2章 それぞれの道 3節
ちょうど出口を出たところで、孝一の声が聞こえた。
「あつし~!こっちだよ。」
相変わらずでかい声だった。
人の波をかき分け、孝一の声の方に向かった。
人混みをすり抜けた先に、孝一を見つけた。
もう、そのときには美奈代のことを、忘れていた。
「わるい、わるい。人が多いからわかんなくなっちゃってさぁ・・・・・、!」と、言い訳をしようとするあつしの目に飛び込んできたのは、着物姿の美奈代だった。
「あっ!」
私は、言葉にならない声を発したまま、美奈代を見つめていた。
美奈代は笑顔を作っているのだが、どこかぎこちなさが感じられた。
着物を着ているせいか、夏に会った美奈代とは別人のようだ。
ふたりの様子を伺うように、孝一が話しかけてきた。
「おいおい、どうしちゃったんだよ。 あつし、美奈代がわかんないのかよ。 まぁ、孫にも衣装っていう言葉が、ハマっちゃってるのは確かだけど。」
「ひっど~い!」
美奈子が孝一に見せた顔は、夏の美奈子だった。
私はそんな美奈子を見つめながら、言葉を探していた。
そう、ありきたりの言葉しか浮かんでこなかったのである。
それでもなんとか、「ゲンキそうだな」と、声をかけた時、左腕をふいにひっぱられた。
びっくりして振り向くと佳子が立っていた。
「何してんのぉ・・?早く二次回に行こうよ・・!遅れちゃうよ」と、あつしと孝一をまくしたてた。
しかし美奈代は、あつしたちが見ている間に、父親が運転する車に乗り込んでいた。
窓越しに見えた美奈代は、悲しげにうつむいていた。
それが、学生時代最後の冬休みに見た、日本で見た美奈代の姿だった。
それから、美奈子に何通もの手紙を書いたが返事はなかった。
電話もかけてみたが、美奈代の声をきくこともできなかった。