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4. 最前線へ

ギルとルチアは、いつもの様に研究所のエリア99でお留守番をしていた。

今日のノエルとヴァネッサは軍令本部参謀部への出勤日であった。

研究所と参謀部は歩いて行ける距離にあるが、極秘存在であるギルとルチアが、軍令本部に立ち入ることはない。

なので、研究所エリア99での二人の日常はと言えば・・・。

ギルは研究所にある怪しげな素材やら機械部品やらをかたっぱしからいじくり回し、更に訳わからない装置やら武器やらへの魔改造に明け暮れている。

既に原型を留めず当初の利用目的からも大きく逸脱したギルの作品群に、研究所の科学者達のある者は盛んに首を捻り、ある者はひたすら頭痛を堪えている。

エリア99室内に彼らのひそひそ話が聞こえてくる。

「これ・・・発想はすごいと思うが、クローンやアンドロイドでは操作不能では?」「この兵器の出力、理論上は小惑星破壊レベルみたいだが、動力にシルマリルが必要って・・・」

ギルが暇に飽かせて作り上げるガラクタ装置や武器の数々は、大半がノエルによって(当然ながら)却下されていた。

一方のルチアは、ギルの暇つぶしには興味を示さず、ひたすら運動ジム瞑想いねむりを繰り返して過ごしていた。

今回も夢とうつつのはざ間で何やら考えていた風のルチアが、突然目を開いてギルに話を振って来た。

「ねえ、ギル。あたしは西が怪しいんだと思うけど・・・」

いったい全体突然何の話かと言えば、どうやらルチアの仲間を捜す話だったようだ。

「・・・どうして?」

ギルは戸惑いながらルチアに理由を聞き返す。

待ってましたとばかり、ルチアが勢い込んで話し出した。

「こっちに来てからあたしね。ずっとネンヤの記憶を探ってたんだけど・・・。ネンヤが言うには、ずっと昔”ガラドの奥方様”がローエンを去る時に”西に向かう”って言い残したんだって。だからさ、あたしの仲間がいるとしたら、それは絶対に西なんだよ!」

ルチアが自信たっぷりに、びしっとマリーエンの西を指さしてドヤ顔をする。

まさに名探偵ルチアかくやの顔である。

「・・・ねえ、ルチア。ちょっと聞きたいんだけどさ。・・・宇宙空間に出てさ、西っていったいどこを指すのかな?」

ギルの問いに、ルチアが自信たっぷりの笑顔を引きつらせ、そのままの姿勢で固まった・・・。

その通りだった。

宇宙空間座標には東西南北はおろか上下すらなかった。

本日も愉快すてきなルチアちゃんである。


そうこうするうちに、ノエルとヴァネッサが参謀部からエリア99に戻って来る。

「ギル、ルチア。話がある」

ノエルが早速二人に話を切り出した。

「軍令本部は、君たちを前線に投入する気だ。まだ早いとオレは思ったが・・・捨て置けない気になる情報もある」

「それはどこにあって、気になる情報って何なの?」

ギルが尋ねる。

ヴァネッサがノエルに代わって説明を始めた。

「ロタリンギア領との紛争最前線で、場所はエレギオンと言う惑星なの。気になる情報と言うのは、そこが元ロスト・コロニーで"デュナダン"と言う先住人類種が、"シルマリル"と言う貴重な戦略的鉱物を採掘している場所ってことね」

「100年紛争の最前線か・・・」

ギル(ベリル)が納得の声を出した。

一方ルチアは(正確にはネンヤであるが)"デュナダン"と"シルマリル"と言う単語に反応した。

「デュナダン族・・・。シルマリル・・・。"シルマリリオン!"あたしそれ知ってる!」

ルチアが突然大きな声を上げた。

「・・・どう言うことだい?」

ノエルが冷静にルチアに対し説明を求める。。

ルチアがネンヤの記憶を元に、少しずつ話を始めた。

曰く、エルフ達がまだこの世界にいた頃、ドリュアードと同じ様にエルフ達を守護する部族がいて、その一つがデュナダンと呼ばれたこと。

曰く、シルマリルは、その地にいたエルフ達が作り出した不思議な鉱物で、生命を宿す不思議な鉱物であったこと。

曰く、エレギオンの鉱山のどこかに、今もおそらくシルマリルの"核"である"シルマリリオン"が存在すること。

曰く、そしてデュナダンの中に、きっとルチアの仲間が隠れていること。

「奥方様は言う。デュナダンがエルフなのではない。"シルマリリオン"を宿したデュナダンこそがエルフであるのだ」

最後のルチアの発言はネンヤのものであった。

ルチアの説明を聞いたノエルは、再びギルの方に向き直る。

「ギル、君はどう思う?たぶん危険度はかなり高い。あそこには、ナズグルと言う強力なクローン兵部隊がいる。マリーエンブルクはそいつ等のせいで、これまでずっと苦戦していた」

ノエルはギルに返答を求めた。

「ナズグルってどんな存在?」

ギル(ベリル)が尋ねる。

「ナノサイズの量子コンピュータ集積AIをクローン本体に埋め込んだ新型クローン兵で、人による操作を必要としないロタリンギア自慢の特殊部隊だ。エレギオン防衛専用部隊として9機が配属されている。ナノ量子戦術AIはベリルと同様にシルマリルを基幹素材としている。普通のアヴァタール部隊じゃとても対抗できないし、ゴライアスみたいな人型機動戦術兵器であっても分が悪いかな」

ギルはノエルの説明を聞きながら、ベリルと交信しつつ自らの考えを纏める。

「それでも・・・行くしかないと思う。そこでしか見つからない物があるとベリルが言ってる。・・・ルチアはどう?」

「あたしはいつだって、どこへだってあんたと一緒に行くよ。例えどんな危険が待ってるとしてもね。ネンヤも言ってる。あたし達の願いは恐らくその先でしか叶わないと」

寸部の迷いもなく、ルチアが笑顔で即答した。

「・・・じゃあ決まりだな。オレたちはみんなでそこへ行く。ギルはともかくとして、ルチアにはなるべく危険が及ばないよう、万全の準備で臨もう。オレは参謀部に移動を連絡する。ヴァネッサは詳細な作戦計画の立案を検討してくれ」

ノエルが全員の顔を見回し、エレギオン戦線への出動を決定した。


ノエルが参謀部への連絡のために席を外した後、ルチアがヴァネッサにデュナダン族の現況を尋ねる。

「デュナダン達は今どんな状況にあるの?」

「・・・彼らは、今はロタリンギアの奴隷として、ずっと鉱山地区に閉じこめられている」

ヴァネッサが言いにくそうにルチアに答える。

「なぜ!?ロスト・コロニーは先住民保護区じゃないの!?」

ローエンとの違いに憤るルチアに、ヴァネッサが説明をする。

「必ずしもそうじゃないの・・・。ロスト・コロニーが保護区指定を受けて他領に中立地帯として認められるのは、そこに大した価値が無い場合が通常なの。帝国科学アカデミーはロスト・コロニーへの軍事的な干渉を嫌がるけど、彼らには政治的な力がない。星系領関係者の皆が合意しなければ保護区は設置されない」

「エレギオンには星系領主なら皆が欲しがるシルマリルがある。シルマリルがそこにあるので、ロタリンギアはエレボール鉱山を占領し、デュナダンを奴隷にして留め他領に渡らないようにしている」

そうヴァネッサは、星系領とエレギオンとの特殊な事情を語った。

「ひどい!!デュナダン達には、自分たちの未来を選ぶ権利はないの?」

ルチアは激高している。

だがヴァネッサは冷静に応じた。

「あなた達が、彼らの現状に納得出来ないのはよく理解できる。本当にひどいことだとわたくしも思う。でもこの世の中には、信じられないような理不尽な現実が沢山ある・・・」

彼女は続ける。

「現実を追認しなさいとは言わない。わたくしだってそんな現実なんて認めたくない。・・・だけど理不尽な現実に立ち向かうつもりならば、ロタリンギアや他領だけでなく・・・ひょっとしたらこのマリーエンブルク領さえも、・・・黙らせるだけの力がいずれ必要になるのかも知れない。・・・二人とも、どうかそれだけは覚えていて」

ヴァネッサが慎重に言葉を選びながら、真剣な顔で自身の考えを二人に語った。

それまで沈黙していたベリルが、突然ギルの口を借りて話し始めた。

「・・・理想を貫くには、理想を実現させるだけの力がいる。力なき理想は、それがたとえ正義であろうと、どんなにすばらしい理想であろうと、結局は空想でしかなくそれは虚しい。空想では・・・理不尽な現実に立ち向かうことなど出来ないし、結局誰も救うことは出来ない」

ベリルの言葉に、皆しばらくのあいだ無言だった。

「じゃあ・・・あたしは。必ずデュナダン達を解放してみせる。どんな壁が立ちはだかろうと、誰が行く手を遮ろうとも、・・・きっとその力を掴んで見せる」

ルチアが静かに決意を込めて呟き、ギルも無言でそれに頷いた。

いつの間にかノエルが部屋に戻っていて、静かに今の話を聞いていた。

「・・・ギルが安住の地を見つけること。ルチアが仲間を見つけて助け出すこと。そのどちらも実現させるためには、オレたちは今以上に色んな意味で強くあらねばならない。現在の秩序をも変えうる力がオレたちにあることを示して、他の奴らを納得させる必要があるんだ・・・」

「戦いは・・・たとえそれが本意では無くとも、理想を貫こうとすれば戦いは避けられない。理想の世界とは結局自らで勝ち取るしかない。これからオレたちが向かう場所は、敵とオレたちが、互いに現実と理想をぶつけ合う・・・そんな戦場なんだ」

ノエルが静かに全員に告げる。皆が静かに頷いた。


こうしてマリーエンの四人組は、それぞれが秘めた思いを胸に、惑星エレギオンの最前線へと旅立って行った。

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