4章 二人 6節
「本当はね、私には結婚前に心に思っていた人が居たの。でも、その人には他に好きな人が居たの。その事がわかった頃、両親から話しがありそのまま結婚したの。離婚してからその人の元に行こうと近くに住んでいたのだけれど、どうしても彼に会えなかった。」
「ふーん」と、キャスリンは一つうなずき、「私だったら飛んで行くんだけどなあ」と、つぶやいた。
それを聞いた美奈代は
「私もそうしたかった。でも以前彼は好きな人と一緒に住んでいて、その事を知らずに私が遊びに言った事があったの。翌日一緒に二人で住んでいる事が私には判ちゃって、その事がトラウマになっていたのね」と、美奈代は持て余した両手で手遊びしながら、その手を見ながら、ぼんやりとした口調で言った。
「そうかぁ」と、とりあえずキャスリンは納得した。
「ね、その彼の彼女、あなたの知っている人なの」と、ちょっと興味を感じて聞いてみた。
「ええ、幼友達よ」と、美奈代は簡潔に答えた。
「もうここまで聞いちゃったんだから、ついでといっちゃなんなんだけど、その彼の名前何ていうの、私が日本から連れてきてあげるから教えてくれる」と、言ったもののたちまち美奈代の目が大きく見開かれたのを見て、キャスリンはすぐさま、
「それは冗談よ、ちょっと名前が知りたかっただけ、私が知った所でどうなるって物でもないのにね」と、手をひろげて見せた。
しかし美奈代は「あつし、織田あつし」と、キャスリンに聞こえるか聞こえないかの声で、ぽつりと言った。
その名を言って、美奈代は立ち上がり、
「仕事に戻らなくっちゃ、ありがとう何か問題が解決したわけでもないんだけれど、久々に昔の事を話せて少し気が楽になったわ」と、手を振り、カウンターの方へ自分の仕事を続ける為に戻って行った。
キャスリンは軽く手を上げ、目で追いながら日本では恋愛パターンってみんな同じなのかなと、思っていた。
なんだか桂子の昔の彼を、美奈代の彼に当てはめるとぴったり話が収まるわよねと、思った。
当然キャスリンはこの時、美奈代と桂子が幼友達で、まさに双方の彼が織田あつしで、三角関係にあったなど思いもよらなかった。
桂子からは大体の様子は聞いていたが、彼の名前までは聴いたことが無かったからだ。
何度か聞こうとした事はあったが、その度に桂子に聞いても仕方の無い事でしょうと、軽くあしらわれいたし、深く追及をし二人の関係がギクシャクなりたくは無かったので、キャスリンもその通りだと思っていたのでのであった。
しかし、翌日キャスリンはロサンジェルスでその考えを、変えざるをえなくなったのであった。