表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の物語  作者: 伊湖夢巣
16/43

4章 二人 2節

桂子がキャンパスのスタンドを立てたまま、デッサンを考えるでもなく、ぼんやりと湖の方を眺めていると、突然後ろから「グーテンダァー」と、挨拶してきたのである。


桂子は大学で、第二外国語はフランス語だったので、ドイツ語はほとんどだめだったが、かろうじてそれが「こんにちは」である事を知っていた。


桂子は英語で「ハロー」と答え、「ドイツ語はほとんどだめです。英語とフランス語なら話せます」と、あまり力の無い言い方で答えた。


キャスリンは目を大きく開け、「オー、ベリィナイス」と、大きく手をひろげ、今会ったばかりの桂子を抱きしめるかのように、手を広げながら寄ってきた。


「私はアメリカ人よ」と、彼女は英語で話し始めた。


「あなたは絵を書きに来たの? でも、キャンパスは真っ白ね」と、キャンパスをのぞきこみながら話しかけてきた。


キャスリンは最近、音楽を習いにドイツに来たのだが、英語が話せる人が回りにあまりいなく、当然気楽なおしゃべりをしてくれる相手が居なかった。


英語が話せる相手だと判り、今までのうっぷんが吹き出てきたのだそうだ。


自分の事を一通り話すと、桂子をじっくり見て、「なんだか思いつめてる事でも、ありそうね」と、言って、持っていたバイオリンのケースからバイオリンを出し、そこでいきなり曲を弾き始めた。


その曲は「オーバー ザ レインボー」であった。


後に、なぜ、あの時あの曲を弾いたのか、桂子がキャスリンに聞いたところ。


「桂子の気持ちがこの現実に居なく、熱にうなされているアリスみたいだったからよ」との事だった。


そんな彼女が部屋に居るといつも話題が絶えなく、賑やかだった。


だから桂子は二人で居る時は今までのいやな事を忘れられて、時間がまるで止まったかのように思え、実際、何時間も彼女と話していることが多かった。


しかし、今日は一人だけでこの部屋に居て、部屋はシーンと静まり返っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ