真理子
襲撃することを決めた二人は武者震いだ
村木は改めて立夫に言った
「前島、襲うのはいいが そこは何人潜んでいるのか 全くわからんしな ヤバくなったら逃げる事に躊躇するな いいか、離れ離れになったらこの宿の前だ・・」
【わかりました!中尉殿も気を付けてください 自分は中尉殿に戦場で何度も救ってもらった命です その恩は忘れません 何があってもお守りしますよ】
「それは 僕の言うセリフだよ 」
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翌の早朝 そこを出た二人は 十三公園の横にある焼け残ったビルに押し入った
事前に聞いたのは軍人らしき男が勝手に占拠して そこに戦災孤児を集め 淫売宿にしている根城のようだった
【なんだ!てめえらは!】
40過ぎの男が不意を襲われて 一瞬たじろいだが 寝床から仁王立ちして 日本刀を鞘から抜き身構える・・前島が男に ピストルを構えた
見たら奥に3人の女たち どれもが 15歳前後の童顔 この男以外に 大人はいない感じだった
男は 銃口にひるんだ・・
「ここは 俺の土地なんだぜ 建物もそうだ 勝手に住んでもらっては 困るってことだ!」
村木は ハッタリをかませたのだ
「そ、 そか・・・わかった 出て行くよ しかしちょっとだけ待ってくれ 女と食い物だけ持って出たい・・」
そしたら 奥から出てきた女が・・叫ぶように言う
「あたしは 出て行かないよ! 米も 食い物だって 渡さないからね・・」
16歳ぐらいの肉付きのいい女だった 野郎に美味い物を食わせてもらって飼われていたに違いない
「なんだと てめえ・・よくもそんなことを!」
その男が顔を真っ赤にして 女の胸倉をつかみ 平手で顔面をたたきまくる
「なにすんのよ! おまえなんかの言うことを聞くもんかい!」
髪を振り乱し 唾をプッと男の顔に吹っ掛けた
前島の顔が ん?となった (この娘、もしかしたら・・)
確かめようと 前島が近寄ろうとしたら
【やめろ 年端もいかない女をいたぶるのは 許せん!】
と村木中尉が前に進むや その男の脚を蹴りあげ 次いで そいつの肩をつかみ 床に殴り倒した
「ううっ・・・」
男は痛みに悶え ズボンが半分落ちて 赤いふんどしが丸見え・・
【ブザマなもんだ! それでも帝国軍人か!】と 再び尻を蹴りあげたら
てめえら・・お、憶えていろ!と 捨て台詞を吐いて去った
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娘の顔をしばし凝視していた立夫は声をあげた
「ま、真理子じゃないか! 俺だよ 立夫だよ!」
振り向いたその娘が訝しげに大男の顔を見た
「お、お兄ちゃん? 立夫兄ちゃん?」
「おお!気がついてくれたか!」
髪もヒゲも伸び放題のむさくるしい顔だ。 判らなかったのも無理はない
「ウワー生きてたんや」・・と
五尺はあろうか・・豊かな娘の肢体が立夫に飛びついた
「おお、前島、知り合いだったのか?」
「はい、この娘は従妹です・・家は隣同士でずいぶんと遊び相手をしたもんです・・」
「お医者さんごっこをしたよね? エヘヘ」 と真理子がいたずらっぽい笑顔だ・・
(笑) まあ そんな間柄でした・・頭を掻いて照れる立夫・・
「真理子 親は? 」
「死んじまったよ・・爆撃で・・立夫兄ちゃんの お母さんもよ」
焼夷弾でみんな焼け死んだと説明したが 立夫は途中で遮った
「そんなことはもういい 前向いて行こうや・・しかし ここで真理子と会えるとは 神様 仏様のお導きだぜ・・」
「真理子、こちらは中尉の村木さんといって 俺の上官なんだ ものすごく世話になって命の恩人なんだ」
「そうなんや・・あたし真理子 17歳になります 」とモンペ姿の三つ編み頭が丁寧に頭を下げた
奥から二人の少女が出てきた
「この子たちは 戦災孤児よ・・どちらも13歳なのよ・・」
真理子の紹介で その2人もベコンと頭を下げた