見逃す訳もなく、グリーンキングワームは起こしていた体を戻して収まらない怒りをぶつけるように突進をしてくる。


「レオナルドとローズ!避けろ!」


 ベロッキオが叫ぶ。



「ミドリ、『ガード』だ。そして、『簡易防御力増加(インスタント・ガードプラス)』!」


 ワースはミドリを二人の前に庇うように移動させつつ、ミドリにスキルを使わせた。そしてワース自身はミドリに持続効果10秒のVITを上げる『付与術(エンチャント)』を掛けた。消費がきつくここぞという時にしか使えないが、ワースは今がその時だと思った。


 ミドリはワースに命じられるがままに『ガード』する。ただその目は真っ直ぐグリーンキングワームを見据えていた。


 ペットは元々持っていたスキルと成長することで解放されるスキルを使うことができる。ワースと共にブラウンマウンテンで経験値を得たミドリは使用中は動くことが出来ない代わりにVITを上げる『ガード』が使えるようになっていた。


 ミドリが『簡易防御力増加(インスタント・ガードプラス)』の恩恵を受け『ガード』を発動させた直後、グリーンキングワームの突進攻撃が襲い掛かった。


 大きなもの同士がぶつかり合ったような鈍い音が鳴り響き、ぶつかった衝撃に風が辺りに巻き起こる。

 体格差のあるもの同士の衝突。体格の大きいものに軍配が上がるかと思われたが、ミドリは吹き飛ばされずにグリーンキングワームの突進を受け止めきった。グリーンキングワームの体からは突進のエネルギーが失われ、突進しようにも緑の小さな体に押さえ込まれた。


「『ロックストライク』!」


 ミドリが無事に受け止めたのを見て、ワースは詠唱状態で待機させていた魔法を発動させる。ワースの杖の先からいくつもの岩が飛んでいき、無防備な体を晒しているグリーンキングワームの体に突き刺さった。



「ぴぎぃ……」

「今です! レオナルド、ローズ、総攻撃!」


ベロッキオは好機と見て、すでに回復した二人に指示した。そして自らも攻撃力の高い魔法を発動させる。


「喰らえぃ『アローストライク』!」


 ずっと弓を引き続けていたカイトも自身最大火力のスキルを放つ。放たれた矢は白い光を帯びたままグリーンキングワームの眉間に突き刺さった。


「行くぞ! 『ストライク』!」

「喰らいなさい! 『ダブルスピア』!」


 唸りを上げる斧と素早く動く槍がグリーンキングワームにダメージを与える。


「これで、止めだ『フレイムスフィア』!」


 ベロッキオの杖から大きな火の球が現れグリーンキングワームにぶち当たり、その体を燃やした。


「ぴぎぃ……ぴ……ぴぃ」


 カシャンとガラスが割れるような音が鳴り響きグリーンキングワームは全ての動きを止め、光の粒子となった。




「っしゃあ! ボス倒した!」

「ふぅ、疲れたわね」

「がはは、無事に倒せて何よりだな」

「みんなよくやってくれた、ありがとう。それと、今回一緒に来てくれたワース君。君とそのミドリ君がいてくれなければ今回は成功しなかった。改めて礼を言わせてもらうよ」

「いえいえ、いろいろと教えていただきありがとうございます。こちらが礼を言わなければいけないくらいです」



「それで、ボスドロップは……」


 5人はそれぞれ自分のアイテムストレージを見た。モンスターを倒すとたまにアイテムが手に入る。これをドロップといい、ボスを倒すと必ずボスドロップが手に入る。これは基本的にレアなアイテムで、ボスモンスターを倒す理由の一つにもなる。しかしこのボスドロップは戦ったパーティの誰か一人にランダムに与えられる。そのため、皆で確認しているのだった。


「あった……『グリーンブローチ』だったわ」

「よかったな、ローズ」

「効果はどんな感じだ?」

「えっとー、最大HP増加だって」

「早速つけてみろ、たぶん似合うだろうな」

「ちょっとカイト何言ってるのよ」

「俺も似合うと思いますよ」

「ワース君まで……」

「ほら、早く」

「わかったわかった、つけるわよ」


 ローズはメニューを操作して『グリーンブローチ』を装備した。


 「やっぱり似合うな」とカイトがいい、「いいかんじですよ」とワースが同調し、「いいんじゃないか」とレオナルドが視線を逸らしながら言った。


 「ふふ、これでローズも一段と強化された訳だな」とベロッキオが締めた。


「それじゃ、後少しだから、新たな街『ブルームン』まで行くとしよう」


 その後一行は無事に華の街『ブルームン』まで辿り着き、宿屋でログアウトするのだった。

 ワースは『チョコレート・カレーライス』と別れ、宿屋のベッドでログアウトするまでの間ミドリをよしよしと褒めるのを忘れなかった。






 ■■■


 Name:ワース

 Lv.10

 Merit:『土属性魔法』Lv.20

    『魔力運用』Lv.8

    『調教(テイム)』Lv.5

    『棒術』Lv.12

    『付与術(エンチャント)』Lv.6

 Title:なし




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ