1章 雨宿り 4節
あつしは、美奈代が桂子を起こす声で目が覚めた。
テーブルの上には、3人分の目玉焼きとトーストが準備されていた。
美奈代の前には、牛乳の入ったコップが置いてあり、
私と桂子の前にはミッキーマウスとミニーマウスのペアカップが置いてあった。
その横にコーヒーの瓶と砂糖そして牛乳ビンが置いてあった。
桂子は黙って、コーヒーを作り始めた。
桂子はブラック、あつしのコーヒーには牛乳を少し、いれてくれた。
その光景を見ていた美奈代が、「今日はどしゃぶりだね」と、言った。
いつから降り始めたのだろうか。
外は雨だった。
あつしはNSPのレコードをかけた。
なんとなく、気まずい雰囲気だったのだろう。
朝食を終え、美奈代は片付けを始めた。
桂子は、流し台近くの柱によりかかっていた。
そんな桂子に美奈代は「あっちで、ゆっくりしていていいよ」と語りかけていた。
桂子は黄色いクッションに寝そべり、ファッション雑誌を開いた。
片付け終えた美奈代は、荷物を整理し始めた。
そして、「桂ちゃん、あっちゃん、ありがとう。もう帰るね」と言った。
私は、「送っていくよ」と立ち上がったが、美奈代は「ドアまでで、いいよ。」と言った。
慌てて傘をだしたあつしに、「あっちゃん、もういいよ。ありがとう。楽しかった。」と、小さな声で言った。
美奈代と一緒に外に出た私には、「雨だれの音って悲しいね」と消え入るような声が聞えた。
その時、美奈代は雨の中を傘もささず一気に走り出した。
美奈代は立ち止まることも、振り向くこともせず、真っ直ぐに走って消えて行った。
あつしは追いかけることもできず、しばらくの間ドアにたたずんでいた。
それから先、美奈代からの連絡はなかった。
手紙も途絶え、新年を迎えた。
そして、桂子と美奈代は卒業を迎えた。
桂子はミュンヘンに、留学することが決まっていた。
3月も終わろうとする頃に、1枚の葉書きが届いた。
美奈代からだった。
そこには4月に結婚します。と書かれてあった。
あつしは軽いショックを受けた。
文章の終わりには、あつしの部屋の壁時計は、美奈代が桂子に贈ったものと同じで、びっくりしたこと。
そしてあつしの部屋のテーブルクロスが、桂子の好きなオレンジ色であり、黄色や暖色系でまとめられていたこと。
そして、桂子が使った歯ブラシは、洗面所に置いてあったものであったことから、全てを理解できたことが記されていた。
「みんな同じように幸せでありたいね。友達だから。」という文字は涙で滲んでいた。
あつしは、一人取り残されたような孤独感に見舞われていた。
訳もなくただ涙が溢れた。
それから2年の歳月が流れ、あつしも大学を卒業し社会人となった。
文章中のアーチスト古いですね。
もっともこの小説を書いたのが、10年前ですから、悪しからず。