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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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シャワーブースの影

休憩に書きました。

その日私は夜の8時くらいまで残って泳いでいました。

大会が近く、少しでも長く練習をしたかったのです。

季節は真夏でしたがさすがにとっぷりと暗く、大きな採光窓の外には深い闇が広がっていました。

私はプールから上がり、シャワーブースへと向かいました。よく小学校とかであるようなカルキを洗い流すためだけのものではなく、ちゃんと体を洗えるように男女で別れ、半個室になっているものです。

私のほかにも何人か残って泳いでいましたが、全員男子でした。つまりシャワーブースは貸切というわけです。電気をつけ、一番奥の少し広いブースに入ります。

ここは他の人がいるときには大抵使われているか先輩に譲らなくてはなりませんが、一人なので今は気兼ねせずに使えます。

温度を調節してザーッとお湯をかぶり、水着を脱ぎます。シャンプーを髪につけて泡立てたところでふと何かの視線を感じて後ろを向きました。視線の先にはしっかりと閉まった個室の扉だけです。当然のことながら他には誰もいません。

よくシャンプーをしていると誰かに見られている気がするといいます。つまりは気のせいです。おそらくこれもそうだろうと思い、頭を洗って流し、顔を洗います。顔を流すためにシャワーに手を伸ばすとそのずっと手前のところで何かに手が触れました。

プラスチックでもゴムでもない。ざらりとした人の肌のように感じられました。

驚いて手を引っ込め泡を拭って目を凝らします。何もいません。当然です。

いくら一番広い個室といえどこんな狭いところに誰か入ってきたら分かりますし、そもそも一体誰が入ると言うのでしょうか。

そうきっと気のせいなのです。ですが、妙にリアルな感触を反復せずにはいられませんでした。

そういえばこの学校にはお化けが出るとかでないとか、まことしやかに語られる七不思議があるだとか。そんな話を聞いたことを思い出しました。

怖い。本当かどうかは分からないが、さっさと身体を洗って出てしまおう。そう思ってボディーソープを手に出すとその上にボタボタと赤黒い液体が落ちてきました。

シャワーブースはひとつひとつの個室にきちんと灯りが入るよう計算して電灯が配置されてします。だから個室はどれも明るいはずなのです。

しかし気がつけば、その赤黒い手のひらには薄暗く影がかかっていました。

そうです。その電灯の光を遮る何かが上にいるのです。

全身の毛穴が泡立つように縮み上がります。大声を出して助けを呼びたいのに喉が詰まって声が出ません。手がガクガクと震え、噛み合わない歯がガチガチ音を立てます。

どん、と背中が個室の扉に当たりました。

声が出ないのです。とにかく外に出なければ、外に出て助けを呼ばなければと思いました。

私は震える手でかんぬきを外しにかかりました。手が言うことを聞かず、うまく外れません。やっとの思いでかんぬきが外れ、私は裸のまま勢いよく扉を開けて外に出ました。

すると扉が開いた衝撃で何かがドサッと目の前に落ちてきました。

落ちた衝撃で吹き出した血が私の足元にかかりました。その何かは太く柔らかそうな身体を細い手足で支えており、ズルズルとムカデが身を引きずるように体勢を変え、こちらに向き直りました。顔はありません。全身が黒く焼け焦げ皮膚が溶け、血や膿が吹き出しています。ヒューヒューという苦しそうな音はこの生き物の呼吸音なのでしょうか。

その生き物は細い腕をこちらに伸ばし、ズルズルとにじり寄って来ます。

出口はこの生き物の遥か後ろです。恐怖のあまり私の喉からはヒューヒューという空気の抜ける音しかしません。

私はそのまま過呼吸になり気を失ってしまいました。

ちょっと休憩しすぎました。夕方から頑張ります。

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