6章 そしてドイツ 2節
その頃あつしはまだ機上の人で、ベルリンに着くまで二時間ほどあった。
あつしは機内で、「ヨーロッパか、なんて遠いんだろうな」と、ぼんやり考えていた。
すでにあつしは、十時間近く航空機に乗り継いできたので、そろそろ空ばかり見るのにうんざりしてきていた。
「ああ、しかし桂子は確かパリに居るって言ってよな。今回、会いに行って見ようか。でも今更、会いに行くのもなあ」などと、思っていた。
しかしドイツに着くと桂子どころか、あつしにとってもっと驚く人に逢えるとは、この時夢にも思ってもいなかった。
先に飛行機でミュヘンに着いた孝一たちは、6人全て集合する場所はミュンヘン駅にしようと、キャスリンと決めていたが、それよりも先に今キャスリンと、桂子が住んでいるアパートへ向かう事にした。
孝一は、理由が自分でもはっきり分からなかったが、とにかく桂子が住んでいるアパートを一刻でも早く見てみておきたかったのだ。
空港を出て、バスを待っていると孝一の携帯電話が鳴り始めた。
それはベルリンに着いた、あつしからだった。
「あっ、俺、あつし」
「ああ、あつしかこっちは少し雨が降っているぞ」と、孝一が言うと、
「そうかやっぱりか」と、少し笑い声であつしが言った。
「何が、可笑しいんだよ、人が雨に濡れてりゃあ良いってのかよ」と、孝一が少し不満そうな口振りで言うと、
「いや、そうじゃないさ。さっき列車のチケットを買う時、窓口の奴がな、こちらが聞きもしないのに、ミュヘンは雨ですよって、言ってたんだけど、嘘は言ってなかったなと、ふと思ったからさ、ちょっと可笑しくなったんだ。だからお前が雨に濡れてりゃ良いなんて、これっぽっちも思っちゃいないさ」と、わざとふざけたような口調で言った。
「そうか、まあいいや」と、孝一はあまり気にせず話を続けた。
「それより、お前ICEでミュンヘンまで来るんだよな。」と、とりあえずあつしの行動の確認をしておいた。
「ああ、ドイツを車窓から眺めさせてもらうよ。それにドイツの新幹線ってのも興味があったしな」と、列車でミュンヘンまで行く事を伝えた。