2章 それぞれの道 1節
司法試験への道程はきびしかった。3度目の挑戦のときには仕事に追われ勉強などとても手につかない状態だった。
試験も終わり、仕事も一段落ついた夏に、あつしはむしょうに故郷に帰りたくなった。
考えてみれば故郷を後にしてからの8年間、両親が年に1度上京するだけで、あつしは成人式以来帰っていなかったのである。
成人式の日のことが脳裏によみがえってきた。
あの夏の日以来、奈美代からは何の連絡もなかった。
あつしから1度手紙を出したが返事はこなかった。
桂子に手紙を出すように言ったが、桂子も書けずにいたのだった。
あの夏のはじめに、あつしと桂子は一緒に暮らし始めていたのである。
桂子は、美奈代の親友だった。
ただ、お互いに故郷を離れ、都会という温もりのない環境の中で、渇いた空気に押し潰されそうになっていたのだろう。
そして、性への目覚めが、それに輪をかけたような状態だった。
美奈代の突然の出現で、私たちは「友情」そして「裏切り」の狭間で、一緒に暮らしていても、どこかぎこちなかった。
12月に入り、どちらからともなく正月の帰省話しがもちあがった。
どうやら桂子は、美奈代に電話連絡をいれていたらしい。
卒論を控え、テーマや研究で美奈子も忙しい日々を送っていた。
電話でも、美奈代はいつもと変わらない感じで、くったくなく話しを圭子とした。
それに安心したのか、桂子は成人式に出るといいだした。
美奈代は桂子ほどの美人ではないが、どこか肩の力を抜ける愛らしい笑顔の似合う子だった。
この数ヶ月、ケンカが絶えなかったせいも手伝ったのか、あつしは美奈子の顔が見たいと思った。
そして、クリスマスイヴに、桂子と一緒に帰省することにした。
故郷でクリスマスパーティができると、桂子ははしゃいでいた。