1章 雨宿り 3節
あつしのアパートについた時には、5時をすぎていた。
美奈代は綺麗に片付いているんだね。と、
しきりに関心しながら、壁に掛けられたミッキーマウスの時計を見ていた。
そして台所にたち米を洗いはじめた。
次に魚を焼く準備そして卵まで溶き始めた。
そんな風景を、あつしは窓辺に腰掛けて不思議な面持ちで眺めていた。
6時を過ぎたとき「あっちゃん、今のうちにお風呂屋さんに行ってこようよ」と彼女が促した。
誘われるままに近所のお風呂屋さんに向かい、帰りついたのは7時だった。
それから美奈代は、また料理をはじめた。
味噌汁のいい香りと、焼き魚の匂いに、故郷の母を思い浮かべていたとき、ドアを叩く音がした。
桂子だった。桂子の少し緊張した顔は、美奈代の声ですぐにかき消された。
美奈代は、やっぱり都会で生活する女性は素敵だねと、桂子の垢抜けた姿を見てはしゃいでいた。
桂子は、美奈代に言われるまま食事の盛り付けを手伝い、3人でテーブルについた。
あつしは、久しぶりの賑やかな食事が嬉しかった。
桂子も美奈代との故郷での思い出話しに夢中になっていた。
食事が終わり、食器の片付けを終えた美奈代が、買ってきた花火を取り出した。
それは線香花火だった。
3人で外に出て花火をした。
桂子が「私そろそろ・・」と言いかけたときには10時だった。
すると美奈代が、「明日は日曜日だし桂子も一緒に飲み明かそうよ。夜道は危険だしさぁ」と、桂子を引きとめた。
すると、桂子は「そうだね。今夜は二人であっちゃんをとっちめてやろうか」と美奈代にウィンクした。
桂子と美奈代は、私の大学での生活ぶりを根堀歯堀聞き出した。
そして話しは将来の夢へと展開していった。
桂子は、デザイナーになることを夢見ていた。
短大を卒業したら、その道を進むことを改めて決意したように話していた。
そんな話しを、ニコニコしながら聞いていた美奈代は、「私は幸せなお嫁さんになりたい」とポツリと言った。
その顔は見たことがないほど愁いをおびていたのは気のせいだったのか…
あつしは思わず、「美奈代なら、なれるよ」そう言ってみた。
「ありがとう」美奈代はそう答えて「あっちゃんの夢は?」と聞き返した。
「もちろん、弁護士になることだよ」そう答えていた。
それから私は、本で読んだいろんな話しをした。
興味深そうに聞いていた美奈代は、いつしかテーブルに顔をつけてスヤスヤと寝息をたてていた。
桂子は「相変わらずね。美奈代は・・」と言いかけて「私も寝るわ」と美奈代の横に寝そべった。
いいちこの酔いがまわってきたのか、あつしもいつのまにか寝入ってしまった。