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プロローグ

第一章

 アウローラ首都――城前大広場。かつて日々への恐怖に怯え、心が曇り、希望すらも失い絶望に沈んでいた人々。だが今、その目には光が宿り誰もが生きる力を取り戻していた。希望が満ち、その輝きは広がり、眩しいほどの美しい光景が広がっていた。


  広場、そしてそこから四方へと伸びる通路までもを、人の群れで埋め尽くされていた。無数の視線が一斉に、広場を見下ろす城のベランダへと注がれる。その視線の先――いままさに、ベランダへ歩み出そうとする一人の女性の姿があった。


 歩みを進めた瞬間、彼女に向かい風が吹き抜ける。その風にあおられ、二枚の純白のカーテンが、彼女の絹のようなシルバーブロンドの髪と共に城内に舞い上がる。


 城内にいた人々は、驚きどよめきを上げる。彼女もまた、不意の出来事に驚き、とっさに目を細めた後、両腕で顔をかばうように守った。


 彼女は、両腕の隙間から何かを見つけたのか、ふっと笑みを浮かべる。そして腕を戻し、力強く一歩を踏み出す。すると、まるでその歩みを後押しするかのように、室内から外へと風が優しくそよぎ始める。


 純白のカーテンは、まるで彼女の道しるべのように揺れ、あるいは守るかのように風に揺れている。そして、彼女がベランダの手すりに手を置いた瞬間、それまでの風が嘘のように静まり返る。まるで、彼女の歩みを見届け、祝福を捧げた風が満足し、そっと去っていったかのように。


 ありえない光景に城内の人々は、一層どよめいている。中には、感動のあまり涙を流す者もいる。

純白のカーテンが戻り、ついに彼女の姿が露わになった瞬間、広場を静寂が支配した。


 太陽の光に照らされた彼女の髪は、鮮やかな黄金色に輝き、まるで神話の中から現れた女神のようだった。肌は透明感に満ち、白い花びらのような清澄な美しさがある。瞳は晴れ渡る青空のように澄みわたり、控えめで繊細な衣をまとったその姿は、ただそこに立っているだけで人々を生き物をも魅了した。


 そして、彼女はこの国の誰もが知る、どこか懐かしい面影を持っていた。それが誰なのかを確かめる暇もなく、人々はただ息を呑み、彼女から目を離せずにいた。


 だが、次の瞬間、雲が太陽を覆った。


 黄金の髪はその輝きを失い、まるで幻が消えるように、人々の視界から女王の面影は霧散する。


 そこに残ったのは、女王によく似た娘が精悍に引き締まった顔で立っていた。しかし、広場にはかすかな動揺が走り、沈黙の間から戸惑い混じりの囁きが漏れ始めた。


 彼女は、その場の空気に押されるように一歩後退しかけたが、すぐに踏みとどまる。そして、深く息を吸い、遥か彼方を見つめた。


 微かなざわめきが広場を満たす中、彼女は力強く頷き、広場にいる大衆へ視線を向け、堰を切ったように口を開く。


 彼女の言葉には、これまで歩んできた道の軌跡と、未来への期待と夢が込められていた。毅然とした声で紡がれるその言葉は、人々の心に希望の灯を強くする。


 その言葉は大気に溶け込み、広場を満たし、まるで光そのものが広がるように人々の心を照らしていく――。




 力強く響き渡る彼女の声が、俺の鼓膜を震わせた。


 ――ちゃんと聞きたかった。


 俺も最後まで、その場にいたかった。


 この国が彼女の手によってどのように統治され、世界にどんな変化をもたらすのか。そして世界がどう変わっていくのかを、この目で見届けたかった。


 次第に視界がにじむ。


 自分の意思とは裏腹に、ゆっくりと、ゆっくりと、意識が霞んでいく。


 やがて、濃密な霧となって頭を覆い尽くし、まるで目隠しをされたような感覚に囚われた。


 意識が少しずつ戻ると、景色はまだぼんやりと揺らいで見え、俺は彼女の後ろ姿を数秒だけ追った。

それから、静かに城の廊下へと足を踏み出す。


 城内も広場も、この世界のすべてがいまは彼女一人のために捧げられている。新しい時代の幕開けを、この場で見逃す愚か者など、俺以外には存在しない。


 人気のない空間を求め、壁に手を添えながらゆっくりと歩く。誰も振り向かず、誰も俺を気にかけない――その孤独さが、妙に心地よくもあった。


 やがて、たどり着いたのは――彼女と初めて会った場所によく似た場所だった。


 窓の外には幻想的な庭園が広がり、二脚の豪奢な椅子とテーブルが、まるで俺を待っていたかのように並んでいる。


 懐かしいさに襲われ、体の力が抜けそうになった。


 ドンッと壁に寄りかかり、何とか持ちこたえる。大理石の床を踏みしめ、足を前へ――椅子へと向かう。

両手でしがみつくようにして腰を下ろし、窓の外を眺める。


 「……あぁ……なんて、美しい景色だろか。あっ……」


 初めて見た時は、高そうだとか、管理が大変そうだとか、そんなことしか思わなかった光景。

だが今は、ただただ美しく思えた。


 ――前女王は、確かにこう言った。


 「ふふっ……貴方にも、この光景が心から美しくお思える日が、きっと来ますよ」


 まるで未来が見えていたかのように。おかしそうに微笑みながら、楽しげに言っていたのを覚えている。


 「まぁ、その時には……貴方も少しは素直になっている頃でしょうね。それとも、少し後悔しているかしら?」


 あの時は、そんなはずはない。何を言っているんだ、などと思っていた。


 ……いや、違うな。


 こんな日が来るなら、もう少し早く気づければよかった。


 雲の隙間から、柔らかな光が庭園に降り注ぐ。


 新しい時代を迎えようとするこの国に、光が祝福のように降り注ぐ。


 霞む視界の中で、俺はこの景色を瞼に焼き付けるように見つめた。


 頬を涙が伝い。握りしめた拳と共に唇を噛む。


 「まったく、どこまでも……」


 溢れ出る涙を拭うこともできずに――覚悟を決めたはずだった自分を、ただ胸の奥で噛みしめる。


 その瞬間、胸の奥に潜んでいた違和感が、ざわりと表面に現れる。戦場で死んでいった仲間たちの最後を見届けた時と同じ、言葉にならない恐怖。冷たい波のように、体の芯からゆっくりと押し寄せてくる。


 胸の奥底からせり上がる不快な感覚が、俺を容赦なく飲み込もうとする。


 抗おうとする意志とは裏腹に、世界は遠ざかり、時間も音も色も感覚もすべて淡く溶けていく。


 冷たい水が肌を撫で、意識はゆっくりと深い底へ引き込まれていく。


 俺は、意識の糸を手放すように瞼をゆっくり閉じた。


 ――沈んでいく。深く。深く。そして。


右も左もよく分からずやってます。優しくしてください。願いします。

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