6章 そしてドイツ 3節
「そしたら前にも言ったけど、ミュンヘン駅で落ち合う事にしよう。列車が駅に着いたらホームから駅のコンコースに出る所に大きな売店がある、そうだな日本で言うキオスクみたいなやつだな。その前でって言う事にしよう」と、孝一は待ち合わせの場所を決めた。
「ああそれは良いけれど、それ分かりやすいんだろうな」と、あつしが聞くので、
「ああ、すぐ分かるさホームに降りて屋根のある方に歩いて行けばすぐ分かるさ」と、孝一は言って、さらに、
「お前、今ベルリンりんだよな。後3時間くらいでミュンヘンに到着だよな」と、時間を聞いた。
「ああ予定ではその位だな」と、あつしの返事を聞くと、
「それじゃあ待ってるぜ」と、孝一は一方的に電話を切ってしまった。
あまり長く話していると、余計な事まで喋りそうになるので、短めに切り上げたのだが、あつしはちょっとけげんだった。
「なんだよ、自分だけ必要な事言って、さっさと切りやがった。もう少し愛想良く話せよ」と、通話が切れた携帯電話に向かって、そうつぶやいていた。
孝一たちはあつしの事は置いておいて、とりあえず予定通り、バスに乗り桂子たちが住んでいるアパートに向かう事にした。
空港からアパートは1時間くらいのところで、そこからミュンヘン駅に向かえばたぶん丁度あつしや、美奈代たちがミュンヘン駅に到着する頃になる予定でいた。
バスを降り、もうすぐ、二人が住んでいるアパートらしき建物が、見えてきた時である。
そのアパートから、一人の女性が出てくるのを孝一たちは見た。
それは孝一がいつも心の中にあった、そう、まごう事ない桂子の姿だった。
あまりのも唐突に、桂子がアパートから出てきたもので、まったく予期していなかった孝一は幻でも見ているのかと思い、一瞬ぽかんとそこに立ち尽くしてしまった。