表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

真愛

作者: 平 一

表紙:

挿絵(By みてみん)


次の作品に元気をいただき、書き直しました。

イラスト:『黒猫』 https://www.pixiv.net/artworks/78448695

『薔薇と猫耳美少女』 https://www.pixiv.net/artworks/111444666

動画:『萩原雪歩 Agape』(小窓は✕印をクリックで消えます)

https://www.bilibili.com/video/BV1fs41127ao/?spm_id_from=333.788.recommend_more_video.2

『星色のカレイドスコープ』 https://www.youtube.com/watch?v=FgP0PYPxM2E

『約束』(字幕は右下の吹出しをクリックで消えます) https://www.nicovideo.jp/watch/sm21988300

『We sing the world』 https://www.youtube.com/watch?v=4nRfReK7RI8

素敵な刺激を与えてくれる、文化的作品に感謝します。


神や悪魔は人間の理想像、拡大像だと思います。

特に悪魔は災害や疫病、戦争や犯罪などの象徴でした。

しかし今、人間は神魔の如き技術の力を持ち、

それらは全て、自己責任になりつつあります。

どうせなるなら我々は、〝責任のある神々〟になるべきだ

(Y.N.ハラリ)とも言われます。


不安定な農耕時代の物語は、混沌カオスを含むことが多いです。

規格品大量生産の工業時代には、明確な勧善懲悪の物語が人気でした。

大量の情報が流れる情報時代の物語では、是々非々の判断が可能になりました。

人智を越えた最適化ができるAI時代には、むしろ多様性の活用が必須かも!?

現代に語られる神話とは、我々自身の心の中にいる天使の独善を戒め、

悪魔さえ改心させ、全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。


ご興味がおありの方は、他の作品もご覧いただけましたら幸いです。

今年もまた異星種族から人類に向けて、

挨拶(あいさつ)の動画が公開された。

少女と黒猫が混ざったような生き物が、

感謝を示す赤いバラの花束を手に、愛らしく微笑んでいる。


挿絵(By みてみん)


銀河帝国の最先進種族は量子頭脳への人格移転マインド・アップローディングを達成し、

驚異的な演算能力や集合人格の形成能力を得ているが、

彼女達もそのひとつだ。

そんな種族がよくするように彼女達もまた、

猫科の動物によく似た基本個体の面影を残す

人間型分離個体ヒューマノイド・アバターを使っていた。


通常、分離個体は威圧的な印象を防ぎ、

好感度を高められるよう設計される。

具体的には自種族の特徴を分かりやすく示しつつ、

相手種族の基本的な遺伝子型を持った、

魅力的な若年個体の姿を取ることが多い。

そこで……可愛い猫耳少女というわけだ(笑)。


挿絵(By みてみん)


とはいえ寿命を克服し、様々な量子頭脳や

生物・機械的身体を乗り換えながら、

悠久(ゆうきゅう)の時を生きる種族のことだ。

彼女達自身にとっては年齢や性別の違いなど、

着替えのできる衣服のようなもので、

それほど意味を持たないのかもしれない。


挿絵(By みてみん)


彼女は語り始めた。「人類の皆様。

かつて私達は、銀河系を統一した〝先帝〟種族の命により、

皆様の祖先を含む様々な〝未来ある種族(もの)〟達の文明発展を、

神話なども通じて(かげ)ながら支援いたしました」


挿絵(By みてみん)


公式声明ではあるが、親書に近いものなので、

言葉もやさしく、分かりやすい。


「しかし、その後帝国では

〝中枢種族〟と呼ばれる皇帝側近種族を初め、

帝国建設に功労のあった軍事種族の多くが、

腐敗と抗争に陥ってしまいました。

彼女達は〝先帝〟種族を傀儡(かいらい)化したのち、

新興の技術・産業種族を抑圧し、

構成元素の異なる銀河系外周種族からも収奪を行ったのです」


挿絵(By みてみん)


いつの時代もどこの国でも、技術革新や歳月の経過により、

人々の経済・社会活動や内外の自然・社会環境は変わる。

それに応じて適切な政策をとり、

健全に発展し続けるのは大変なようだ。


「彼女達はまた、配下となる軍事種族を得るため、

私達の文明支援計画をも利用しようと(はか)り、

組織への浸透や職員への買収・脅迫、

さらには殺害と入れ替わりなどの手段を通じて、

非人道的な干渉を加えるようになりました」


挿絵(By みてみん)


当時の私達には知るべくもなかったが、

相手種族や周辺種族の存亡も意に介さず、

腐敗・衆愚化の誘導や紛争扇動、要人暗殺、

危険な軍事技術の提供から遺伝形質の改変工作まで、

かなり恐ろしい手口を使っていたらしい。


「そのため私達は、帝国の健全な発展のため、

厳しい制裁も覚悟のうえ、改善を求める公開請願を行いました。

しかし、すでに永らく抗争状態にあった軍事種族間では、

責任の所在を巡って内戦が勃発し、

それに巻き込まれた〝先帝〟種族も滅亡して、

帝国は崩壊の危機に直面してしまったのです」


挿絵(By みてみん)


「この事態を受けた私達は、

良識ある軍事種族も含む友好種族と共に帝国を救うべく、

〝先帝〟からの亡命者・避難者の方々にも指導を仰ぎつつ、

人類の皆様を含む様々な種族にご助力をお願いしました」


実を言うと、そのあたりの経緯(いきさつ)については

色々な噂が流れている。

〝先帝〟種族は銀河帝国を建設しただけあって、

極めて有能かつ峻厳(しゅんげん)な軍事種族だった。

そのため、戦前から故郷を逃れていた〝先帝〟亡命者達が

腐敗種族間の衝突を誘い、淘汰を図ったという説も聞く。


挿絵(By みてみん)


だがその内戦では〝先帝〟種族自身の母星も破壊され、

一時は帝国の存続すら危うい状況になっている。

何より側近種族達の専横と対立はあまりにも酷く、

当時の誰の眼にも明らかだった。

そうした事情から、遅かれ早かれ大規模な内戦は

不可避だったろうというのが大方(おおかた)の意見だ。


「ただ私達は文明を支援するため、〝先帝〟を(かたど)った

神を中心とする神話で悪役を演じたこともあったので、

皆様は突然現れ、伝説の悪魔にも似た異星生物である

私達を恐れました」


挿絵(By みてみん)


それに加えて旧帝国派種族の破壊工作などもあり、

確かに当時の世界は大混乱となった。

もっとも私のようなSF愛好家(ファン)から見ると、

神や悪魔は異星人だった!という設定は

世界的な名作小説でもお馴染(なじ)みのものだった。

おまけに彼女達の種族の基本形態は、

同時に知られた他の多くの種族と比べても、

意外なほどに私達と化学・生物学的な親近性があった。


「しかし、そんな私達の願いに対し、

証拠に基づき真実を確かめた皆様は、

過去からの偏見という呪縛(じゅばく)にとらわれず、

誠意をもって私達に協力してくださいました」


挿絵(By みてみん)


彼女の切実な感謝のまなざしに、

私は一層こそばゆい気持ちになった。

彼女達のコウモリの翼が生えた猫のような姿と、

実は善良・温順で献身的な性格は、

ファンタジーの読者を初め多くの人々からも、

悪魔というより使い魔みたいでむしろ可愛い!と

人気を(はく)したほどだったからだ(笑)。


挿絵(By みてみん)


「最も成功した若き種族の信頼を得た私達は

さらに多くの種族から支持を受け、

平和の回復だけでなく、劇的な国家復興も

果たすことができたのです」


私が生まれた日本には、「泣いた赤鬼」という童話がある。

心優しい赤鬼が人間と仲良くなれるよう、

親友の青鬼が悪役を演じるが、

青鬼自身は去らねばならなかったというお話だ。

子供の頃に読んだ私は思わず泣いてしまったが、

世の中の難しさを教えてくれる話だった。

だから戦争終結の報道(ニュース)を見た時は、

何だか青鬼が報われたような気がして、感慨深かった。


「また、皆様の惑星政府は帝国全体の模範となり、

多くの種族に民主政体が広まったので、

ついには帝国中央政府自体も、

帝政から民主制への移行を決定できました」


挿絵(By みてみん)


まあ帝国の民主化について言えば、

それは自然な成行きだったのだろうと思う。

なぜなら、技術が進むと社会活動は

拡大・省力化する一方で、複雑・加速化する。

となれば政策も変わり、必要な時は大勢が動くが、

衆知も活かせるようにならざるを得ない。


つまり政策は、国家発展や国際化など広域化すると共に、

民主化・自由化、地方自治、人権増進など分権化する。

上下を問わず国民の政策的素養(リテラシー)、いわば民度を高めたうえで、

人的役務(サービス)さえも代行できる技術を使い、

皆でどんな社会を作るかを考えるのが仕事になりゆく時代に、

奴隷や遊民を増やしても国家的自滅行為にすぎないからだ。

〝平民に読み書きなんぞ必要ない!〟とか言ってたら、

工業社会や情報社会は作れないだろう。


広大な星間帝国ではそれが一時的に退行しただけで、

実は彼女達もそれを知っていたのではないだろうか。

統一国家を確立できたら分権化も再開するため、

人類を〝お手本〟に見立てたのかもしれない。


挿絵(By みてみん)


「さらに、人類が政策的にAI世代の諸技術を導入して

文明の持続的発展を達成したのも、偉大な功績です。

人工知能を中心とした新素材・動力(エネルギー)や知能ロボット、

生物工学、大規模情報(ビッグデータ)処理、先進医療・教育などの技術は、

原動機(エンジン)電算機(コンピュータ)などの人工物を自然や人心に親しませ、

人体のような自然物を機械のように修復・改善できる、

体内含めた自然・社会環境に優しい〝環境親和技術〟です。

AI時代の技術は〝人工物と自然物の間の壁〟を取り除き、

双方の()いとこ()りで持続力を高めて、

全ての政策分野の課題解決に役立つことにより、

文明の持続的発展を(かな)えました」


挿絵(By みてみん)


政策の次は技術の話か……新帝国の〝売り〟(セールスポイント)と言われる、

技術と政策を文明社会の両輪とした文明理論、

〝技術なくして文明発展なし、

政策なくして健全発展なし!〟というやつだ。


「それにより皆様を見守っていた私達もまた、

星間社会ではより大きな〝種族間の壁〟を取り除き、

持続的発展を実現することの重要性に

気づくことができました。

そしてこの発見こそが、量子頭脳の遠隔接続や

共用量子頭脳、共通個体規格、自然個体の向上

といった〝種族間親和技術〟の導入による、

現在の目覚ましい新国家の繁栄を導いたのです」


挿絵(By みてみん)


AIなどの導入にしても、文明発展の歴史からみると

必然の流れだったのではないだろうか。

惑星資源・環境の限界、経済・社会の複雑高度化、

健康低下と教育難度上昇、制度変更の加速化……

文明が発展するほど、新たな社会課題も増える。

だから、ある技術段階で利害調整政策を極めたら、

その限界を越える新技術導入政策が絶対必要になる。

彼女達はそのことも、私たち以上に分かっていたはずだ。


なにしろ後になって、惑星文明における農耕、動力機関、

電算機やAIといった画期的技術が、

星間文明での惑星開拓、高次元動力、人格量子化や

種族間融和にあたると聞いた時は、私達人類も驚いたものだ。

言われてみれば、それらの技術は実際、

物質利用による地域・宙域文明の成立、動力(エネルギー)利用による拡大、

情報利用による効率化、技術と環境の融和による持続化と、

ちょうど平行的(パラレル)に進歩している。


挿絵(By みてみん)


なんとそれらは全て、〝モノを作って分けたなら、

ヒトも高めて活かしましょう!〟という順番で、

文明発展により増えていく課題をまとめて解決し、

次の時代を(ひら)ける技術だったのだそうだ。

技術開発の必要性や可能性の予想は難しいが、

技術の難易度や社会の動向、

惑星・銀河など環境限界との関係から予測できれば、

政策の立案に大きく役立つ。

幾多(いくた)の文明を見守り、支援してきた種族なら、

必ずやそうした事実に気づいていたに違いない。


「皆様の素晴らしい貢献にも助けられ、

今や帝国はアンドロメダ銀河をも含む銀河間国家に発展し、

知性がもたらす文明の光が(あまね)く行き渡る、

輝かしい繁栄を謳歌(おうか)するに至っています」


挿絵(By みてみん)


旧帝国の残党はアンドロメダ銀河に逃亡し、

その一部を占拠して銀河系への反撃を(くわだ)てた。

だが逃亡政権の強権統治は先住種族達の抵抗運動(レジスタンス)を招き、

種族の育成と自治を重んじる新帝国への参加を促した。


そして以降も新帝国側種族の懸命な努力は続き、

ついには逃亡政権の降伏と、

二大銀河を含む局所銀河群(ローカル・グループ)の統一という形で実を結んだ。

悲劇的な内戦は、ようやく終結を迎えたわけだが……。


「以上から特に本年、次のようなお知らせが

できることは、私達の最大の喜びです。

すなわちここに私達、旧帝国の文明開発長官にして

新帝国皇帝である種族サタンは、

理事種族アスモデウス、アスタロト、ベール、

バールゼブル及びアモンの賛同を得て、

このたび量子頭脳への人格移転を達成した人類を

最先進種族と認定し、大いなる感謝と祝福を表明します」


挿絵(By みてみん)


やれやれ、とうとう私達も悪魔の仲間入りか。

とはいえ人類の方でも大喜びのお祭り騒ぎで、

むしろ彼女達を新たな大天使に叙任しよう!

という動きまであるという(笑)。

それだけ〝不老不死〟社会への移行開始や、

星間社会での地位向上への期待は大きいのだろう。


挿絵(By みてみん)


まあ彼女達は異星種族なので、爬虫類人(レプティリアン)鳥人間(バードフォーク)

昆虫人(バグフォーク)合成体(キマイラ)さらには大陸規模(サイズ)の集合意識生物と、

姿形(すがたかたち)も文化も多様性を極める。

お互い様だが、昔の人なら百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)と恐れたかもしれない。

しかしいずれも政策面では、自由と公正、平和、

民主主義といった新国家の理念を支えてきた立派な種族達だ。

しかも彼女が言うように、新技術のおかげもあって

種族間の壁は急速に取り払われつつある。


そもそも彼女達は〝先帝〟を神に見立てた神話で悪役を演じ、

人類など多くの種族の文明化を助けた、いわば功労者であり、

実際には〝神〟の最も忠実な臣下だったともいえる。

また、善悪二元論の神話が採用される以前には、

発展途上にあった我等の地球や他の星々において、

より古い多神教神話の神々を演じていた連中も多い。


挿絵(By みてみん)


「これにより人類の皆様は、帝国議会の被選挙権と共に、

理事種族への選任資格も獲得されたことになります」


さらに考えてみると、こうした多種族共生の流れは、

まだまだ〝新参者(しんざんもの)〟の人類にとっても、

〝古き種族(もの)〟達と同等に扱ってもらえるという点で、

有難い話でもある。


挿絵(By みてみん)


それはまた、ある意味では必然ともいえる

成行きだったのかもしれない。

なぜなら昔、イスラエルのY・N・ハラリという

歴史学者が次のように語った。

「人類は高い技術を得れば、神や悪魔に近づく。

どうせなるなら〝責任ある神〟になるべきだ」と。


そして今、神や悪魔や人間、異星人の区別がなくなり、

互いのために全てを活かせる時が来た。

かつては相互理解さえ不可能とされ、

破滅的戦争の理由にもなった種族間の相違が、

現在では万聖節前夜祭(ハロウイン)の子供達の仮装のように

可愛らしいものとなりつつある。


挿絵(By みてみん)


それ以前には日本のある作家が、

「争いは愛のないところに起きるのではなく、

愛が(さえぎ)られるところに起きるのだ」

とも語っていた。


しかし、高度な技術と政策のおかげで、

他の誰かを悪者にして一緒に叩いたり、

不運な誰かの犠牲を耐え忍んだり

しなくてもすむ時代が、やっと来た。

人道的手段で自分達自身を高めて活かすことにより、

「汝の敵をも愛」し、

「誰ひとり取り残さない」ことが

宇宙規模で実現可能になったというわけだ。


挿絵(By みてみん)


「偉大なる発展を遂げられた人類の皆様の、

今後の星間社会におけるさらなるご貢献と

ご活躍に期待いたします……」


全ての種族が尊重し合える普遍的な愛、

〝真なる愛〟の時代の到来だ。

もしもいるなら本当の神様だって、

きっと喜んでいるに違いない。


今日は地球暦の十二月二十五日。

彼女達が人類にもたらしてくれた

地球で最も有名な神話のひとつで、

救い主の誕生を祝う祝祭日である。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ