01深淵
エリザベスは足元に広がる深淵を見下ろし、その複雑な構造に目を凝らしていた。ダンジョンの迷路のような通路は、まるで彼女の心の中を映し出しているかのようだった。
彼女は手を伸ばし、指先から紫がかった魔力が漏れ出すのを感じた。その瞬間、ダンジョンの一部が彼女の意思に呼応するように変形し、エリザベスの目は驚きと興奮で見開かれた。
「なるほど...」
彼女は唇を噛みしめ、ゆっくりと階段を降り始めた。ドレスの裾が石畳を引きずる音が静寂を破り、ダンジョンの奥へと進むにつれ、エリザベスの中に新たな感覚が芽生えていった。
周囲の空気が変化し、冷たく湿った空気が彼女の肌を撫で、かすかに響く水滴の音が耳に届く。
やがて、彼女の前に大きな広間が現れた。天井は高く、壁には不思議な文様が刻まれている。中央には、巨大な水晶が浮かんでいた。
「これは...」
エリザベスが水晶に近づくと、その表面に映像が浮かび上がった。王宮の様子、街の風景、そして彼女を裏切った王太子と男爵令嬢の姿が映し出される。
「ふむ、これが私のダンジョンの核なのね」
彼女は水晶に触れ、全身に電流が走ったような感覚を覚えた。ダンジョン全体の構造が、彼女の頭の中に鮮明に浮かび上がる。
「さて、どうしましょうか...」
エリザベスは思案に耽った。このダンジョンを使って、どのように復讐を果たすべきか。直接的な危害を加えるのは賢明ではない。むしろ、彼らの本性を暴き、社会的に追い詰めていく方が効果的だろう。
「まずは、情報収集ね」
彼女は水晶を操作し、王宮内の様々な場所を覗き見始めた。王太子の日々の行動、男爵令嬢との密会、そして彼らの周囲の人々の反応。全てが彼女の目に焼き付いていく。
「面白いわ...彼らの秘密、全て暴いてあげる」
エリザベスの唇に冷酷な笑みが浮かび、彼女は水晶から離れ、ダンジョンの別の場所へと向かった。そこには、彼女の計画を実行するための準備が必要だった。
「さあ、幕を上げましょう」
彼女の声がダンジョンの闇に吸い込まれていく。エリザベス・フォンテーヌの復讐劇は、静かに、しかし確実に動き出していた。彼女の心には、もはや迷いはなかった。
ダンジョンの力を駆使し、彼女は新たな運命を切り開く決意を固めていた。