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第3話 アンティークショップ“想い出“

 スナック蜃気楼のソファでうたた寝していた白猫の姉さん。目を覚まし、外を見ると昨晩からの雪で、まきがはら商店街は白銀の世界に変わっていた。すると扉の窓ガラスには、生まれて初めての雪に興奮しさわいでいる茶トラ猫が見えた。

“ふー寒いのに・・あたちは雪が大っ嫌い・・・嫌でもあの日を思いだしちゃうニャー”

「にゃー白姉さん! 雪だよ ほら 真っ白 一緒に遊ぼう 出ておいでよー」

と茶トラが窓ガラスに鼻を当てながら騒いでいる。

「いやだニャ! あたいは寒いの嫌い 大っ嫌いニャ!!」

姉さんの怖い顔に驚いて茶トラは走って行ってしまった。

しばらく、温かい部屋でまどろんでいた白猫の姉さん。ふと外を見ると店の前にトラックが止まり、大人二人で大きな家具を降ろしている。隣のアンティークショップ“想い出”の納品らしい。その様子を何気なく眺めていた白猫姉さん、急にパッと目を見開き、スナックから出て行った。


 「あら! しーちゃん うちのお店に来るなんて珍しいわね。こんな雪の日に・・寒いでしょう、ストーブの前にいらっしゃい」

アンティークショップ“想いで”の女主人、明子が白猫姉さんを手招きした。

ここの女主人は白猫姉さんを“しーちゃん“と呼ぶ。

昔ながらのアンティークストーブで薪が燃える匂いがなんとも気持ちを和らげる。ところが白猫の姉さん、先ほど納品された家具に鼻をくっつけてクンクンと匂いを嗅いでいる。そしてピョン!とその家具の天板に飛び乗ると丸くなって動かなくなった。

「あらら・・しーちゃん どうしたんだい。その家具が好きなのかい? いいよ、しーちゃんが遊びに来てくれるなら、どこで寝ても良いよ」 

この商店街では、お店に猫がいると繁盛するといって喜んで招いてくれる。まあ“みゆき寿司”の親父は例外だが・・・・・・・


 美しい花瓶と花でも置かれていたのだろうか。手彫りで彫られた彫刻が美しい家具。今その家具の上に白猫の姉さんが寝ている。夢でも見ているのか、にゃにゃにゃと泣いたかと思ったら、一粒の涙がすーとその家具に落ちた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「ねえ、あなた・・もうどうにもならないの・・」

妻の恵梨香えりかが泣きながら夫の忠司ただしに訴えている。

「明日には手形の不渡りで会社は倒産するよ。この家も抵当に入っているから・・・住み続けることはできないよ」

「私たちどうすれば良いの・・・」

「明日になれば債権者が押し寄せてくる・・・今夜のうちに逃げないと・・・・」

絵美えみの小学校はどうするのよ・・・・」

「それもこれも、どこかに落ち着いてからだよ・・・・」

「それに、チャコちゃんはどうするのよ」

「連れていけないよ 動物がいたら余計に部屋が見つからない・・・・」

「それに、お金も搔き集めたけど・・・これだけだよ・・」

「そんな・・・・・・・・・・・・・・」


ふああー なんか夜中にバタバタとうるさうニャ~ 昨夜はご馳走だったからお腹いっぱいでとても眠いニャ・・・にゃ・・・・・・・・・・


ダン!ダン!ダン!ダン! 

「誠実商事さん! 開けてください! いるのでしょう!」

「良いですか、扉壊しますよ! 誠実商事さん!」


 一体何があったの・・・・・目が覚めたら知らない人がお家に沢山入ってきて、変なシールを色々なものにペタペタ貼って・・・・・あたち驚いてお庭に逃げたの・・・寒い 昨夜の雪がお庭一面を真っ白にしている・・・・・寒い・・・・・あー誰か近づいてくる・・・・

「シー! シー! こら あっちに行け!」

何? 何? あたちのお家よ 何?・・・・・・・・・・・・寒い 寒い 寒い・・・・・


冷たい・・・冷たい・・・・つ・・め・・・た・・・い・・



 「わーこの家具素敵 新居のリビングに置きたいわ、ねえ貴方あなた、少し高いけどいいでしょう? 新品で購入したら高くて買えない代物よ」

「君が気に入ったのなら買っていいよ・・・あれ ちょっと傷があるね、ほら、ひっかき傷みたいだけど・・・・」

「ねえ店員さん、少し傷があるわ。少しおまけしてよ」


 アンティークショップ“想い出”の前に2匹の猫がチョンとお座りして店を覗いている。「姉さん 寂しそうな顔してどうしたニャ?」

キジトラ兄さんが、白猫姉さんを心配して声をかけた。

「うん なんでもないニャ・・・いいの いいの・・これでいいの・・にゃ・・・想いでは思いだけでいいの・・・・・」

白猫姉さんは、売約済みのシールが貼られた家具をしばらくの間、ずーと見つめていた。


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