表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

北条時宗に転生してしまったゴリゴリ理系の俺、どうにかしないとこのままじゃ元寇で日本が滅ぶ 〜日本史、やっときゃよかったなぁ〜

作者: 丹空 舞

えーと。

俺はさっきまでシミュレーション実験をしていて。

深夜の研究室で一人、速馬ダービーしながらポチポチやってたはずだ。


なのに、なんで?






「時宗様、ご起床の刻にございます」


プロレスラーみたいなやつが枕元に座っている……。


誰だトキムネって。

イケメンが出てくるゲームのキャラ名みたいだ。

ある意味キラキラネームってのか。


黙っているとプロレスラーがもう一回声を張り上げた。


「時宗様ァァ!! ご起床でございます!!!」




うるせえ!


だが、声を張り上げられるような俺ではない。


いやいやいや、見も知らずのプロレスラーにツッコミできるほど、理性捨ててないんだわ。

だって絶対ヤバイでしょ?



俺はゴクッと唾を飲み込んだ。


こんなん……腕とか俺の五倍くらいあんじゃね?

丸太だろ?

丸太でぶん殴られるリスクを冒してまでツッコミたくはない。


「時宗様? もはや体がお優れになられないのでは」


暗闇の中でろうそくを持ったレスラーがボソボソと喋る。

いや、そうじゃなくて、人違いです。



「俺は――」



地を這うような低音だ。


夜明け前の部屋にビリビリ響くような、男~って感じの声。


え、誰?





「あ、あー……」

「時宗様どうされました! お気を確かに! 夢見が悪うございましたか!?」


レスラーがカッと目を見開く。

ろうそくに照らされて化け物そのものだ。

白目が多くて怖い。

髭面のレスラーはガタガタッと下がると、


「薬師、いや、祈祷師を呼んで参りまする!」


と戸を閉めた。

ピシャァァァンッとすごい音がする。


近所迷惑だ。きっとこの建物には朝に騒音のお知らせが貼られるに違いないが、俺ではない。

あの筋肉髭面レスラーのせいだ。



レスラーが置いて行ったのか、ろうそくが皿みたいなのに乗って床にあった。


おい、危ねぇな。

木の床だろ。燃えたらどうすんだ。

にしても、THE和風って感じの部屋だ。

銀縁の楕円の鏡が置いてあった。

その横に刀もある。時代劇かよ。



「ん……」




鏡にぼや~んと浮かび上がる、筋肉モリモリの男。

眉毛がキリッとして、強い視線。

なかなかシュッとしている。





「……誰ですか?」




お化けか?

いや、エグジイルか?

ジーソウルブラザーズか?



男の口が動く。




「すみません、あの~、ちょっとこわいんで……エッヘッヘ……その、俺のマネすんのやめてもらっていいですかね」




前の男が卑屈な表情を浮かべる。

そんな、ネズミコゾウみたいな顔すんのやめてほしい。

イケメンにはイケメンの表情ってもんがあるだろ。


「あのー、っていうかここどこなんですかね? 旅館?」


イケメンは卑屈な表情をやめない。

うーん、鼓膜がぶるぶるする。

腹にくるような低音ヴォイスだ。

ん?

っていうか俺の声はどこだ?



「……」




いや、待て待て。

俺の本体はどこだ?





「あ、あ、あ、あの」




震える低音。

弱気とコミュ障の塊のような喋り方。

や、どう考えても似合わないだろ?

イケメン武士と理系の俺。




「わっ……ワ・レ・ワ・レ・ハ・ウ・チュ・ウ・ジ・ン・ダ」






一言一句同じ言葉を、目の前の細マッチョイケメンが喋る。





「お、俺?」




鏡を指さすとイケメンも俺を指し返してくる。

俺があいつであいつが俺で。







「えーーーー!!!!」




バゴォーン!!





「ご乱心じゃ! 時宗様がご乱心ですぞ!」

レスラーが今度は木戸を蹴り破って入って来た。

迷惑すぎる。



「昨日の狩りの熊の霊がとりついたのやもしれぬ! いや、切り捨てた蒙古の使者の呪いか!? 祈祷を! 祈祷をはよう!」


「いえ、安達殿! 我ら禅宗では祈祷はいたしませぬ」


「ええい、そんなものは知らぬ! 疾くどうにかせい!」




坊さんっぽいじいさんが出てきてオロオロしている。

レスラーは安達というらしい。

俺をキッと見据えておっさん、もとい安達さんは言った。


「悪霊よ、そちらにおわすは北条時宗様なるぞ! 出ぬというならば出させてみせるぞ!」


やばい。

このままだと火でもつけられそうだ。




「あー……アタマがワレルようにイタイー」




俺は頭を抱えて、ゆっくり床に横になった。



「北条様!」

「時宗様!」





だめだ。


気のせいでも何でもなかった。



絶対ホウジョウって言ったし、トキムネって言ってる。




北条時宗ってあれじゃん。

あの……なんか……武士の人……じゃん。



何した人だっけ?


橋の上で笛吹いて戦ったやつだったか?

それともナントカの乱みたいなのやったやつだっけ?

奥さんが鬼みたいな武士か?

いや、あれは武士の奥さん、奥さんが武士だったか?


というかホウジョウトキムネの時代っていつだ?






自慢じゃないが、ゴリッゴリの理系なので日本史なんて知識は持ち合わせていない。

小学校6年生のときの記憶が最後といっていい。


いや、そんなことよりイオンとか元素とか、オームとか積分のが大事だった。

少なくとも俺にとっては。





だが、俺はこれまでの自分の考え方を、今、初めて後悔していた。







「日本史、もっとやっときゃよかった……」






夜明けにどこかで鳴いた鶏がコッケーと俺を笑った。




「オンコロコロ……」





畳の上で頭を抱えて寝転ぶ俺に向かって、レスラーが何やら呪文のようなものを叫び始めた。

やめてほしい。

坊さんが安達さんの袖にすがる。


「安達様ッ、それは別宗派の呪文にございます! 我らは神ではなく仏に帰依しておりまするゆえ」

「ええい、ではそなたがやるがいい!」

「やろうとしているのですが、安達様が邪魔なのです!」

「俺のせいだと申すか! 生臭坊主!」

「生臭とは何ですか生臭とは!」


おい、やめろ。

人の上で口論しないで欲しい。


俺はすかさずガバッと身を起こした。

正直は美徳だ。


「ま、待った! やめて! 俺、悪霊じゃないんです! 悪いもんじゃなくて! ただの……その……シミュレーションの実験してただけで!」


「シミュレ……ション?」


安達の太い眉毛が交差し、


「それは蒙古の妖術か!?」


と唸った。



モーコ?

妖怪か?

九尾の?




「ああ、そう! その、モーコです!」





うわ、やっべぇ。

なんかフラグ立てちゃった気がする。


安達さんのこめかみにビキビキビキッと青筋がたった。



モーコじゃないよ、妖狐だよ。

ちがうって俺。

やばい、安達さんドチャクソ怒ってんじゃん。



俺は必死で言い募る。



「違います違います! 俺、モーコじゃなくて、トキムネでもないんです」

「時宗様ではござらんと?」

「時宗様の中に、えっと……俺が入っちゃってるだけで……」


「なんと!? 時宗様に憑依を……!? 」


「ちょ、いや霊とかじゃなくて……」


坊主がピクッと反応した。


「……もしかすると……これは、仏の思し召しかもしれませぬぞ。今こそ、時宗様に天命がくだった証では……」


「な、なんの天命よ!?」


「蒙古退ける策を授かりし者とでも申せましょうな」



「あの、そのモーコってのは?」


「フビライ率いる異国の民のことです」



蒙古……?


それは俺でも聞いたことあるぞ。

あれだ。日本史の年号で「いい国つくろう」ってやつ。


え、ってことは今マジで鎌倉時代……??


しかも俺、よりによってその「時宗」って人の中に入ってるわけ?


よりによってこの歴史的クライマックスの主役に!?


やばい。

完全にやばい。


これは――。



これは早急に日本史の教科書を入手しないといけないやつだ!!



「すみません、誰か、えっと……書物? その、蒙古がいつ攻めてくるかとか、書いてあるやつないですか!? あと元寇って2回あるんですか!?」


「予言書!? そんなものはありませぬ! そして、げ、元寇……!? そのような言葉を知っておられるとは……やはり神懸かりにございまする……!」


うわあ、ハードル上がっただけだった。


やっべええええ。


もういい、何でもいいから未来の俺、頼むから早く起きてくれ。


目ぇ覚ませ、科学の力でこの夢から脱出するんだ……!


俺が額を押さえたままうずくまると、坊主がつぶやいた。


「これはもしや祟りでは」


安達がうなずく。


「仏道への忠義が試されているやもしれぬ。無学祖元殿のところへお連れし、一刻も早く禅の深い修行を!」


「いやあああぁああああああ!!!!」




やめてくれ……それ絶対、地獄のフラグぅぅぅぅ!!







俺の鎌倉ライフ、波乱の幕開けだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ゴリゴリの理系‥‥ 小6が最後の記憶って中高でも授業なかったでしたっけ? 日常生活してれば多少は知識はいってこないのかな? 修行僧じみた理系以外の知識制限した生活?
壮大な話になりそうなプロローグ的お話、面白かったです。 そうそう、過去トリッパーが全員歴史マニアではないですもんね。でも、科学知識で活躍するお話も楽しそう!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ