5章 ドイツへ 4節
トムはちらりと、孝一の方を向いた。
孝一は無言でどうぞと、言う風に手の平をキャスリンの方に向けた。
トムがキャスリンの方を向くと修羅のような、いや修羅の一歩手前の顔をした、キャスリンの顔がそこにあり、そして、
「まさかあんたが桂子の昔の相手だったんじゃあないんでしょうね」と、先制し、さらに、
「桂子は5年前に三角関係みたいになって、男と別れたと行っていたわよ。ちょうどその頃日本に居たわよね」と、すごい顔でトムの顔を睨んでいた。
あまりの迫力に、トムは出かかった言葉がまた胸の中に入って行ってしまい、口ごもってしまった。
そこに孝一が二人の間に割って入り、キャスリンに5年前の事を、話し始めた。
「キャスリン。桂子は俺の友達のあつしって奴と付き合っていたんだ」と、言うとキャスリンは「織田あつしなの」と、意外にもキャスリンの口からあつしのフルネームが出てきた。
孝一は「ああ、ああ、そうだよ」と、何でと言う顔で、少々混乱してきた頭で返事をした。
「ちょっと待った。少し整理してみようか」と、孝一自身混乱してきたので、自分にも言い聞かせるように言った。
「そうね、何がどうなってるのか私も知りたいわ。孝一が一番何もかも知っていそうだから話して頂戴」と、キャスリンが孝一に向かって言った。
「俺だって少し位知ってらあ」と、トムはすねる様に言ったが、それにはキャスリンは見向きもしなかった。
「どこから話そうか、そうだな、俺の生まれは日本で・・」と、言いかけて頭をかきながら、
「何言ってんだろうな、そんな当たり前の事だったな」と、一呼吸入れてから、今度は落ち着いて、
「俺とさっき名前が出た三人、織田あつし、戸田美奈代、そして桂子の三人とは幼なじみで、高校を出るまでは一緒の学校にいたんだ。 違ってきたのは大学に進学してからで、美奈代だけが故郷に残ったんだ」と、
この十年間、四人に何があったのか、桂子がフランスに旅立った事、美奈代が離婚後皆の前から居なくなった事、孝一が思い出せられる事を二人に話した。
そこまで黙って聞いていたキャスリンは、
「ところであなたのイニシャルはCではなくて、Kになるのよね」と、今までの話とは関係の無いような事を孝一に聞いてきた。




