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面倒なので黙っていたら天才参謀と誤解されました  作者: 濃厚とんこつ豚無双
第二部 三ヶ月戦争編

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第二十一話 団結

エルツ国境での事件を帝国外務省が正式に知ったのは、日付が変わってからだった。

外務卿が最初に読んだのは、エルツ公国政府から届いた抗議書だった。


帰営命令下にある帝国軍部隊が、武装して境界駅間保安区へ進入した。

エルツ側は三度停止を命じた。命令に応じなかったため線路脇へ警告射撃を行ったところ、帝国側から信号所へ実弾射撃があり、エルツ兵一名が死亡、一名が負傷した。


陸軍省から回ってきた第三軍団司令部の報告も似たような内容だった。

行方不明となった野戦電信分遣隊員の捜索中、帝国国境警備兵及び鉄道保安兵がエルツ軍の発砲を受けた。

帝国兵一名死亡、二名負傷。

現地部隊は応射後、双方の中隊長の合意により射撃を停止した。当方による国境線の越過なし。


外務卿が二通を机へ置くと、当直の参事官が新しい報告を差し出した。


「行方不明者について追報がございます」


野戦電信分遣隊のヨハン・フェルナー上等兵は、帝国側後方の中継小屋で発見されていた。

発見時刻は午後十時六分。

エルツ側が警告射撃を行った時刻は、双方の記録で午後十時三十一分と一致している。


「発見したのは、どの部隊です」

「第三軍団野戦電信隊でございます。中継小屋の連絡員が発見し、軍団司令部へ連絡を送っております」

「なぜ、それが伝わっていないのですか」

「途中の通信機器に不調があり、捜索隊への伝達が遅れたとの説明です」


外務卿は追報を閉じた。


「政府発表を。最初の発砲には触れない。フェルナー上等兵の件も、陸軍省と時刻を照合してからです。午前八時に関係各紙へ回してください」


参事官が用意していた文案を前へ出した。


『昨夜、エルツ東部国境駅間において偶発的発砲あり。双方に死傷者を生じたるも、現地部隊は既に射撃を停止し、両国政府は事実関係を照会中である。帝国政府は事態の拡大を望むものではない』


それを取り上げたところで、廊下から足音が近づいてきた。

慌てた様子の官吏が、刷り上がったばかりの号外を両手で抱えている。


「外務卿。帝都新報の見本でございます」


一面の上半分を、大きな活字が占めていた。


『帰営途上の帝国兵、エルツ軍の先制射撃を受く』


その下には帝国側の死傷者数、行方不明兵を捜索中であったこと、帝国兵が国境を越えていなかったことが並んでいて、死亡した兵士の姓名まで載っていた。

第三軍団司令部の正式報告には、まだ死者の名が記されていなかった。


「この記事の根拠はあるのですか」

「第三軍団司令部からの電報と説明されております。零時三十八分、帝都新報、シェーンハルト通信社、ロートマール国民報の三社へ同文で送られております」


陸軍省の正式報告は零時五十八分に発信され、外務省へ届いたのは一時十二分だった。


「なるほど、ありがとうございます」


外務卿は、号外の一面を再び見た。

見出しには、帰営途上という四文字が大きく記されている。

兵を乗せる帰営列車は、まだ一本も国境へ向かっていなかったにもかかわらず。





夜明け直後の会議の間には、上座に皇帝フランツ・カール二世が座り、その右手にヴァルデンフェルス外務卿、左手にレーヴェンタール財務卿がいた。

ヘッツェンドルフ陸軍卿は、その向かいに立っている。

卓の端には侍従長と書記官が控えていた。

外務省から届いた封筒は開かれ、エルツ政府の抗議書と第三軍団の報告、フェルナー上等兵発見の追報、帝都新報の号外が並べられている。


「余は兵を帰せと命じた。しかし兵は戻らず、エルツは国境で銃を撃った。陸軍は外務省より先に新聞へ事件の意味を知らせた。卿は、このうちどこからを余の命令と呼ぶつもりだ」

「臣は、エルツ軍への発砲を命じておりません。警告射撃を行うか否かは、エルツ側の判断でございます」

「帰営列車は一本も出なかった。都合よく兵が一人消え、帝国側で銃声が二度した。その捜索を名目に武装部隊が保安区へ進み、三度の停止命令にも応じなかった。そこまで重なって、なおエルツが勝手に撃ったと申すのか」

「帰営命令は撤回しておりません。残留部隊には、帰営まで国境地区の保安を維持させる必要がございました。行方不明兵の捜索も、保安区における行動も現地指揮官の判断です。臣が命じたのは、帰営の時程を組み立て、国境線を越えるなということだけでございます」


「あくまで卿は命じておらぬと言うのだな。兵を帰さぬことも、保安区へ進めることも、停止命令に従わぬことも」

皇帝は第三軍団の報告を指で押さえた。

「ところが、卿が望んでいた結果だけは残った」


外務卿が、フェルナー上等兵発見の追報を開いた。


「第三軍団司令官は、アルブレヒト親王殿下でございましたな。陸軍卿とは長い御親交がおありだ」

声は、いつもより低かった。

「行方不明だった上等兵が帝国側後方の中継小屋で発見されたのは午後十時六分。エルツ側の警告射撃は十時三十一分です。発見を知らせる連絡は、通信機器の不調により捜索隊へ届かなかったと報告されております」

外務卿は号外を開いた。

「そして新聞社の記事には、死者の姓名がございます。陸軍省中央にも、外務省にも、当初報告時点ではまだ届いていなかった名です」

「殿下は、帝国兵の名誉が官報の都合で遅れることを好まれません」

「なるほど。行方不明兵の所在は捜索隊へ届かず、帝国兵が撃たれた知らせは帝都の新聞社へ先に届いた。第三軍団の通信は、ずいぶんと名誉に敏感なようですな」


高窓から入った風に、号外の端が二度鳴った。

皇帝は、しばらくヘッツェンドルフを見ていた。


「第三軍団を原駐屯地へ戻す。外務卿、エルツ政府には共同調査を申し入れよ。捜索命令の発令経路も、新聞社への電報も、求められたものはすべて出せ」

「……それで事件を収めるには、もう一つ必要なものがございます」

「申せ」

「帰営命令が実施されないまま武装部隊を進めたことを帝国側が認め、責任者を処分することです。エルツ側に謝罪と賠償を申し出なければ、共同調査そのものを受け入れない可能性がございます」

「帝国の非を認めろと言うのか」


「国境駅の事実だけを調べるのであれば、責任認定は後へ回せます。しかし、第三軍団司令部の命令系統と新聞社への電報まで提出する以上、調査の結論を待っても大きくは変わらないでしょう」

外務卿は号外へ目を移した。

「昼には、この見出しが帝都の大半へ届きます。エルツでも同じ頃には、帰営命令に背いた帝国軍が保安区へ進入し、それを止めた自国兵が死亡したと伝えられる。今日の夕刻に陸軍卿とアルブレヒト親王殿下を処分すれば、帝国政府は昨夜の事件が自軍の工作であったと認めたものと受け取られます」

「事実であるなら、処分すればよい。軍紀を新聞の機嫌で曲げるつもりはない」

「御処分には反対しておりません。ただ、帝国兵一名が死亡した日にエルツへ謝罪することになります。国民だけでなく、陸軍も黙ってはおりますまい」

「ならば責任は決めるな。双方の部隊を旧配置へ戻し、調査が終わるまで未決とせよ。帝国もエルツも、事件の責任について結論を出さぬ」

「それならば、戦争を避けられる可能性はございます」


財務卿が、閉じた帳簿へ手を置いた。


「ならば、それでよろしいのではありませんかな。戦争よりは安い」

「ただし、エルツ側は捜索隊の発令経路と、フェルナー上等兵の発見が捜索隊へ届かなかった理由を求めます。帝国側も、エルツ軍が警告射撃を行った命令経路を求めることになるでしょう」


「調べさせればよい」

皇帝は言った。

「余の命令に背いた者がいるなら処分する。エルツにも同じことを求めよ」

「その範囲の共同調査を受け入れるならば、第三軍団司令部も対象になります。アルブレヒト親王殿下の電報記録と、陸軍省との往復文書も出さねばなりません」

「卿は、それができぬと言うのか」


「できます」

外務卿の返答は早かった。

「帝国側の命令記録をすべて提出し、結果を受け入れるのであれば共同調査はできます。国民と陸軍の反発も、政府が引き受ければよろしい。ただ、それが全面的な謝罪とどれほど違うのかは私には分かりません」


皇帝は、二通の報告書へ目を落とした。

エルツ兵の死者と、帝国兵の死者が、それぞれ異なる書式の中に記されている。

しばらく誰も口を開かなかった。

外務卿は、山上宮から届いた認証写しを卓へ置いた。


「全面的な謝罪も、命令記録をすべて開く共同調査も選ばれないのであれば、残るのは、帝国が退かずに戦うほかございません。ただし、その場合は昨夜の事件を戦争の前面へ置くべきではありません」


皇帝が顔を上げた。


「なぜだ」


「帝国兵一名の死は、エルツへ謝罪と調査を求める理由にはなります。しかし、国境を越えてエルツ、いえ、ノルトマルクと全面戦争を行う理由には足りません。また昨夜の発砲を前へ置けば、列国には共同調査を拒む帝国の方が不利に映ります」

外務卿は認証写しの封を解いた。

「開戦するのであれば、先日のアーレン王国をめぐる一件を用います」


財務卿が紙面へ目を移した。


「オトフリート二世陛下は、北側との取決めを受け入れておられますぞ」

「受け入れたこと自体は問題ではございません。北マルク十一邦が南マルクの王へ要求を送り、王命による鉄道運用へ手続を課した。そしてオトフリート陛下がその要求へ公然と反発された事実も残っております。つまり、ノルトマルクが南マルク諸邦の王権と自由な決定へ介入したものとして扱います。帝国は最高保護者として、アーレン王国の王権と領域主権を守る用意があると宣言するのです」

「オトフリートは、余へ保護を求めておらぬ」


「ええ、求めておられません。求められたと書く必要もございません」

ヴァルデンフェルスは認証写しを皇帝へ向けた。

「公式な文書では、エルツ政府に最初の発砲についての謝罪と賠償、帝国官憲による現地調査の受入れを求めます。ノルトマルクには回答期限までエルツ方面への軍事移動を停止させる。加えて、アーレン王国との取決めを帝国の仲介による再協議へ戻すよう求めます」

「バルクは拒むしかあるまい」

「おそらくは」

「それでは実質的な最後通牒ではないか。余はまだ、戦を選んでおらぬ」

「承知しております。ですから、エルツとノルトマルクが受け入れれば、本当に軍を帰せる条件にいたします。全項目が履行されるのであれば、帝国が戦う理由もなくなります」


皇帝は、しばらく認証写しを読んでいた。

やがて大きな息を吐き、ヘッツェンドルフへ顔を向けた。


「どの道を選ぶにせよ、卿のしたことが消えるわけではない。卿を陸軍卿の任から解く。アルブレヒトも第三軍団司令官から外せ」


「陛下」

ヴァルデンフェルスが直ちに口を挟んだ。

「いま公とアルブレヒト親王殿下を解任なされば、帝国は全面的な謝罪を選んだと内外へ告げることになります。共同調査を選ばれる場合にも、公自身に国境軍を戻させ、命令記録を提出させねばなりません。そして開戦を選ばれる場合には、公の作戦と運輸表を使うことになります」

「代わりを置けばよい。ヴァルトブルク大将を呼べ!」


皇帝は侍従長へ命じた。

侍従長は、陸軍高級将官の人名簿を卓の中央へ置いた。


「ヴァルトブルク閣下は現在、東部軍管区で第一軍団を指揮しております。任命そのものは可能ですが、大将一人を陸軍卿に据えても、西部国境軍の指揮系統は変わりません」


「どういう意味だ」

「作戦局長、鉄道動員部長、第三軍団長、第五軍団長、両軍団の参謀長は、いずれもヘッツェンドルフ公の推挙で現職にあります。現在の作戦命令と運輸表も、その幕僚団が公の方針に従って作ったものです。ヴァルトブルク閣下は、西部国境作戦に関与しておりません」

「大将を陸軍省へ置いても、公の部下が公の作戦を動かすだけだと申すか」

「はい」

「ならば作戦局長も軍団長も替えればよい」

「そこまで替えれば、帰営案も国境作戦案も、新しい陸軍卿の下で起こし直さねばなりません。それだけではございません。作戦局と軍団司令部は、公の罷免を陸軍に対する粛清と受け取るでしょう。命令への副署を拒み、運輸表を回さなければ、陛下の命令書があっても軍は動きません」


皇帝はヘッツェンドルフを見た。


「余は卿を解く前に、まず陸軍へ余の命令を聞かせねばならぬらしいな」

「そのような事態を意図したものではございません」

「意図がなければ、なお悪い」


沈黙が流れた。それを破ったのは財務卿だった。


「私も、いまの罷免には反対です」

「卿までもがそれを申すか」


「公の戦争論には以前から反対しております。昨夜のやり方も認めません。しかし公を外しても、公の作戦と部下と、すでに支出した金は残ります」

財務卿は帳簿を皇帝へ向けた。

「新しい陸軍卿は、自分の知らぬ作戦の帰営命令か前進命令に署名することになる。全面的な謝罪を選ばれるのであれば、陸軍省を公の影響下から組み直してもよろしいでしょう。しかし開戦の可能性を残すのであれば、始めた人間に最後まで署名させるべきです」


皇帝は外務卿と財務卿を順に見た。

二人とも、ヘッツェンドルフの方へは目を向けなかった。

やがて皇帝が静かに告げた。


「この場で辞表を書け、ヘッツェンドルフ」

「御意にございます、陛下」


ヘッツェンドルフは躊躇いなく、日付を入れずに署名した。

『臣、陸軍卿の任を辞することを請い奉る。』


署名の下へ印が押された。

皇帝は朱肉の乾いていない辞表を受け取り、人名簿の上へ置いた。


「受理する日は余が決める。それまでは卿が陸軍卿だ」

「御意にございます」

「アルブレヒトには第三軍団司令部を離れるなと伝えよ。第三軍団から出る電報は、陸軍省と宮中へ同時に送らせる。新聞その他への公報は一切禁ずる。親王と卿の私信も同様だ」

「御意にございます」

「第三軍団への命令はすべて書面で出せ。口頭命令は認めぬ。卿も余の許可なく陸軍省を離れるな」

「御意にございます」


皇帝は辞表と人名簿を卓の端へ押しやった。

中央には、エルツ政府の抗議書とアーレン王国の認証写しが残った。


「全面的な謝罪はしない」

外務卿が頭を下げた。

「帝国による現地調査を最後通牒に入れよ。エルツが謝罪と賠償に応じ、調査を受け入れ、ノルトマルクが増援を止めるなら、本当に軍を帰せる条件にする」

「承知いたしました」

「アーレン王国との取決めは、帝国の仲介による再協議へ戻すよう求めよ。拒ませるためだけの紙にはするな」

「はい。エルツとノルトマルクの両政府が、それぞれに課された条件を履行するのであれば、国境軍は原駐屯地へ帰営いたします」

「だが拒まれた場合に備えろ。声明の前文には、アーレン王国の王権と南マルク諸邦の自由を置け。昨夜の発砲は、エルツ政府への要求の中で扱え」

「御意にございます」


「回答期限は受領後二十四時間。それ以上は待たぬ」

皇帝は財務卿へ向いた。

「帰営、現配置の維持、開戦。三つとも費用を出せ。余はまだ戦を命じておらぬ。だが命じた後に金がないとは申すな」

「御意にございます」

「陸軍卿」

「は」

「帝国軍を一歩も動かすな。ただし、余が命じた時に動けぬとも申すな」

「第三軍団は親署命令受領後二時間、第五軍団は六時間で前進を開始できます」

「……すでに時刻まであるのか」

「はい。エルツ方面作戦は、数年前から陸軍内部で検討されております」

「卿の陸軍は、前へ出る時だけは随分と素早いな」

「陸軍は、あらゆる事態に備えるものでございます」

「そうであろう。余の帰営命令だけは、その備えから漏れていたらしいがな」


短い沈黙の後、外務卿が口を開いた。


「陸軍卿。帰営案と前進案、双方の運輸表を正午までに外務省へもお回しください。最後通牒の文面と時刻を合わせます」


財務卿が続けた。


「財務省にも同じものを。列車の本数が違えば、用意する金も違います」

「承知した。正午までに回す」


皇帝は三人を見渡した。

三人は互いに顔を向けないまま、同時に頭を下げた。





御前会議が続いている間にも、号外は帝都の街路へ広がっていた。

新聞売りは、帰営途上の帝国兵がエルツ軍から先に撃たれたと叫んだ。

国境を越えていない帝国兵はエルツ軍による先制射撃に斃れた。それも行方不明の戦友を捜していただけで。

号外には、そう書かれていた。

死亡した帝国兵の姓名は、見出しのすぐ下に載っていた。


午前十時には、陸軍省の正門前へ人が集まり始めた。

号外を掲げて怒鳴る者。

戦死者の所属を確かめに来た者。

エルツ公国へ謝罪と賠償を要求せよと叫ぶ者。


議会からは、各会派の質問状が相次いで届いた。

皇帝の帰営命令は維持されるのか。

エルツ軍の発砲へ報復するのか。

帝国諸邦の最高保護者たる皇帝の軍が、諸邦の一つから撃たれたまま退くのか。


外務省から配られた政府発表は、紙面の隅へ小さく載った。

『偶発的発砲であり、事実関係を照会中。現地ではすでに射撃停止。帝国政府は事態の拡大を望まず』


それを受けて昼の紙面には、『政府は兵の死を軽んじている』という見出しが各紙に並んだ。

帝都新報は、政府が事実を隠していると書いた。

ロートマール国民報は、ノルトマルクとの衝突を恐れ、皇帝へエルツに対する譲歩を求めていると書いた。

陸軍省正門前では、政府発表を破り捨てる者もいた。


午後四時、エルツ公国政府とノルトマルク連邦政府へ最後通牒が届けられた。

一時間後、宮中広報局から声明が出た。


夕方の号外は、朝よりも大きな活字で刷られた。


『帝国、アーレン王国の王権擁護を宣言』

『ノルトマルクによる南マルク諸邦への介入を拒否』

『皇帝陛下、断固として譲らず! 二十四時間以内の回答を要求』


声明は、北マルク十一邦が共同代理を立て、アーレン王国へ要求を送り、王命による鉄道運用へ制裁を課したという経緯から始まっていた。


朝から陸軍省前では、エルツに謝罪を要求せよという声が上がっていた。そこへ、アーレン王国を救えという声が混じった。

やがて、ノルトマルクによるマルク支配を許すなと叫ぶ者が現れた。

それを別の者が、帝国諸邦の自由を守れと言い換えた。声は陸軍省の石壁へ何度も返った。


街路には、朝の号外が何枚か落ちていた。

馬車の車輪が一枚を泥の中へ押し込み、その上へ夕方の紙が風に押されて滑ってきた。


夕刊の一面には、オトフリート二世の名があった。

昨夜の国境事件は、すでに後ろの頁へ追いやられていた。

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