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友情スキルは友好度と共に!  作者: 生ハム
序章

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2/11

今日から学園へ!

 

 特殊技術(スキル)養成校、骸峠学園(むくろとうげがくえん)は僕が通う学び舎である。ここでは様々な技能を身に付ける為に全国から集まった、様々な学生がいる。

 この様々とは、多種多様な専門職や、マイナーと呼ばれる日常生活ではまず耳にすることのない職業まで学べる。

 食堂やコンビニ、当たり前のようにショッピングモールまである。僕は家が好きだから自宅から通学しているが、申請すれば学園内の寮に住めたりする。


 つまり何でもござれという超ハイスペック学園である。故に敷地も広大だ。広すぎて毎年恒例行事となりつつある、新入生が迷子になるという事態も起こっている。最初は僕も迷子になったものだ。


 ところで何で僕がこんな超ハイスペック学園に入学できているのか?不思議に思っただろ。それは特別推薦入学だからである。


 この国の教育機関では、第一校(小中学校の問題など一般常識を学ぶ)第二校(特殊技術(スキル)養成学校レベル1) 第三校(特殊技術(スキル)養成学校レベル2) 第四校(特殊技術(スキル)養成学校レベル3) 第五校(国の未来を担うエリート養成学校※例 官僚 政治家 研究者 大手企業の幹部)に区分される。


 ここ骸峠学園は第四校にあたる。第一校までは義務教育で特殊技術(スキル)一般教養と社会一般教養を学ぶ。義務教育を終えた人は、将来の進路を決める人生の岐路とも呼べるイベントがある。


 ここで就職活動をするか、そのまま進学校に進むか、だ。特殊な事情でもない限り、たいていの人は進学校に進むことになる。僕はここにスキルが大きく関わっているとみている。


 特別推薦入学の話に戻す。

 僕は本来、第一校つまり義務教育課程を修了した時点で就職活動をしようとしていたのだが、第四校まで特別推薦が確定していた()()()()()()()が僕の名前を推薦状に書き、特別推薦先の第四校、つまり骸峠学園に送ったのである。しかも推薦理由という項目に楽市という人物を大絶賛、高評価する文言が並んでいた。


 この推薦状を送ったひとりは現在の僕のクラスメート水月 鏡弥(すいげつ きょうや)

 二人目は現在の生徒会長。

 そして三人目は僕の姉だった。 


 推薦人は特別推薦確定組、三人からのものであり、推薦する人物が同一人物であることから学園側は困惑した。


 三人を評価したのは学園である。ならこの三人が推す人物はすごい人物に違いない。学園側はそう考えた。


 でも蓋を開けてみると特殊技術(スキル)も使えないただの凡夫だった。どういうことだと僕を推薦した三人を学園側は詰問した。


 結果どうなったかというと、水月はのらりくらりと立ち回り学園側を煙に巻いた。

 

 姉はこの騒ぎから逃げるように海外留学をした。

 

 もしかしたらこの騒動で一番被害を被ったのは、生徒会長かもしれない。―理由は不明だが―僕を特別推薦したことで生徒会では肩身の狭い思いをしたらしい。彼女はこの一年で名誉回復したが、やはりまだ風当たりは強い。


 僕は何も悪いことをしてないはずなのに罪悪感が半端ない。


 僕が不登校になった遠因は間違いなくこの推薦状事件である。僕は重圧に耐えながら一年間、骸峠学園に通い続けた。


 今から二週間前に疑問に思ったのだ。こんな無駄なことに意味があるのかと?

 

 そこから現在に至るまで不登校が続いた。


(だがそれも今日までだ)


 僕は骸峠学園、正門前にいる。別の門からでも入れるのだが今回は待ち合わせをしている相手が正門にいるからだ。


 群青色の長い髪を後ろに束ねた、女子生徒が僕の待ち合わせの相手だ。より正確に言うなら聖 槐(ひじり さいかち)、生徒会長だ。その腕には生徒会の証である腕章をしている。


「生徒会長、遅れてすみませんでした」

「他に言うことがあるんじゃありませんか?」

「この度は大変ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」

 僕は頭を下げた。


「はい、良く出来ました。本当に心配したんですよ?」

 聖さんは手を合わせて満面に笑む。


 一年前、同じクラスになった聖さんと僕は、当初は険悪な関係になると予想したが、意外にも普通に接してくれた。私情は表には出さないだけかもしれないが。鏡弥も姉も、聖さんの誠実さを見習ってほしいものだ。


 

 僕は二週間、つまり一ヶ月近くを不登校して過ごした。この事実があること自体、学園側はあまりよろしくないようで、教師陣や生徒会を使って聞き取り調査を行うそうだ。


 僕は生徒会が利用する居室に呼び出された。居室の中央には、一脚のパイプ椅子があり少し離れた位置に、相対するようにテーブルが並んでいた。そこには見たことのある教師陣に生徒会長を筆頭に生徒会のメンバーが集結していた。

 

 僕は初め面接でも受ける気分で居室に来た。でもその認識が甘かったことを痛感する。これは裁判だ。


 僕はパイプ椅子に着席すると質問攻めにされた。要約すると、学園側に何か不備があったか?とか苛めがあったか?などだ。もちろんこんな事実は無い。全部僕の心の問題だからだ。


「では質問を変えます。今朝貴方はどこにいましたか?」


 質問の方向性が変わったことに驚く。


「え?どうしてそんなこと聞くんですか?」


「質問を質問で返さないで下さい。もう一度言います、貴方は今朝どこにいましたか?」


 生徒会長の険の籠もった声が居室に響く。どこかの司令官のように手を顔の前で組んだ。


「…家にいました」

「それを証明する人は?」


 これは間違いない。取り調べだ。僕はアリバイを聞かれているのだ。


「家族が…両親が家にいたことを知ってると思います」

「家を出たのは何時頃ですか?」

「七時五十分だと思います」


 生徒会長と待ち合わせをしていたから、今朝は少し早く家を出た。


「あの…この質問に何の意図があるんですか?僕のことと何か関係があるんですか?」


 生徒会長の左隣に座っていた赤毛の生徒、生徒会書記の日ノ宮 優(ひのみや まさる)が質問に答える。


「今朝未明に学園内で教師が何者かに襲わた。今は病院に搬送され重症だ」


「僕とその件が何か関係があるんですか?」

「それはまだ分からない。重症を負った教師も不意打ちで犯人の姿を見ていないそうだ」


 嫌な予感がした。理由もなく学園が僕を拘束するわけがない。つまり僕が犯人であるという根拠が、証拠があるということだ。僕はつばを飲んだ。


「だが現場にこれが落ちていた」


 日ノ宮はテーブルに置いてあった定規や筆記用具、後は細々とした文房具類を指で示す。

「ここに楽市と名前が書いてある。この文房具は楽市、お前の物だろう」


「確かにそれは僕の文房具です。でもそれは古い方の文房具で、学園に置いてあったものです。新しい物は昨日街の文房具屋で買いました。調べてもらえば分かると思います。それに僕には教師を襲う動機がありません」


「それについては調べがついてる」


 日ノ宮はチラッと生徒会長を見ると生徒会長が頷く。


「一年前の特別推薦の件を覚えているな?」


 覚えてるも何も忘れられるわけがない。推薦状事件は僕にとっては黒歴史だからだ。

「覚えてます。それが何か?」


「今回重症を負った教師は、推薦状の件を担当していたんだ。特に関係者への詰問が厳しかったらしいな」


 襲われたのはあの時の教師だったのか。確かに充分な動機になるだろう。あの教師には生徒にするとは思えない心のない言葉の数々を散々浴びせられた。それでも―

「僕はやっていない」

「私もそう思います」生徒会長がそう言った。

「生徒会や教師の皆様も、貴方がやったとは思っていません」

 居室にいる全員が頷いている。


「私達はこの一年間、貴方を見てきました。貴方はこんなことをする人物ではない。私達は楽市君が何か事情を知っているのではないかと、形式的な質問をしただけです」


 僕の一年間が無駄ではなかったことに少し感動した。


「他に質問のある人はいませんね。ではこれにて聞き取り調査は終了したいと思います。皆様お疲れ様でした」


◇◆□■◇◆


 聞き取り調査が終わり、生徒会長と一緒に居室から出るとそこには鏡弥がいた。


「槐さん、自習の時間が終わったから迎えに来てしまったよ」

「貴女はまた名前で呼ぶんですか?前にも注意しましたよね」


 学園では、クラスでは必ずクラスメート同士で話し合い、規則を作らないといけないという校則がある。クラス一丸となって目標を達成するためのルール作りである。


 このルールはクラスによって様々で、局中法度のような厳格なルールもあれば、フリーダム過ぎるルールもある。 


 骸峠学園を入学して間もなく、僕のクラスもあるルールが施行された。―お互いを名字ではなく名前で呼び合うというものだ―


 このルールの発案者は水月である。


 僕はあまり自分の名字が好きではないので抵抗感は無かったが、他のクラスメートは違った。水月と僕以外のクラスメートは反対だった。

 もしかしたら入学したばかりで、知らない人から下の名前で呼ばれることに、抵抗があったのかもしれない。


 だが水月はクラスメートを力で捻じ伏せた。水月VSクラスメート全員の戦いは圧倒的な武力で水月に軍配が上がったのである。

(話し合いとは何なのか?)


「ゴメン、そういえば進級してルールが消滅したんだった。クラス替えが無いから失念していたよ」

「次また校内で戦闘を始めたら、許しませんからね。あと変なルールを決めるのも許しません。またおかしなルールが提出された場合は、生徒会の権限を使って破棄させてもらいます」


「釘を刺したつもりかい?オーケー、わかったよ。でも変なルールとは心外だな。僕は楽市のためにあのルールを作ったんだよ」

「楽市君のために?」


 生徒会長が僕を見る。お願いです、見ないで下さい。


「当時の僕は、僕と楽市が自然な形で名前を呼びあう状況を作り出したかったんだ。だって僕が一方的に名前を呼ぶのはなんか違う気がするだろ。たまに楽市から名前を呼ばれると、なんというか…ゾクゾクするだろ」

「理解できませんね」


 生徒会長は鏡弥の発言を一刀両断した。


「他人を犠牲にしてまで人を幸せにしたり、幸せになりたいとは私は思いません。私は貴女を可哀想な人だと思います。本当に心から同情します」


「ふーん理解してもらわなくてもいいけどね。楽市が良ければ他人なんてどうでもいいし」


 生徒会長は溜息を吐く。もう何言っても駄目だこいつ、という顔をしている。


「しかし楽市も思い切ったことしたね。教師を殺っちゃうとは」

 水月はとんでもないことを言い出した。


「いやいや、僕は殺ってないし教師も死んでないよ」

「後は僕が教師にトドメを刺せば完璧かな。それとも検査入院してる刀魔に殺らせようか?」


「二人とも不謹慎ですよ。冗談はそこまでにして早くクラスに戻りましょう。居室の片付けをした日ノ宮が帰ってきました」

 冗談に聞こえなかったのは僕だけだろうか。


「それと言い忘れていたのですが、先日あった悪魔と遭遇した件に関しては、学園と生徒会の方で箝口令を敷かせてもらいました。いつまで効果があるかはわかりませんが」


 僕はそれに頷き了解する。僕達は教室に戻ることにした。


 僕達の教室【二年Sクラスへ】


◆◇■□◆◇―二年Sクラス教室―


 茶髪で耳にピアスを付けた男子生徒、牙城 友樹(がじょう ともき)が隣の黒髪の生徒に話しかける。


「どうする?楽市が帰ってきた。全員が揃ってないからという理由で、ルールの話を引き延ばしてきたが、もうそれが使えない。最終手段で水月と戦うしかないか?俺達で勝てるか?お前の特殊技術(スキル)でどうにかならないか?」


 黒髪で口元を黒い布で隠した男子生徒、風雲 影人(かぜくも かげと)はそれに答える。


「…試してみないと分からないが、無理だろうな。水月には拙者の光学迷彩が効かないし、透明化を看破する眼を持っている。拙者は特殊技術(スキル)を使用しないで、皆と連携した方が、まだ勝ち筋があると思っている」


 学園側は秘匿にしているが水月 鏡弥が複数のスキルを保有しているのは、二年Sクラスの生徒なら周知の事実である。


「もういいんじゃない。クラスの皆で束でかかってもどうせ勝てないんだから、勝手にルール決めさせても。強者の特権ってやつ」


 紫色の長い髪をした垂れ目の女子生徒、闇原 燐(やみはら りん)が気怠げに言った。


「私もそれには同意します。しかしまたルールを私物化された場合のことも、検討すべきでは?」


 白髪の女子生徒、白鳩 弓(しらばと ゆみ)が言った。


 灰色の髪した幼い顔の男子生徒、暗堂 積木(あんどう つみき)が手を挙げる。


「あ、あの僕思ったんですけど、生徒会を使えませんか?ルールを無効にしたり校則を改正したりだとか」


 二年Sクラスの皆は暗堂が何を言いたいかわかった。牙城が代表で応える。


「確かにいい案だ。うちのクラスには現在、生徒会長と書記がいる。それに生徒会には何度も警邏で駆り出されて借りを作ってるし、もしかしたら学園側も融通きいてもらえるかもしれない」


「でもぅ生徒会長の性格を考えるとやらないと思うんだよね。それこそぉ白鳩さんの言ってた私物化じゃない?」


 牙城は嫌な顔をする。


「闇原はわかってないな。水月は無法者だ。あいつの傍若無人さにはクラスの皆は辟易してるんだ。一回くらい仕返しする夢を見たって良いじゃないか」


「私がぁ言いたいのは生徒会長と水月は違うってことなんだけどぉ」 


 あーでもない、こうでもないと言っていると教室の前方の扉が開いた。教室に入ってきたのは聖と日ノ宮、遅れて水月、それから―楽市。


「「「お帰り、楽市!」」」


 不登校復帰を喜ぶクラスメート一同から声がかかる。「また一緒に地獄を味わおうぜ」とか、「気持ちは~わかるけど~一人だけ逃げるのは違うんじゃない?」とか、「学園生活また頑張りましょうね」などだ。


 僕は自分の席に着く。


「そうだ、皆に言わなきゃいけないことがあったんだ」

 クラスメートの皆は水月の言葉に、ビクッと反応した。

「実は楽市が特殊技術(スキル)を使えるようになったんだ」

「おぉ」と教室から感嘆の声がもれた。


「へぇ~どんな~特殊技術(スキル)なの?」


 水月は楽市の特殊技術(スキル)の説明をした。


「ふ、不思議な特殊技術(スキル)ですね」


「…拙者も聞いた事がないな」


「私は意外かなぁ。てっきりお姉さんと同じ特殊技術(スキル)かと思ってた」


「たとえ同じ特殊技術(スキル)でも、中身の能力が違う場合もあると言うぞ」


「…急に使えるようになれた?…もしかして楽市は不登校期間中に修業をしていたのか?」


「いや、僕は…「そうなんだよ」」

 水月が僕の言葉を遮って言った。 


「楽市が学園に来なかったのは、修業をしていたからなんだ」

 何勝手なこと言ってるんだ。


「ほう、どんな修業をしていたんだ?」

 日ノ宮さん、虚言に食いつかないで下さい。

「僕が手取り足取りと指導をしたんだ。手取り足取りと、ね」

「何で~二回言ったし」

「頑張ったのは楽市じゃないか。水月が何で出張るんだよ」

 牙城が非難した目で鏡弥を見る。


「楽市の事は、マネージャーである僕を通してもらわないと困る」

 水月がわけがわからない事を言い始める。


「はいはい静粛に」

 生徒会長が手を何回か打ち鳴らせた。


「楽市君が修業から戻ったので、授業の準備を始めたいと思います。いいですね、皆さん」 


生徒会長の言葉に、「ハーイ」とクラスメートの全員が応えた。


 僕は少し怖くなった。僕の不登校期間中が、いつの間にか修業期間中に変わっていたからだ。


(不登校期間中に惰眠をむさぼっていたなんて、口が裂けても言えないな)


 楽市は心の底からそう思うのだった。


△▲▽▼△▲―休み時間 図書館―


 骸峠学園には校舎に隣接して、図書館が併設されている。そこにある本の蔵書数は圧巻だ。探せば市場では出回らない稀覯本もある。


 僕と水月はそんな図書館の隅で話をしていた。もちろん告白ではない。


「何であんなことを言ったの?」

「楽市のスキルを考えたら、好感度を上げといた方がいいかなぁーと思って」

 色々言いたいことはあるが…まぁいいか


「そういえば、楽市の特殊技術(スキル)になんか変化はあった?」


「あったよ。音声をカット出来たんだ。四六時中あの音声が頭に響いてたら、気が散ってしょうがないから。稀に音声が勝手についたりするけど」


「これからは普通の勉強だけじゃなくて、スキルの勉強もしていかなくてはいけないからね」


「それだよ。どうなるんだろ?」

「どうなるとは?」

「今まで普通の勉強しかしてこなかった僕はやっていけるのだろうか?」


「そういうことね。つまり楽市は自分が、第四校レベルの特殊技術(スキル)の勉強についていけるか不安なんだね。大丈夫だよ、僕が手取り足取り教えてあげるから。手取り足取りと、ね」

「気に入ったんだね、その言葉」

「うん」


(水月に聞きたい事も聞いたし、どうしようかな)

 

 休み時間が余ってしまった僕は何気なく図書館を見渡す。学園の敷地が広大なのは知ってるけど、本当に凄いな。校舎に図書室があるのに、図書館を丸々作っちゃうのはどういうことなんだろうか。


「スゴいな」と語彙力ゼロの感想をもらしていると、視界に見知った人が入ってきた。


「暗堂君」

「あ、楽市さん、水月さん、こんにちは。図書館に来るのは珍しいですね」


 灰色の髪をした生徒、暗堂 積木(あんどう つみき)は僕のクラスメートだ。しかも僕と同じ推薦組で、勝手に親近感を抱いているのは内緒だ。飛び級も挟んでいるためか、年齢は僕より二つ下である。どこか幼いあどけなさが残っている。

 

 やっぱり第四校に区分されるこの学園も例にもれず実力至上主義だ。年功序列という概念も無い。

 実力さえあれば誰でも入学できる。逆に実力が無ければ絶対に入学できない。

(本当に僕は何でここにいるんだろ?)


「も、もしかして何か本をお探し何ですか?だったら任せて下さい。僕は図書委員をしているんです。本当は校舎の図書室だけですけど、図書館の本にも詳しいですよ。エヘヘ」


 キラキラした目で僕を見てくる。図書委員としての使命感からくるものか、それとも話し相手ができて嬉しいのか。はたまた両方か。僕はそこまでできた人間じゃないのに、と思う。

 

 今まで黙っていた鏡弥が口を開いた。

「じゃあ、保健体育の本はあるかな?」

(突然何を言い出すんだ。)

「そ、それなら奥から二番目の本棚にありますよ」

(普通に対応するんだ。)

「おっと忘れてた。僕は最近ゲシュタルト崩壊を起こしてて、文字が読めないんだった」

「そ、それは大変ですね」

「だから、読み聞かせしてよ」

(なにがなんでも汚すつもりか!純粋無垢な少年に何をやらせるつもりだ!)

 

 暗堂君は顔を曇らせて困っている。よく見ると涙目になっていた。

(さすがに僕も暗堂君を泣かしたら許さないぞ。)

「ごめんね。お姉さん悪いことしちゃったよ。本当にごめんね…」 


 水月は僕の顔を見て気持ちを察したのか、謝罪をした。しかし水月の言葉は続く。


「でも君もいけないんだよ。あんな子供の顔されたら、嗜虐心が刺激されちゃうよ。僕みたいな人はね、純粋無垢な君を、めちゃくちゃに汚したくなっちゃうんだ。だから気をつけたほうがいいよ。いじめちゃってごめんね」

 暗堂君は何を言っていいか分からず、オロオロしている。

(暗堂君。理解しなくても良いし、お姉さんを許さなくてもいいよ。)


 暗堂君は僕を見る。そして視線が水月に向く。

「あ、あの気になってたんですけど、おふたりは付き合っているんですか?」


「突然だね。そういう事を聞くのは、野暮ってもんじゃないかい?」

(思わせぶりなことを。)

「でも答えてあげよう。付き合ってないよ。…」


 おや?と思った。いつもの水月らしくない発言に熱でもあるんじゃないかと思った。しかし水月の言葉は続く。

「そういう設定だからさ。教師や他の生徒に、学生でありながらイケナイ関係がバレるか、バレないかと思いながら生活するんだ。楽市は素っ気ないけど、そこがまたゾクゾクするんだよ」

(平常運転でした。)


「へぇー」

(反応薄くない?)

「暗堂君は何で僕達が付き合ってるって聞いたの?」


 僕は疑問を口にした。暗堂君は口をもごもごさせると僕の問いに応じた。

「さ、最近、恋愛小説とか読んでて、現実にこういう事を本当に考えてるのかなって、思って聞いただけです」


「意外だね。僕は家族と一緒に、冒険小説やミステリー小説とか読んでるイメージだったから」


「そういうジャンルも読みますよ。死んじゃったお父さんとお母さんがいっぱい本を持ってましたから」


「あっ」


 そうだった。暗堂君のご両親は五年前、自宅の爆発事故で亡くなっていた。当時著名人だった暗堂君の両親は、魔法物理学の第一線で活躍する学者だった。当時のニュースは、著名人が不慮の事故で亡くなったと、一時期話題になった。


 暗堂君は、家族団らんで本を読んでるイメージだったから、自然に口をついて出てしまった。

「あ、あの、大丈夫ですから。僕は気にしてませんよ」

「でも…」


「もう昔のことですから」


 本人がこう言ってるから、自分は納得するしかないんだろうな。


 世間では風化していても、当事者の心には永遠に残り続けるのだ。先ほどの発言は配慮に欠けていた。


「そ、そういえば悪魔に襲われたって聞きましたけど、大丈夫でしたか?」


「えっ、ああ大丈夫だったよ」

「はぁ、箝口令とか大げさなこと言って全然効果ないじゃないか」


 チャイムの音が流れた。


「もう休み時間が終わりか。話をしていると時間が経つのが早いね。教室に戻ろう楽市。そうだ、暗堂君には後で僕が今読んでる恋愛小説を紹介してあげるよ」


「…普通の小説だろうね」

「笑いあり、涙あり、感動あり、濡れ場ありの健全な長編小説だよ」

(まだ汚し足りないのか)


 暗堂はそんな僕達を見て笑っていた。



◆◇■□◆◇ ―放課後 図書室にて―


 放課後の図書室は静謐で、落ち着いた気持ちにさせると暗堂はいつも思う。でもその空間で一人でいると、世界は僕独りだけではないかと思ってしまうこともある。


 世界から切り離された空間は、自分をさらに孤独にしていくのだ。


 図書室には窓から夕陽が差し込んでいた。暗堂 積木は図書室で一人、図書委員の仕事をしていた。

「よいしょっと」


 段ボール箱に入った本は嵩張るととても重い。でも図書館と図書室の本は定期的に入れ替えないといけない。本が入った段ボール箱を持って何度も往復するのは、かなりの肉体労働だ。

 しかしこれが図書委員の仕事だ。最近学園内に図書館が建設されたことで、図書室の利用者が減少し、それに比例して図書委員の数も減らされた。


 でもそれは利用者が減っただけで、仕事が減るわけではない。むしろ逆で作業は増えた。それがさっきの往復である。


 これから本を棚に並べて、栞を作ったり、今週のおすすめの本を選定しなくてはならない。


 暗堂は作業を止めて、自分の掌を見た。無数にある絆創膏は自分が見ても痛々しく感じる。本や紙、裁断で使うカッターなどを扱うため、手をよく切ってしまう。


 この絆創膏は全部新しい。楽市さんと水月さんが僕の絆創膏が汚れていて貼り方も雑だったため、貼り直してくれたからだ。


 楽市さんは優しいし、水月さんも……少し変なお姉さんだけどちゃんと優しさもあることが分かった。


 ふたりは図書委員の仕事内容を聞くと、「放課後一緒に手伝おうか?」と聞いてくれた。僕は最初それを聞いた時、意外だと思った。あのふたりがそういうことを言うタイプだとは思わなかったからだ。


 でもそれを断ってしまった。どうしてかはわからない。少しムキになっていたのかもしれない。


 帰ってもやることはない。暗堂は学園内にある寮に住んでいる。寮と言っても綺麗なマンションでちゃんと自分の部屋がある。門限さえ守っていればほとんど自由だ。


 だから放課後遅くまで残っても、別に問題ない。


 誰も帰りなど待っていないのだから。


 暗堂は頬に雫が伝っていくのを感じた。


「何で泣いているんだい?」


 図書室に聞き慣れた声が響く。暗堂は涙を袖で拭う。声の発生源はどこかと室内を見渡した。


 室内に所狭しと並んだ本棚の奥の影にそれはいた。暗がりからひょっこりと現れたのは、悪魔―ドジィーだった。


「楽市に罪を着せろと言ったけど、あれは杜撰すぎない?まぁ、いいけどさ。それよりボクチン達が出会ってからあれからもう五年も経つんだ。相棒の両親は本当に馬鹿だったね。魔法の深淵を覗くために悪魔のボクチンと契約して、魔導書で召喚するんだから。その挙げ句に魔法が暴走して、暗堂邸は爆発。両親は死んで、相棒だけが生き残った。でもボクチンは契約の印で消滅しなかった。なぜか?」

「…」

「相棒の両親はボクチンに代償をまだ支払ってなかったからさ。契約者が死ねば契約者に近い血縁者が契約の印を引き継ぐんだ。つまり相棒が生きてる限り、ボクチンは死ぬことはないということだよ。契約の印から解放されるには、代償を全部払わないといけない。相棒は馬鹿な両親の分まで代償を払わないとね。ボクチンは健気で一生懸命な相棒が好きだよ」

「…」


「なんか言えよ。誰のおかげでレベルが高難度の学園に入学できたと思ってるの。ボクチンが契約で力を貸したからでしょう。まぁ、いいか。ボクチンは水月と楽市に復讐できればそれでいい。…ねぇ、知ってた?悪魔は執念深いんだよ」


 悪魔ドジィーは邪悪な笑みを浮かべながら暗堂 積木(あんどう つみき)を見ていた。


******


 危険度とは政府が定めた妖魔の危険度を表すレベルのこと。1から5まである。妖気の大きさや被害規模で数値化しているため必ずしも正確なレベルとは限らない。


―悪魔ドジィー ―危険度4―


 魔導書に封印されていた悪魔。契約の印によって今は暗堂 積木(あんどう つみき)に取り憑いている。ある妖魔によって暗堂家に持ち込まれた。

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