表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の物語  作者: 伊湖夢巣
32/43

6章 そしてドイツ 5節

孝一はバスを降りると、何故か昔ユニットでよく練習していた歌を歌いたくなった。


それは孝一が緊張したり、興奮したりした時、平常心を取り戻す時によく歌っていた曲だった。


「なあ、トム、『イエローサブマリン』って覚えてるかい」と、突然言い出した。


「ああ、覚えてるがどうした」


「急に歌いたくなったんだ。行くぞ」と、言って「1,2,3」と、リズムを取って歌いだした。


「ばかやろう、桂子に見つかっちまうだろうが」と、言ったが、

「もうすぐ駅に着くさ、俺はもう我慢が出来なくなったんだ。あの角で、一旦身を隠して桂子を待つ事にするよ」


「そうか、まあお前がそう言うならそうしようか」と、トムも孝一のリズムに合わせ歌いだした。


そして、角を曲がった所で、小声で歌いながら、二人で圭子が来るのを待つことにした。


桂子は、懐かしい歌で昔を思い出し、甘酸っぱい少女の気分になっていたのに、歌声が消え少しがっかりした。


もう少しで駅の入り口だという所で、突然角からひょっこり一人の男性が現れた。


その顔は、確かに見覚えのある顔だったが、あまりにも突然で、しかもミュンヘンに居よう筈の無い人物だったので、思わず、


「アラ!ごめんなさい」と、本当は、孝一の方が行く手を阻んだのに、まるで圭子の方が行く手を阻んだように謝っていた。


そして、頭の中では『ああ、孝一だ』と、思いながらも、体の方は勝手に孝一の横をすり抜けようとしていた。


桂子は自分に今何が起きているのか、混乱していた。


孝一は桂子の前に出て、『まあ。孝一』とか、単純に『こういち!』と、叫んでくれると思っていたが、桂子が思わぬ動きをしたので、横をすり抜けようとした桂子の腕をしっかりとつかんだ。


そして、


「俺は、なんて馬鹿なんだろう。その後悔の念を今、やっと晴らせる時が来たというのに、また愛しい人が横をすり抜けようとしているのを、手を差し伸べずに過ごす所だった」と、桂子を引き寄せながら顔を覗きむように、言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ