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自分の物語を創る条件

作者: 二藍

[キミのやりたいことは?]


自分の物語は創れるものなのだろうか?


昔から親の期待は重かった。「あれになったらいいわね」 なんて不確定なものだったけど、自分にとっては重いものだった。


昔から続く名家の一族。昔は忍者として栄えたんだとか。

今でもその文化は続き、忍者の術を幼い頃から染み込ませられる。

その中でも僕は出来損ないだった。


自分の物語なんかは知らない。


親に逆らえば、悲しそうな顔をされる。

あれは子供を無意識のうちに束縛していたのだろう。

僕には期待しないくせに思い通りに行かないと納得しない。


ある日外で手毬遊びをしていた。

リンリンと鳴る鈴の入った手毬だ。

イキイキしく緑の葉は風が吹くたびに大きく鳴る。お茶に入れた氷かカランと音を立てて割れていく。陰で口をたたかれる。

そんな風景に溶け込むかのように、僕の顔は溶けていった。


コンコン

ドアから木製を叩いた時の音が漏れた。そのあと一泊おき女性の甲高い声が少し曇り聞こえていた。

「総柱様が呼んでおります。」

「わかった今から行こう」

と僕は椅子に手をかけ立ち上がった。

総柱、それは僕の父上にあたる。この家を管理する役割のものの呼び名だ。

ドアを開ける。この押入れのドアを。


長い廊下を歩いた先。威圧感のある大きな襖。

いつもよりも大きく感じる。

唇を軽く噛む。手を握り大きく深呼吸をする。そして声をあげた。

「父上、失礼します」

短くあげた声はどこか震えていたように思う。


襖を開けた先から見えた景色は筆を休ませた貫禄のある男が座っていた。

「お前に話がある」

「……」

「お前を忍者の一族として国家に捧げる。誇りに思え。」

「はい、父上」

「明日にでも行ってこい」


国家に捧げる。それは日本が昔から退治する妖の専門部隊に送られるということだ。

誇りに思えなんて何を言っているのだろうか? 死にに行けというのと同じことだ。

それと同時にこの家からいなくなれと言われる。この一族ではないのだと。

でもあの有無を言わさない顔と圧の前では逆らえない。


長い廊下。

何を持っていこうかと考えるも、そんなにものがないことに気づきため息を床に溢した。

コソコソと笑う使用人と兄弟達。

「あんな見た目じゃなかったらね」

と聞こえる声。僕の背中には大きな紋章がかかれている。これが何なのかは誰にもわからない。

また押し入れに戻り僕はすぐさまにも家を出た。家から逃げるかのように。


見慣れた天井も廊下も何も感じなかった。

僕が肩にかけたバックからは『リン』と小さな音が聞こえた。

「さようなら」

僕の小さな呟きは誰にも掬われることなく風と共に流れていった。


冷たいこの家に帰っていくることはもうないだろう。


僕は家から指定された家に向かう。ボロアパートだったけど今までよりは部屋も広い。

それに心を休められそうだ。


国家に捧げれた後は学校に行かなければならない。知識をつけるためとかの理由で。

「ここか?」

僕は地図を眺めながら首を傾げた。はじめて世間に出て気づいたが僕は方向音痴らしい。やっとの思いで目的地らしいところに着いた。なんかゴツい。


「おっと、ごんね〜」

どかっと背中には何かが当たった。

振り返るとバックに沢山のキーホルダーをつけ、手にはネイルがバチバチな人が立っていた。でかくないか?

「はい」

反射的に返事をする。

「見ない顔じゃん!キミが新入生?」

新入生……ここで会っていたらしい。

「た、多分」

「おっ、ヨロシクね〜。私は識名(しきな) 華穂(かほ) 一応、剣士の末裔」

「あっ僕は、月末(つきま) 秋夜(しゅうや)です。忍者の末裔ですね」

「おけ、シュウヤ」

「はい」


二人は歩き出した。

なんでコイツ隣を歩いているだ?

「キミも国家への生贄?」

「いっ生贄!」

「そっ、ここにいるのは家族から期待されなかった出来損ないだからね」

明るくいうことじゃない。

「そうですよね」

「でも例外もいるけどね。」

「……はははっ」

やばい凄い話しずらい。なんだろうこの人。


「そういやさ、やりたいことある」

「はぁ?」

「ちな私は妖の恋人を作る。」

「なんですか、それ」

「人生一回だからさ。誰もやらなかったことやってみたいんだよね。自分の人生だし」


とニカッと笑う華穂の瞳は未来を見ていた。

一回の人生、自分の人生。

僕の心の中で言葉が反響する。ジンジンする。

僕はやりたいことがなかった。親に制限されていた。

だけど一族から見放された今なら?

好きなことができるのではないか?

とりあえず今は返事をしなければ。


「ないです」

「そっか」

「なら一緒に探そう!」

「えっ?」

「宇宙の果てまでついていってやんよ。キミのやりたいこと探しに」


この人はなんなのだろう。相手の心の中に勝手に椅子を置き勝手に座っている。

そして欲しい言葉をかけてくれる。


「あ、ありがとうございます」

「じゃあ、死なないようにしないとね」

「たしかにですね」

あれこれ文おかしくないか?


と二人は笑いながら教室へと向かった。


「ここですか?」

「うんっ」

流石金がかかっている。

何か見た感じは普通の教室? だが、全体的に光っている。

「おはよう!カックン」

「おは、ナタ」

と挨拶してきたのは明らかに獣人族だった。

「この子は?」

「あー転校生のシュウヤ」

「こんちには」

「おー、よろしくな」

「私、コイツのやりたいこと探すの手伝って」

「いいぞー」


さっきから思っていたがコイツらはなんなんだ? 人の心に土足で上がってくる。

でも、嫌な気はしない。

コイツらは僕のやりたいことを、他人のやりたいことを探してくれる。

もしもコイツらなら、ここならば自分の物語を作れるかもしれない。


自分の物語を創りたいならそれに適した環境と仲間が必要なんだな。

僕は一つ学んだ。


「どしたの〜、シュウヤ」

「なんでもないよ!」


ああ、この場所は暖かいな。

僕の口角は少し緩んだ。

こちらで『自分の物語を創る条件』は終了となります。同じ設定でいつか長編を書きたいです。

読んで頂きありがとうございます。

反応して頂けると活動の励みになりますので気軽にして行ってください。

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