ep2:なぜカノニカルファイブが狙われたのか?
カノニカルファイブとは切り裂きジャックに襲われたことが確実とされる5件の殺人事件でありどれも娼婦が狙われている。ではラプトルはなぜこの5人を襲ったのか。
事実はこうだ。「5人を襲った」のではなく「食事を邪魔されたのが5回だった」にすぎない。ラプトルにとってこの行為は食事なのだ、もちろん5人程度では収まるはずがないのだ。
カノニカルファイブ以外にも数えきれないほどの狩りをしてきたがその殆どを巣に持ち帰り綺麗に平らげていたのだ。巣とはテムズ川近くの下水管で当時のロンドンには下水道などが網の目の様に張り巡らされていた。そもそも切り裂きジャックの犯行はその残忍性と新聞社に犯行予告めいた手紙を送るなどのセンセーショナルな側面が注目されたが19世紀末ロンドンの貧民街で人が一人二人行方不明になっても誰も気にとめなかった。
カノニカルファイブに関しては狩りの途中で邪魔が入り、警戒心の高いラプトルがすぐさまその場を離れたに過ぎない。ラプトルの食べ残しを見て「人間離れした犯行」と人間が勝手に形容した。皮肉にもその例えは正しかった。
生物には狩りの縄張りを持つものが少なくないがラプトルも同様であった。そしてジャックはその縄張りを大まかに特定していた。このころになるとジャックは正気ではなく「クーク」というかつて自分が可愛がっていた鳩と同じ名前を付けたラプトルと「自分は心を通わせているのだ」という妄想に取り付かれていた。
そしてラプトルの食事が行われそうな場所に目星をつけ来る日も来る日も夜の街を徘徊しそのときを待った。そしてついにそのときがきた。冬も近づき冷たい雨が降る夜だった女性の短くしかし致命的な悲鳴を頼りにその場に誰よりも早く駆け付けたジャックは遂に再びラプトルと邂逅した。喉笛に噛みつかれ絶命する娼婦には目もくれずラプトルにフラフラと近づくジャック。しかしそのときジャックはある違和感に気付いた。
「模様が違う」
ラプトルの背にある波のような模様があのとき出会ったラプトル「クーク」とは違うのである。ジャックは背後から近づく気配を感じ振り向くと同時に絶命した。自分の喉に何かが噛みついた、薄れていく意識の中で彼が見たのはラプトルであり紛れもなくあの「クーク」であった。
ラプトルは番だった。2匹の夫婦だったのだ。クークとその夫は娼婦とジャックを一人ずつ器用に口に咥えすぐそばの下水管へと消えていった。これはカノニカルファイブでもない当時のロンドンにありふれた行方不明事件の一つとして処理された。
ラプトル夫妻は何度かロンドンで狩りをする中で娼婦をターゲットにするようになっていた。これは単純にこれら人間と呼ばれる哺乳類の中でもメスの個体の方が比較的襲い易く肉質も柔らかかったからである。無論条件さえそろえばオスの個体も幾つも襲った。グルメなラプトルにとって人間は特別美味という訳でもなかったが好き嫌いを言っている場合ではない理由があった。ジャックがクークと名付けたラプトルはメスであり産卵の時期に入りこれまで以上に栄養が必要となったのだ。
ロンドンは冬に差し掛かりラプトルたちにとってはとても耐えられない環境であり本来産卵の時期でもなかった。テムズ川の悪臭によって嗅覚はほぼ失われ気温の低下により次第に2匹は衰弱していった。しかし同時に自分たちに死が近づくことを本能的に自覚し子孫を残そうとしたのは当然の摂理だったのかもしれない。かくして夫婦はテムズ川沿いの下水管の巣の中で2つの卵を産んだ。
次回【ep3:ラプトルは何処から来たのか?】につづく
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