4章 二人 3節
パリに一年近く居て、ドイツに来て三年以上、パリに居た頃は何時もあつしや、孝一の事が頭から離れないで居た。
ここ、ミュンヘンに移り住んだのも、ドイツが良くなった訳ではなく、キャスリンが居たからだと、今ではそう思うようになっていた。
そのキャスリンは、アメリカにいるおじいさんの体調が悪くなったとかで、その様子を見に帰っている。
そのキャスリンから、昨日国際電話があった。
キャスリンがアメリカに帰っている間は、メールで連絡を取り合っていたが、よほどの急用で確実に伝えようとしたのだろう。
そうでなければ、わざわざ電話を掛けて来る事は無いはずだ。
しかし、桂子が電話に出ると、用件はいたって簡単で「明日帰る」と、言う事だけだった。
それともう一つ、『キャスリンの従兄弟のトムと、その友達で日本人の2人も一緒なの、一人は従兄弟の男友達で、もう一人はキャスリンの家の店で働いている女の子なの、日本の女の子だから桂子も話が合うと思うよ、だからよろしくね』、との事だった。
桂子にはなぜか『日本の子だから桂子も』と、言う所が、強調されていたように思えたが、あまり気留めなかった。
キャスリンの、いつもの茶目っ気が出たんだろうと、すぐに忘れてしまっていた。
窓を眺めていた桂子が「ふっ」っと、軽く息を吐き、窓際から離れ『キャスリンが迎えに来て欲しい』と言う駅に行く為の身支度を始めた。
身支度をしながら、この数日一人で居て部屋が静か過ぎて怖かったが、やっとキャスリンも帰って来るんだと安堵の気持ちになった。
しかし、一緒にくる3人は多分始めて会う人達だろうし、特に日本人の二人には、自分がどう接したら良いか戸惑っていた。
二人はカップルなのだろうか、私の前でいちゃつくのだろうかなどと、要らぬ心配までしていたが、そう思うと、今の桂子には気が重くなるのだった。
キャスリンは私の今の気持ちを知っている筈なのに、なぜその様な人達を連れて来ようとしているのかな、従兄弟のトムに断るに断りきれなかったのかな、でも、あのきっぱりとしたキャスリンの性格からしても断りきれなかったなんて考えられないし、などと考えている間に身支度も済み、桂子は部屋を出て駅に向かった。