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エピローグ:ラプトルたちの最期。雨は全てをテムズ川へと流す。

 切り裂きジャックのニュースがロンドン中を賑わせる数カ月前。ラプトル夫妻を乗せた船が中国の港を出発しロンドンに向かう道中。夫妻は船内の厳重に施錠された一室の暗闇の中で繰り返す大きな揺れと木製の船の側面に打ち付ける激しい波飛沫の音で目を覚ました。


 まだ頭がボーっとしていて何があったか思い出せない。しかし自分達の身に危機が迫っていることを理解した上で2匹は静かにじっと耐えた。ギシギシという揺れとザバザバという波飛沫の音。暗闇の中で永遠にも感じられたこれ等の音に何も感じなくなったころ。ラプトルは異変を感じ跳び起きた。


 もちろん暗闇で何も見えない、しかし異変の正体が分かった。音が止んだのだ。そのあと感じたのはヘドロめいたひどい悪臭と奇妙な鳴き声でコミュニケーションを取る生物たちの声だった。


 ラプトルは揺れる暗闇の中ジッとここから逃げ出す好機を待っていたがまさに今がそのときだと感じた。ドンドンと足音が近づいて来る。先ほどの鳴き声たちの主だろう。ガチャガチャガチャンと音がした後ギィという音と共にほんの僅かに射した光に向かって2匹は駆けだした。


 ラプトルたちはそのときニンゲンの姿を見てコイツらに生まれ故郷で静かに暮らしていたところを捕らえられ眠らされたことを思い出した。またそれと同時に情けない悲鳴を上げ怯える彼らを直感的に餌にカテゴライズした。明るい方へ上る階段を塞ぐ何匹かのニンゲンの喉をかみ切り外へ出る。


 辺りは夜だったが地上が明るくニンゲン達の巨大な巣の様だった。そうして何やら喚きながら追いかけて来る船員たちを気にも留めずラプトル夫妻はロンドンの霧の中に消えていったのだった。


 その後起こるラプトルたちの食事の様子は先に述べた通りである。

グルメなラプトル夫妻にとって人間の肉は決して美味ではなかったがネズミを何匹も捕るよりかは幾らか効率的で中でもショウフと呼ばれる種類であれば肉質が柔らかくまだ食べられるレベルでラプトルも背に腹は代えられないと狙って襲うようになっていた。


 警戒心の高いラプトルの狩りは大抵は瞬時に喉笛に噛みつき獲物に悲鳴も上げる間も与えず仕留め、下水管に引きずり込み巣の中で夫婦仲良く平らげるのだが、何度か人間に出くわして獲物を残し立ち去らねばならない場面があった。云わばこれはラプトルたちにとって数多ある日常の狩りの内の『数回の失敗の狩り』なのだが、失敗の狩りの方がこの街のニンゲンたちの関心を集めたがそんなことは知る由もなかった。


 ラプトルラプトル夫婦は喧しく肉も不味いこのニンゲンという哺乳類連中にはうんざりしていた。しかしその人間が作った下水道が彼ら夫婦を皮肉にも人間の目から遠ざけてくれた。その下水道の中に巣を作り2つの卵を産んだラプトル夫妻だったが2匹は日を追うごとに衰弱していったその一番の要因はロンドンの気候が恐竜たちには寒すぎたことだろう。


 季節は11月。ロンドンももう冬に差し掛かろうという時期である。もしあのまま船から飛び出さず貴族の元に売られていたら設備の充実した温室で悠々と暮らせたのかもしれない。しかし最後の恐竜の番はそのようなことを知る由もなく彼らがそれを望んだかも分からない。


 かくして夫婦は卵から我が子たちが孵る様を見ることなく人知れずロンドンの下水管の中で亡くなったのだった。数日後全てを洗い流すかのようにロンドンには記録的な大雨が降りラプトル達の亡骸も巣も卵も全てをきれいさっぱり洗い流してしまったのだ。


 多くの歴史的事実がそうであるように劇的な物語の結末は案外と呆気ないものである。『切り裂きジャックの正体は“誰”だったのか』長らく多くの人々を引き付けたこの議題。地道な研究の末“誰”だったのかという一番の前提に誤りがあったと証明されるのはここから約130年。現代まで待つこととなる。


 ラプトル夫婦の卵の一つは今日の研究で残骸が発見されこの『切り裂きジャック=ラプトル説』を証明する決定的な証拠品の一つとなったわけだが、もう一つの卵は当時テムズ川のドブ攫いをしていた男が「大きく奇妙な卵を拾い売ったが大した値段にはならなかった。」と自らの日記に残している。その後その卵の消息は不明のままである。


―終―


次回【あとがき】につづく

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