表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

ep1:手紙は誰が出していたのか?



 切り裂きジャックは警察に挑発的な犯行声明文を送っていたことでも知られる。しかしいくら賢いラプトルも人語で手紙を出すような真似は恐らくしないだろう。では手紙は誰が出したのか?お察しの通りその人物とはこの青年ジャックなわけだが彼はどのような動機でこんなことをしたのか?


 青年ジャックはあの恐ろしくも美しい鳥と竜の隠し子のような生物に心の中で「クーク」と名付けていた。ラプトルという名を人間があの生物の化石に付けるのはここからおよそ30数年後のことである。


 クークとは彼が幼少期飼っていた鳩の名前である。彼の幼少期は特別裕福ではないが文字の読み書きなどは習わせてもらえた。しかし父を事故で母を梅毒で亡くし遠い親戚の男に引き取られてからの彼の人生は悲惨そのものだった。常に酔っぱらったその養父からは奴隷のように扱われどこにも居場所のない青年が唯一心を許せる存在がときおり窓辺に訪れる1羽の鳩だった。彼はその鳩にクークと名付け少ない自分のパンを分け与えているときがイヤなことを忘れられる唯一の時間だった。しかしある日仕事から帰るとクークは死んでいた。養父が「うるさいから」という理由で殺したらしい。その日家を飛び出して以来ロンドンの貧民街で暮らし工場労働者の一人として過ごしている。


 社会、警察、娼婦、他人、自分。殆ど全てのものに怒っている彼は礼儀正しく穏便に日々をやり過ごしていた。怒りを諦めでコーティングすることが彼の心を平静に保っていた。しかしそんな彼の日常はあの生物と出会ったあの日一変した。彼は頭の中の霧が晴れ10年ぶりに目が覚めたようだった。


 ラプトルの捕食を目撃したジャックはラプトルを「怒りの代弁者」あるいは「自由の象徴」と仰ぎ心酔していた。そして青年はこの興奮を昇華させる方法を思いついた。手紙を出すのだ。と言ってもラプトルにファンレターを送るのではない。ジャックはラプトルに成りすまし無能な警察を挑発すような手紙を出した。社会への復讐あるいは彼なりの存在証明だったのだろうか。


 血で文字を書くという最高に冴えたアイデアを思いついてから事件現場に赴いたが結局血は採取できず赤いインクで代用した。無論警察も初めの内はこのような手紙はイタズラの類として取り合わなかった。しかしこの犯行声明文のインパクトもあってか新聞がこの事件を「人間離れした狂気的な犯行」としてセンセーショナルに取り上げることとなるが、実際犯行に及んだ存在は人間ではなかったのだから「人間離れした犯行」とは皮肉にも正しかったと言えよう。


 ジャックは最初の一度以来ラプトルとは出会えていなかった。彼自身再会することを熱望したが元来警戒心の高いラプトルと一度でも出会えたことが奇跡であり、またその人前に姿を現さない習性と狙った獲物を確実に仕留めることこそがジャック以外誰も目撃者がおらず今日まで記録が発見されなかった理由でもあった。


 ジャックは毎日新聞を穴が開くほど見てラプトルの犯行を探した。そして2人目3人目のラプトルの犯行と思しき事件を見付けると犯行声明文を警察へと送り付けたのだ。ジャックは自分の送った手紙を世間が騒がせていることと切り裂きジャックの正体を自分しか知らない事という2つの事実にこの上ない快感と生きがいを感じていた。


次回【ep2:なぜカノニカルファイブが狙われたのか?】につづく

面白ければブックマーク評価よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ