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始まる前のお話


まきがはら商店街 この商店街にお店は13件。

東海道線、いづみの駅から車で20分。

住宅と田んぼに囲まれた郊外にそのお店は並んでいる。

商店街の通りはいつもガラガラ。

なのにこの13件だけが静かにたたずんでいる。

そう佇んでいる という言葉が合うように・・・・・

いや 見る人によっては蜃気楼しんきろうに見えるかもしれない



 商店街が夕闇に染まるころ、店先の看板にポッと灯がともった。

そのピンク色の正直にもお上品とは言えない看板には英語でスナック 漢字で蜃気楼 と見える。

薄暗い店内 カウンターの中には、暗くても そうとわかる濃い化粧のママ 

今夜の客は常連の40歳くらいの男性一人。

近くに住んでいるらしいのだが、急いで家には帰りたくないらしい。

週に1,2度は顔を出すので、ママとの話もつきたか、一人黙ってグラスを傾けている。 


 にゃー  にゃー 

「あら おやおや 最近見ないからほかの町にでも行っちゃたのかと思ってたよ」  

 その綺麗な真っ白猫はお客の足元でおつまみをねだっている。 

「みーちゃん これでいいかい」と裂きイカを横の席に置いた。 

白い猫はぴょーんと飛び乗るとうみゃうみゃー泣きながら食べている。 

「あらまー猫にイカやると腰が抜けるってよ あはははは」 

「ママ そういえばさ この店 なぜ蜃気楼っていうんだい」

「え お店の名前  知らないわよ い抜きで借りたの、看板もついていたから、そのまま使わせてもらってるのよ」

「あはは ママらしいな」

「そうそう たぶん この白い猫もよ でもね 不思議なの」  

「なにが不思議なんだい?」

「ええ いまでこそ ここにお店が何件かあるけど、3年前はこのスナックだけだったて噂よ。それもね ある日突然ポッと 気が付いたらあったって。

で 店名が蜃気楼でしょ あはっは 噂話だけどね」 

ママの笑い声を聞いて 白い猫がにゃーにゃーと泣いている。


 そうか もう3年以上も前だニャん

その日はすごく寒い日だったにゃー 凍えて死にかけていたあたいを誰かがひょいっと持ち上げて抱きしめてくれたニャん

甘い香水の匂いがちょっときつい女性だったニャん

「あら、凍えてる。 うちにいらっしゃい」

とその女性は泥で汚れた猫を抱えた。

体があまりにも冷たいので思わずぎゅっと抱きしめてしまった。 

「私と同じ・・・・・・・・」 


あたいはその女性に抱かれながらしばらく歩いたような気がするわ。

そこには一軒のスナックがあったの。 周りには何もないの それこそぽつんと立ってたわ。周りには霧が立ち込めていてなんか薄気味悪かったニャん

ぎぎー スナックの扉があいて 中はすごく暖かくて、私はその場ですぐに寝てしまったニャん


 『あらにゃんこさん 寒くて辛かったわね ゆっくりお休みなさい」

その女性はしばらく白い猫をなでながらじーと見つめていた。 

かわいそうなにゃんこさん・・・私も帰る家がなくて寒空の下 凍えていたわ。 雪がふっていて、しばらく歩き続けたの  あなたと同じように・・・・そしてね もう疲れはてて公園のベンチに腰掛けたの  ここまでは覚えている。

ふと、周りの声に目が覚めて、そしたらね私の周りに人がたくさんいて、

私、もうびっくりして

「いったい何ですか?」って大きな声を出してしまったわ。 

でもね 誰も返事してくれない。

そのうちに、警察やら救急車やら、何 私なんでもありません って叫ぶのに、だれも

知らんぷりなんなのよ・・・「いったいどうして!」

と叫んだら 体が急に軽くなって ・・・・空から下の様子が見えたわ。 

私分かった  死んだのね って。 

なぜか 怖くなかったわ

もう、寒くない・・・・・・


 そのあと、女性は眠っているあたいにいろいろなことを話しかけていたニャん。

つらかったこと。寂しかったこと・・周りの人が冷たかったこと そして・・・・

誰も助けてくれなかったこと  

でもね 楽しかったことを一つだけ話してくれた。

まだ施設にいた5歳の12月もう直ぐクリスマス。

同じ歳の男の子と喧嘩して施設を飛び出したの。

帰りたくなくて住宅街をひたすら彷徨さまよったわ。

明日はクリスマスイヴ、玄関の扉に綺麗なリースが飾られたお家、家中をピカピカ光る電気で飾ったお家。

小さなカフェが見えて来て、そっと垣根の隙間からお庭を覗いたら大きなクリスマスツリーが見えたの。

すごく素敵なツリーでしばらく見惚みとれていたわ。その時ふと後ろから

「お嬢さん よかったら中に入ってもっと近くで見てもいいよ」って男性の声が。

私、びっくりして逃げようとしたのだけど、背中を押されながら庭のテーブルに座らせられたわ。

そのツリーには様々な思いが詰まった手作りのオーナメントもあるってカフェのマスターがお話してくれた。とても美味しいココアも出してくれた。

「お金・・持ってません」

頂くことを断ると

「私が作ったツリーをこんなに楽しげに見てくれることが嬉しいのですよ。お嬢さんの笑顔が代金です」

と言ってくれた。

「私もオーナメント作って飾りたい」ってお願いしたら

「どうぞ、ぜひ飾ってください」って

施設に戻るとお友達も一緒に画用紙でオーナメント作ったわ。

お願いも書いて・・・・・七夕見たいね・・・

お父さん、お母さんに会いたいって・・・・・・お願いはそれだけだったわ。

飾りに行ったクリスマスイヴの夜 私 夢見たわ 

お父さん お母さんと手を繋いでケーキを食べながらツリーを見て一緒に歌を歌ったの・・・・

夢だけどね・・・・・・


あなたを見つけたとき一緒に連れて行こうと思ったの。

だけどやめた・・・

あなたは、幸せな顔をしてるって。

あなたをなでると幸せをもらえるって。 だから あなたは死なせないって。


ギーギギー 軋んだ音を立てながら木製の古びた扉が開いた。

「いかがですか このお店 前の持ち主が蒸発してしまいましてね。

まったく家賃も払わずに困ったもんですわ。 もし気に入ってくれればお安くしますよ

敷金、礼金はいりません。 毎月の家賃も二階の部屋込みで3万円と消費税で結構です


ただ 一つだけ条件があります。 たまにメスの白猫が訪ねてきます。どうか大切に

向かい入れてあげてくれませんか。 もうそれだけで結構です」


下見に来たちょっと派手な女性。家賃の安さに二つ返事で契約成立。

あれ そういえば白猫がどうのこうのって言ってたわね うん まあいいわ。

でも 安いのはうれしいけど なんか昭和30年代みたいなお店ね。まあいいわ

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